22 / 45

3-6

「キリアン、からかってるよね……?」  僕の声は震えていて、上ずっている。動揺しているのがバレバレだった。 「いや、からかってなんてない。というか、ジェリーは初心だな」  キリアンが言う。後半部分は嬉しそうにも聞こえる。  別に僕が初心だろうが、手慣れていようが、キリアンには関係ないだろうに。  そう思う僕を見て、キリアンは顔を近づける。鼻と鼻がぶつかりそうだった。 「初心で嬉しいな。全部を教えることが出来るだろ」  そして、彼が胸焼けしそうなほどに甘ったるくて、とろけそうな声で囁いた。  ちょっと本気で、胸焼けを感じた。勘弁してほしい。  頭がくらくらとする僕の顎をキリアンが指ですくい上げる。心臓の音がとくとくどころじゃなくて、バクバクだ。 「ジェリーが今後経験するキスの相手は、ずっと俺がいい」  真剣な表情で言うキリアン。……どういう意味なんだろうか。 (僕には今後キスをする予定なんてないんだけどな)  心の中でつぶやいて、僕はキリアンから視線を逸らす。というか、キリアンの口ぶりだとまだ僕とキスをするつもりなんだろうか。 「そ、それは、ちょっと。……覚悟が決まっていないと言いますか」  この場合、どう返すのが正解なの?  うろたえる僕をじっと見つめるキリアン。人通りがそこそこあるのに、二人だけの世界に入ったみたいだった。 「そうか。じゃあ、覚悟を決めてくれ、今すぐに」 「今すぐ!?」 「そうだ。今覚悟を決めてくれたら、ジェリーは俺以外にキスを許さないだろ?」  どういう理屈ですか、それは……。  なんていうことも出来ず、僕は目を瞬かせる。 (あの一件からキリアンの様子がおかしい!)  絶対、絶対におかしい! 魔物の攻撃に毒はなかったけど、万が一っていうことはあるかもしれない。  げ、解毒剤とかいるんだろうか? 「ジェリー」  現実逃避をする僕の名前を呼ぶキリアン。心臓がバクバク以上にどっくんどっくんと音を鳴らす。まるで危険を知らせているみたいだった。  僕は足を引いて、キリアンから逃げる体勢を取る。 「か、覚悟を決めなかったら――?」 「今すぐに二度目のキスも四度目のキスも、五度目のキスも経験してもらう」  本当にそれってどういう理屈!?  前者は今後の人生に多大な影響を与えそうだし、後者は僕を羞恥心で殺そうとしているかのようだ。 「む、無理無理! そもそも、この根暗男のキスに大した価値なんてないから!」  だって、そうじゃないか。僕のキスにどれだけの価値があるというのだ。金貨くらいの価値があったら、僕のキスも欲しいっていう人はいるだろう。でも、そうじゃない。 「価値はあるだろ」 「ない、ないですってば!」  首をぶんぶんと横に振る。キリアンの手が僕の頬を挟み込んで、固定する。  キリアンの顔が近づいて来て、ちゅっと唇に口づけられた。三度目のキス。 「き、キリアン――!」  抗議しようとする僕の後頭部に回るキリアンの手のひら。驚く間もなく、また唇が重なる。四度目のキス。 「んっ」  今度は薄く開いた唇の中に、キリアンの厚ぼったい舌がねじ込まれた。  なにも考えられなくなるようなキスだ。 (ぁ、だめ、そこダメだって……!)  キリアンの舌が、僕の舌の付け根を刺激してくる。少し刺激されるだけで、背筋がぞわぞわとした。  脚がプルプルと震えて、咄嗟にキリアンの衣服に縋る。 (――窒息、しちゃいそう)  キリアンのキスは静かなのに、獰猛にも感じるキスだった。  僕の口腔内を蹂躙していく舌。感じたことのないほどの快感が僕を支配する。おかしい、おかしいってば! (なんで僕、こんなにも感じてるんだろ……)  なんか、変な気分になっちゃいそう――。

ともだちにシェアしよう!