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 僕の言葉にキリアンは「は?」と心底不快そうな声を上げた。  でも、今回ばかりは僕も引かない。キリアンは間違いなく、幼馴染さんのことを大切に思っている。 「だって、キリアンは幼馴染さんのことを信頼しているんでしょ?」  首を横に倒して言うと、キリアンは気まずそうに視線を逸らした。  それは肯定の返事のように見える。僕は「ふふっ」と声を上げて笑う。 「――なに、笑ってるんだよ」 「ううん、僕ね、夢だったんだ。こういう風に友人と他愛もない話をすることが」  故郷では浮いていたし、師匠と暮らし始めてからもこういうのとは無縁だった。  だから、なんだか楽しい。もちろん、仕事だから楽しんでばかりじゃダメだってわかってはいる。ただ、まるでお泊り会みたいだなぁって。 「ジェリーは俺のことを友人だと思っているのか?」 「違うの?」  キリアンの問いかけに、疑問で返す。キリアンは不本意そうな表情をしたけど、少ししてあきらめたように息を吐いて額を押さえた。 「違う――わけでも、ないんだろうな」 「なんなの、それ」 「いや、今は友人でいいっていうことだ」  今は――っていうことは、いずれ友人ではなくなるのだろうか?  ……そんな日、来ないといいなって思うのは身勝手だろうか? 「ま、今はそんなことを考えている場合じゃないな。とにかく疲れただろ。寝るぞ」 「そう、だね」  キリアンの言葉にうなずいた。簡易の寝台は僕が使えばいいや――と思って、僕が毛布の中に潜り込もうとしたとき。キリアンに止められた。 「――キリアン?」 「お前はそっちで寝るつもりなのか?」 「そうだけど」  当然じゃんか。キリアンは勇者さまなんだ。お供の僕が簡易の寝台を使うに決まっている。 「さすがにそれはダメだろ。お前はか弱いんだから」 「か、よわい?」 「華奢だし、儚く見えるし。――心配だ」  別に簡易の寝台が僕のことを取って食うわけじゃないんだけど……と言える雰囲気ではない。キリアンは真剣に言っている。 「じゃ、じゃあどうするの……?」 「決まってるだろ。俺と一緒にあっちを使えばいい」  キリアンが指さしたのは、部屋にある備え付けの寝台。  じょ、冗談だよね? 「同じように使うって?」 「一緒に寝ればいいだろ」  冗談だよね!? 「ま、待ってよ。そりゃあ、普通の寝台よりは多少広いけどさ……」  さすがに大人の男二人が寝るには、手狭じゃないかなぁ……って。 「ジェリーは小さいから大丈夫だ」 「大丈夫じゃないって!」  僕の身体を軽々と抱き上げて、キリアンは備え付けの寝台のほうに向かう。  そのまま僕を寝台の上に下ろすと、彼は僕の身体に毛布をかぶせた。 (いやいやいや、これはさすがに!)  これって、友人同士だと普通のことなんだろうか? 違うような気もする。  うろたえる僕をよそに、キリアンは当然のように寝台に横になる。僕は壁際にいるせいで、逃げることは出来そうにない。 「おい、寝るぞ」  キリアンは本気なのだろうか?  こんな僕と一緒に眠るなんて。 「ほ、本当に、寝るの?」 「当たり前だろ。寝ないと疲れは取れない」  そういう意味じゃないんですけど!? 「別に取って食おうっていうわけじゃない。襲うわけでもない。だから、いいだろ」 「そういう心配ではなくて、ですね――」 「もちろん、そっちがその気なら――シテもいいけど?」  ……もう、従うほかなかった。  僕は渋々寝台に横になる。壁のほうで小さくなっていると、キリアンに当然のように抱き寄せられてしまう。  結果、気が付けば僕はキリアンに抱きしめられる形になっていた。 「き、キリアン! 近いよ」  さすがにこれはないない!  僕が逃げようとしたのを察したかのように、キリアンは僕の身体を抱きしめる腕に力を込めた。  ――なんで、どうして、どうしてこうなったの!?  混乱する頭。目が回る。回って、回って――僕の意識が遠のいていく。 (あぁ、もう、寝ちゃおう……)  こうなったら現実逃避だ。  僕は目を瞑って、深呼吸をした。すると、あっさりと夢の世界へと落ちていくことが出来て。 「――ジェリー」  頭のてっぺんにちゅっと口づけられたような気もしたけど、僕は襲いくる睡魔に抗うことが出来なかった。

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