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 翌朝。僕が目を覚ますと、すぐそばにとても整った顔の人物が寝ていた。  閉じられた目。セットの乱れた髪。なんだろう、イケメンってどんな状態でもイケメンなんだなぁって。 (というか、僕はどうしてキリアンと……)  一瞬動揺したけど、僕は昨夜のことを思い出す。  僕はキリアンに一緒の寝台で眠るようにと強要された。あぁ、そうだった。 「こうしてみると、案外幼いかも?」  キリアンの腕にがっちりと拘束されていることもあり、僕は起きることが出来ない。  そう、僕は完全にキリアンの抱き枕になっていたのだ。 「すごい。まつ毛長いなぁ。唇もすっごく綺麗。この唇が――」  ――僕に、触れたんだ――って、僕は朝からなにを考えているんだろうか。  多分、効果音をつけるならば今の僕の状態はぽふんだ。僕は顔に熱を溜める。誰も見ていないのに、顔を両手で隠した。 「うぅ、す、すっごい恥ずかしい――!」  言葉を零したとき、すぐそばから「なにが恥ずかしいんだ」という冷静な声が聞こえてきた。  驚いた僕は顔を覆う手を慌ててどける。――キリアンがこちらを見つめていた。 「ね、眠ってたんじゃないの……?」  若干上ずったような声で問いかけると、キリアンは僕を一度ぎゅっと抱きしめた。その後、僕の身体を解放してくれる。 「眠ってたな。だが、隣でなにかブツブツ言っているのが聞こえたら、起きないわけがないだろ」 「ちなみに、どこから聞いてた?」 「まつ毛云々の辺りだったかな」  それは、ほぼ最初からじゃないか!  というか、僕は一人でそんなにブツブツと言っていたんだろうか。 「ご、ごめんね」 「なにが」 「寝顔とかまじまじと見ちゃって。あと、起こしてごめん」  謝罪の言葉を口にすると、キリアンは「はっ」と笑う。 「別にいいぞ。減るようなものでもないしな」  キリアンは寝台から下りる。彼を見て、僕は毛布から抜け出して、寝台に腰掛けた。 「それにしても、ジェリーは抱き心地が良かったな」  彼が思いだしたように言葉を零した。  そ、その言い方は、ちょっと。変な誤解を招くと言いますか! 「今後は毎晩でも抱いて寝たいくらいだが」 「む、無理!」  絶対に無理。僕の心臓が持たない。あと、純粋に僕が物理的に苦しい。 「そうか。じゃあ、二日に一回くらいか」 「一緒に寝ないっていう選択肢は!?」  当然のように言うキリアン。僕は必死に抗議をする。  僕の抗議を聞いたキリアンは、少しして笑った。それは心の底からの笑みにも見える。 「ないな」  はっきりと拒否して、キリアンが着替えのために寝間着のシャツを脱ぐ。  僕の視界にキリアンのたくましい身体が視界に入った。こちらからでは、背中しかみえないんだけど。 (すごい。僕も鍛えたらああなれるかな……)  半分以上無理だってわかってはいるけど、望みだけは持っておいてもいいと思う。  僕はキリアンの背中を見つめる。そのとき、キリアンがハッとしたように僕のほうを振り返った。 「――忘れてた」  言葉を漏らしたキリアンが僕のほうに近づいてきて、屈みこんで。  気が付いたら、僕とキリアンの唇が重なっていた。――は? 「どうせだから、朝からキスでもしておくかと思ってな」 「――なにそれ!」 「目覚めのキスとか、そういうやつだろ」  目覚めのキスは王子さまからお姫さまに贈られるものだ。決して勇者から魔法使いに贈られるものじゃない。 「あと、俺の唇がきれいなんだろ?」  キリアンが唇の端を上げて問いかけてくる。独り言を繰り返される以上に気まずいものはない。恥ずかしかった。 「そ、それは」 「この唇がジェリーに口づけた。それを想像して、恥ずかしがってたんだろ?」  ……もう、やめてほしい。  僕の思考回路はどうやら筒抜けのようだ。言葉にされるといたたまれなくて苦しくなって、悶え死にそうになる。  自然と顔を両手で覆うと、キリアンが優しく僕の手をつかんだ。流れるように指を絡め取られる。  指と指が絡まっているだけ。なのに、どうしてこんなにもいやらしく見えるんだろうか。 「お前が望むのならば、何度だって口づける。もちろん、それ以上のことだってできる」 「きりあ、ん……」  キリアンの指が僕の手の甲を撫でた。ツーッと撫でられてしまうと、心臓が早足になる。  しかも、キリアンは上半身裸のままだから。目のやり場には困るし、この雰囲気を余計に危ないものにしている気しかしない。

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