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「キリアン、からかってるよね……?」
僕の声は震えていて、上ずっている。動揺しているのがバレバレだった。
「いや、からかってなんてない。というか、ジェリーは初心だな」
キリアンが言う。後半部分は嬉しそうにも聞こえる。
別に僕が初心だろうが、手慣れていようが、キリアンには関係ないだろうに。
そう思う僕を見て、キリアンは顔を近づける。鼻と鼻がぶつかりそうだった。
「初心で嬉しいな。全部を教えることが出来るだろ」
そして、彼が胸焼けしそうなほどに甘ったるくて、とろけそうな声で囁いた。
ちょっと本気で、胸焼けを感じた。勘弁してほしい。
頭がくらくらとする僕の顎をキリアンが指ですくい上げる。心臓の音がとくとくどころじゃなくて、バクバクだ。
「ジェリーが今後経験するキスの相手は、ずっと俺がいい」
真剣な表情で言うキリアン。……どういう意味なんだろうか。
(僕には今後キスをする予定なんてないんだけどな)
心の中でつぶやいて、僕はキリアンから視線を逸らす。というか、キリアンの口ぶりだとまだ僕とキスをするつもりなんだろうか。
「そ、それは、ちょっと。……覚悟が決まっていないと言いますか」
この場合、どう返すのが正解なの?
うろたえる僕をじっと見つめるキリアン。人通りがそこそこあるのに、二人だけの世界に入ったみたいだった。
「そうか。じゃあ、覚悟を決めてくれ、今すぐに」
「今すぐ!?」
「そうだ。今覚悟を決めてくれたら、ジェリーは俺以外にキスを許さないだろ?」
どういう理屈ですか、それは……。
なんていうことも出来ず、僕は目を瞬かせる。
(あの一件からキリアンの様子がおかしい!)
絶対、絶対におかしい! 魔物の攻撃に毒はなかったけど、万が一っていうことはあるかもしれない。
げ、解毒剤とかいるんだろうか?
「ジェリー」
現実逃避をする僕の名前を呼ぶキリアン。心臓がバクバク以上にどっくんどっくんと音を鳴らす。まるで危険を知らせているみたいだった。
僕は足を引いて、キリアンから逃げる体勢を取る。
「か、覚悟を決めなかったら――?」
「今すぐに二度目のキスも四度目のキスも、五度目のキスも経験してもらう」
本当にそれってどういう理屈!?
前者は今後の人生に多大な影響を与えそうだし、後者は僕を羞恥心で殺そうとしているかのようだ。
「む、無理無理! そもそも、この根暗男のキスに大した価値なんてないから!」
だって、そうじゃないか。僕のキスにどれだけの価値があるというのだ。金貨くらいの価値があったら、僕のキスも欲しいっていう人はいるだろう。でも、そうじゃない。
「価値はあるだろ」
「ない、ないですってば!」
首をぶんぶんと横に振る。キリアンの手が僕の頬を挟み込んで、固定する。
キリアンの顔が近づいて来て、ちゅっと唇に口づけられた。三度目のキス。
「き、キリアン――!」
抗議しようとする僕の後頭部に回るキリアンの手のひら。驚く間もなく、また唇が重なる。四度目のキス。
「んっ」
今度は薄く開いた唇の中に、キリアンの厚ぼったい舌がねじ込まれた。
なにも考えられなくなるようなキスだ。
(ぁ、だめ、そこダメだって……!)
キリアンの舌が、僕の舌の付け根を刺激してくる。少し刺激されるだけで、背筋がぞわぞわとした。
脚がプルプルと震えて、咄嗟にキリアンの衣服に縋る。
(――窒息、しちゃいそう)
キリアンのキスは静かなのに、獰猛にも感じるキスだった。
僕の口腔内を蹂躙していく舌。感じたことのないほどの快感が僕を支配する。おかしい、おかしいってば!
(なんで僕、こんなにも感じてるんだろ……)
なんか、変な気分になっちゃいそう――。
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