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(もしかして、僕の食べ方が見苦しかった――?)
最初に思い当った可能性に、僕は顔からサーっと血の気が引くのを感じた。
サンドイッチを持ったまま固まる僕に、エカードさんが「悪い!」と慌てたように謝罪の言葉を口にする。
違う。悪いのは僕だ。僕がいるだけで、この空間は葬儀場みたいなものだろうから。
「すみません。僕の食べ方、見苦しかったですよね」
身体を縮めて言うと、エカードさんは目を見開いた。
「違う!」
彼はやっぱり優しい。僕みたいな羽虫くらいの存在に気を遣ってくれているんだから。
「ただ、そうだな。お前の一口があんまりにもちっさいなぁって思っただけだよ」
頬を掻くエカードさんは言葉を付け足す。
一口が小さい。
「そうだな。なんだ、小鳥がついばんでいるのかってくらいだ」
キリアンさんもぶっきらぼうに同意する。僕の一口は小さいわけではないはず。
「僕が小さいというよりは、みなさんが大きすぎるだけのような気が」
先ほどのキリアンさんの豪快な食べっぷりを思い出して、僕は零した。
すると、エカードさんが声を上げて笑い始めた。僕とキリアンさんは驚きつつもエカードさんを見つめる。
「いやぁ、ジェリーは自覚がないみたいだな。浮世離れした儚げな美人さんだ」
「美人だなんて、そんな……」
エカードさんは口が本当に口が上手い。僕は醜い容貌をしていて、見るに堪えない顔立ちだ。
僕自身この顔を隠したくて、目元が見えないようにと前髪を伸ばしているくらいだから。
「その前髪は上げたほうがいいと思うよ。そっちのほうが可愛い」
「か、わいい?」
生まれて二十年。一度も言われたことのない単語に僕は放心する。
可愛い? 僕が? 羽虫以下の存在の僕が?
「エカード。コイツ、固まってるぞ。さすがに男に可愛いはマズイだろ。不快になる」
キリアンさんが僕の態度を違う意味に解釈した。違う。全然不快になんてなってない!
「ち、違います! ただ可愛いなんて言われたことがなくて――!」
首を横に振って、僕は自分の気持ちを言葉にする。
不快になったわけじゃなくて、驚いただけだって。それが伝わったらいいんだけど。
「そう? 美人とか可愛いとか、言われないか?」
「言われたことありません! 一度たりとも!」
必死に否定を繰り返した。だって、僕のせいでエカードさんの美醜感覚がおかしいなんて思われたら申し訳ない。
「僕はそこら辺の羽虫以下です! だから可愛いとか、きれいとか。そういうのと僕は縁遠いです!」
首を横に振り続けて、僕は言う。今度はエカードさんが驚く番だったらしい。
でも、彼はすぐに僕に痛々しいものを見るような視線を向けてくる。
「なんだろうな。自己肯定感が底辺というか、地面にめり込んでいるというか」
「はい、もう地層の奥深くにめり込んでいます……」
師匠にもよく指摘される。
だが、自己肯定感なんてものは幼少期に培われていくものだ。僕はすでに二十歳。今更培うことなんて出来ない。
「独特の言い回しだな」
エカードさんが頬を引きつらせている。彼を一瞥したキリアンさんは、「はぁ」と大きなため息をつく。
「別に自己肯定感が地面にめり込んでいようが、地層の奥深くにめり込んでいようが。実力さえあればいいだろ」
「そりゃそうだけれどさぁ」
「俺らは仲良しこよしをするわけじゃないんだ」
キリアンさんの言葉の冷たさが、まるで距離をおきたいと言っているように聞こえる。
そうだ。彼の言うことは正しい。
「そ、そうですよね」
わかっている。わかっていたけど、どうしてか気持ちが沈む。
お二人の人柄について、不安ばかり募っていた。ただ、話してみると案外フレンドリーというか、面白い人たちだった。
だから、僕は勘違いをしてしまったんだと思う。――もしかしたら仲良くなることが出来るかもって。
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