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あの後、僕とキリアンはエカードさんと合流をして、一旦体制を立て直すこととなった。
「もう少し行った先に観光街がある。本来ならば飛ばす予定だったが、寄って行こう」
エカードさんの提案にうなずいて、僕たちはクリムシュという街に立ち寄ることに。
クリムシュの付近には観光地がたくさんあって、それゆえに様々なお店があるそうだ。
「……まさか、王都を出てすぐに襲われるとはな」
宿泊施設に隣接しているカフェにて。僕たちは少しの打ち合わせをすることにした。
すでに宿屋の部屋は押さえていて、今日はここで一泊していく予定だ。
「そもそもあんな強い魔物が近隣にいると、騒ぎになっている……だろうが」
つぶやいたエカードさんが、窓の外を見る。にぎやかな街。誰かが魔物に襲われた――といううわさ一つなさそうだ。
「ただの偶然、だろうか。その割にはタイミングが出来すぎている」
額を押さえ、エカードさんがぶつぶつと言葉を漏らし続ける。
「あの、あんまり不確定なことは言いたくないんですけど」
手を挙げて僕が口を開くと、エカードさんの視線が僕に向いた。ちなみに、キリアンは元から僕を凝視している。エカードさんが話している最中もずっとなので、いたたまれない。
「あの魔物たちには、強化魔法の類がかかっていたんだと思うんです」
「強化魔法?」
「はい。状態解除の魔法をかけたら、弱体化したので……」
それに、あそこまでの異常な強さは自然発生するようなものではない。
(夜とかなら、ありえない話じゃない。でも、昼間からはおかしい)
もしかしたら、何者かが強化魔法を魔物にかけているのかもしれない。
ただ、その場合理由がわからないのだ。魔物を強化しても、いいことなんて一つもないだろうから。
「誰かが強化魔法をかけたということか?」
「……もしくは、この付近に魔物が強化されるようななにかが発生した、とか?」
温かいミルクの入ったカップを両手で持って、僕はつぶやく。
人の多い街自体には魔物が嫌う結界が張ってある。だから、街は割と安全。
問題なのは街と街をつなぐための道。荷馬車が魔物に襲われる事案だってあるわけだし。
「一応連絡をいれて、警戒してもらったほうがいいかもしれないな」
僕はエカードさんの言葉にうなずく。彼は立ち上がって、窓のほうに近づいた。懐から紙を取り出し、息を吹きかける。
あれは伝達魔法の一種。手紙とかよりもずっと早く届くから、便利なもの。ただし、魔力のある者しか扱えないのが玉に瑕だ。
「それにしても、キリアン。傷は大丈夫?」
僕はキリアンを見て、問いかけてみる。
キリアンの左肩は一応は治療してあるとはいえ、完全じゃないかもしれない。
血がべっとりとついた上着とシャツは、宿屋の人に洗濯をお願いしたからいいんだけど……。
「もし心配だったら、お医者さんに行く?」
治癒魔法は怪我には効果的だけど、病には効果がない。それゆえにお医者さんも必要なのだ。
それに、万が一傷口のせいで感染症にでもかかったら、僕じゃあ手の打ちようがないし。
「いや、その必要はない。きれいに治っているようだからな」
今のキリアンは近場で購入した薄手のシャツをまとっている。
彼の鍛えられた身体のラインが惜しみなく出ているせいか、さっきから女性の視線が彼に集中している。
やっぱり、精悍なイケメンってかなり人気があるんだなぁって実感。
「そっか。でも、なんかおかしいなって思ったら教えてね。僕、お医者さんまで付き添うから」
ミルクを一口飲んで言うと、キリアンがぽかんとしたのがわかった。
――あれ、僕、なにか変なことを言ったっけ?
「俺は成人した男なんだが」
「あっ、ご、ごめん、なさい! 別に子供扱いしたわけじゃないから!」
ついついいつもの癖でって……。
(師匠がお医者さんにかかるのをすっごく嫌がるから!)
だからついつい、僕にはお医者さんには同行するものという考えがあった。
全部、全部師匠のせいだ! もうちょっと大人になってほしい!
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