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「こ、ここここれは僕の師匠のせいで……!」  あぁ、僕は一体なにを言ってしまったんだろうか。慌てて弁解する僕を見つめるキリアンの目は、温かい。  なんだか、気まずい。 「俺は別にいいけどな」 「ほぇ?」 「ジェリーに付き添ってもらっても」  彼が唇の端をにんまりと上げて、言う。  その表情があまりにも魅力的で、艶めかしくて。僕は頬に熱が溜まるのを実感して、そっと視線を逸らした。 「俺は基本的に医者にはかからないが、いざというときはジェリーに引っ張って行ってもらうか」  それはそれで、荷が重いような気がする。  でも、必要なときは僕がしっかりと引っ張って行こうと心に決めた。 「う、うん。そのときは、僕がひ弱な力で連れていきます」  ぐっとこぶしを握って宣言すると、キリアンは「はっ」と声を上げて笑う。  なんだろうか。少し、僕たちは打ち解けたような気がする。 「……楽しみに、してる」  かといって、それを楽しみにしないでほしい。  困ってしまう僕をよそに笑うキリアン。彼を軽く睨みつけていると、エカードさんが戻って来た。 「おうおう、二人して楽しそうだな」  彼がけらけらと笑って言う。楽しい、のかな? (ううん、間違いなく楽しい。キリアンとそれなりに仲良くなれて、嬉しい――!)  今まで同年代の友人なんていなかったし、人と関わることも極力避けていた。  そんな僕が、キリアンとそれなりとはいえ仲良くなれたのだ。これは大きな一歩、前進したと言っても過言ではないだろう。 「俺も混ぜてくれるか?」  エカードさんがキリアンの肩に肘を置いて、問いかける。  キリアンは鬱陶しそうにエカードさんの手を振り払う。 「嫌だな。お前は無理だ」  顔をぷいっと背けるキリアン。もしかしたら、また邪険な空気になってしまうかも……と思って、僕は慌ててしまいそうになる。が、エカードさんは「さみしいなぁ」とわざとらしい言葉を発するだけだ。あ、これ別に傷ついていないやつだ。 「大体、いつの間にかジェリーはキリアンのことだけ呼び捨てになってるし。……俺、独りぼっちじゃん」 「え、えっと」 「恋人に振られたばかりの傷心の男を独りぼっちにするって、ひどいと思わないか?」  た、確かにそれはそうかもしれない。  思案する僕を見て、キリアンが口を開いた。 「気遣いはいらない。この男は甘やかすとすぐに調子に乗る」 「別に調子に乗ってるつもりはないんだけど」 「ジェリーと仲良くならなくていい。こいつと仲良くなるのは、俺だけでいい」  当然のようにつむがれたキリアンの言葉に、僕は自身の頬に熱が溜まるのを実感した。 (こ、これが嫉妬、独占欲!)  主に恋人間である感情なんだろうけど、友人にも適応されるはずだ。だって、キリアンがそうだもん。 「って、お前らマジでいつの間にそこまで仲良くなってんだよ」  歓喜に満ちあふれている僕を見て、エカードさんが額に手を当てた。  どこか疲れているみたいだ。疲労回復のお茶でも淹れたほうがいいだろうか? 「と、まぁ。こんなふざけた話はおいておくとして」  エカードさんが一瞬で表情をきりりとさせ、僕とキリアンを交互に見る。  真剣な空気におされ、僕は息を呑んだ。キリアンはテーブルの上に頬杖を突いている。まるで、大したことはないとでも言いたげだ。 「諸々の件について、連絡は入れておいた。明日、このクリムシュに王家からの伝達係がやってくるそうだ。その伝達係の話を聞いて、旅の方針を考え直せということらしい」 「伝達係、ですか?」 「国王陛下や宰相、ほか大臣の意向などを伝えさせるために用意した役割だそうだ」  それって、言っちゃあなんだけど雑用じゃあ……。 「どう頑張っても伝達係が到着するのは明日になる。今夜は旅の立て直しと療養に専念しよう」  エカードさんは言葉を締めくくった。どうやらこの話はこれでおしまいらしい。  僕は首を縦に振る。キリアンに視線を向けると、彼はどこか遠くを見つめていた。  その目は美しいのに。どこか不安を煽るような目をしている風にも見えてしまった。

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