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あの後、場は一旦解散となった。
旅の立て直しということで、僕は治癒に使う道具を買い足すことに。
(治癒魔法を使うほどでもないときは、普通に治療したほうがいいもんね)
宿から少し離れたところにある大きめの通り。宿の人曰く、ここなら大体のものは売っているということだった。
「そもそも、治療に使う道具ってどこに売ってるんだろ?」
ぽつりと言葉を零してしまう。
雑貨屋とかなんだろうか? それとも、治癒道具の専門店でもあるんだろうか?
……まったく、わからない。
「とりあえず、適当に歩いて――」
それっぽいお店を見つけたら中を覗いてみよう。
僕がそう思って歩き出そうとしたとき。後ろから「ジェリー」と名前を呼ばれる。この声にはとても聞き覚えがあった。
振り返って、僕は声の主を発見。彼を見つめる。
「キリアン」
僕の視線の先には仏頂面のキリアンがいた。
「どうしたの? キリアンも買い物?」
彼のほうに足を運んで、首をかしげて問いかけてみる。キリアンは「いや」と僕の言葉を否定した。
じゃあ、ここが目的地へと向かう通り道だったんだろうか?
「ということは、この通りを突っ切った先が目的地なんだね」
なんだろう。こういう風に話していると、本当に友人みたいだ。
感動を覚える僕をよそに、キリアンは首を横に振る。
「目的地なんてない」
「え」
「というか、今、目的地に着いた」
キリアンの言葉に僕は辺りをきょろきょろと見渡す。
ここが、目的地?
「えっと」
ここは大通りの入り口ってだけなんだけど。
不思議に思う僕を見て、キリアンが口元を緩める。彼の仕草に僕の心臓は一々反応するように大きく音を鳴らす。
「俺はお前を追いかけてきただけだ」
キリアンは僕の胸をとんっとたたいて言う。
――僕を、追いかけて来た?
え、もしかして。
「わ、忘れ物でもあったかな……?」
もしかしたら、僕は先ほどの場所に忘れ物でもしたのかもしれない。
不安になって手に持った小さなかばんを慌てて漁る。――必要なものは全部そろっていた。
「キリアン、僕のことをからかったの?」
ジト目になりつつ問いかける。まぁ、僕の場合は前髪が長いせいでジト目になっているのが見えないだろうけど。
「別にからかってなんてないぞ」
彼は僕の言葉を否定する。その後、僕の肩に手を置いた。優しくそっと、壊れ物でも扱うかのような触れ方だ。
キリアンが僕の耳元に自身の顔を近づける。動きの滑らかさに、僕は抵抗することを忘れていた。
「――俺を放って、一人でどこかに行くのは責任者失格だろ?」
甘くて、溶かすような。色気をまとった声でキリアンが囁く。
せ、責任者? いつから? 誰が?
「ぼ、僕は一体いつから責任者に……」
そもそも、僕はいったいなんの責任者なんだろうか。
僕、そんなのになった覚えはないんだけど!?
「責任者だろ。もしくは、俺を管理する管理人。あるいは保護者」
「は、はぁ?」
「それとも主と言ったほうがいいのか?」
意味がちっともわからない。
(責任者? 管理人? 保護者? 主?)
言葉の意味がまったくわからない。どうしてキリアンの口からこの単語たちが出てくるのかもわからない。
なにも言えない僕を無視して、キリアンは僕の手をつかんだ。
「ほら、行くんだろ。俺もついていく」
「あの……」
ちょっとは言葉の意味を説明してください!
僕の心の底からの叫びは、言葉になることもなくスーッと胸の中に消えていった。
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