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(え――?)
僕は驚く。うっすらと開いた唇をこじ開けるように、口の中になにかが入ってきた。
(な、なななっ!)
ぬるりとした分厚くて熱いもの。それは、キリアンの舌だ。
キリアンの舌は僕の口内に入ってきて、容赦なく口の中をかき回していく。
逃げようとするのに、逃げられない。いつの間にかキリアンが僕の後頭部を掴んでいるせいだった。
「んんっ、ふぅ、ぅ」
息も絶え絶えになりながら、僕はキリアンから逃れようとする。もちろん、実際に逃げることが出来るわけがない。力の差は圧倒的だ。
僕の口内をキリアンの舌かかき回す。最後とばかりに僕の口の中に残っていた飴玉という薬をかすめ取った。
(――あっ)
僕の口からキリアンの口に移動した薬。この行動について、僕はすぐには理解が追い付かない。
理解できたのは、キリアンが僕から顔を離したとき。彼が飴玉のように薬をガリッとかみ砕いた音で僕は現実に戻ってくる。
「き、きりあ――」
「まぁ、それなりってところだな」
キリアンは僕のことを無視して、薬の感想を述べる。
「味は悪くないが、全体的に薄いといったところか」
彼が淡々と感想を述べている。僕はそれどころじゃない。
(き、キス、キスしちゃった……!)
しかも、深いほう! 挙句、口移しのおまけつきだ。
――ありえない。
(二回目、だよね。でも、気分は一回目なんだけど!)
少し前のキスは忘れようと必死だったのに。二回もキスされてしまったら、忘れることなんて出来そうにない。
視線をさまよわせる僕をよそに、キリアンはもう一度薬をガリッとかみ砕いた。彼の男らしい喉が動くのが、妙に艶めかしい。
「ジェリー?」
キリアンをぼうっと見つめていると、彼は小首をかしげて僕のことを呼んだ。
彼の声にはまるで先ほどのキス、口づけなんてなかったような雰囲気。気にしているのは僕だけだって、思い知らされてしまう。
「キリアンは、その。誰にでもこういうことを、するの?」
この余裕な態度はきっとそうに違いない!
彼は恋愛に興味はないみたいだけど、遊んできた可能性は十分にある。
恋愛と遊びは同じようで全然違うと、師匠が言っていた。
「は?」
「だって、キス、慣れてるような気がして……」
小さな声でぼそぼそと言うのが精いっぱいだ。
自分の唇を指でなぞる。なんだかじぃんと熱いような気がする。
「……お前、なに言って」
「ぼ、僕は……キリアンとのキスが、初めてだったんだけど!?」
彼に顔をぐいっと近づけて、叫んだ。キリアンは一瞬驚いたようだけど、すぐにふっと口元を緩める。
その仕草だけで経験の差を見せつけられているような気がした。
「そうだな――って、言ったらどうする?」
「――は?」
言ったらどうするって、別に僕には関係ないんだけど。
僕は戸惑った。キリアンは戸惑う僕を見て唇の端を上げる。意地悪な表情も恐ろしいほどに色っぽい。
心臓がとくとくと早足になる。なんだか、顔も熱い気がする。
「――なんてな」
しかし、キリアンは僕の思考を遮るかのように、前髪の上から僕の額をたたいた。
小さな力だったため、まったく痛くない。ただ現実に戻ってくるには十分な絶妙な力加減。
「別にそういうわけじゃない。誰にでもするような軽いやつは嫌いだ」
「えっと」
彼はなにを言っているんだろうか?
間抜けにも口を開けてキリアンを見つめる僕に、彼は「はっ」と声を上げて笑う。
「ジェリーだけだよ、俺がこんなことをするのは」
キリアンが当然のように言う。……ぼ、くだけ?
(僕、だけ?)
僕だけ……僕だけ!?
(え、な、なんで!? というか、僕ってキリアンにとって――)
どういう存在なんだろうか。
そう思うともうどうすることも出来なくて、僕は頬に熱がカーっと溜まるのを実感することしか出来ない。
い、意味が。本当に意味が分からないんだけど!
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