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「キリアン。あの、僕はね――」  ――なにか、言わなくちゃ。  その一心で口を開くものの、上手く言葉が出てこない。視線を泳がせて、僕は言葉を必死に探した。 (なにを言ったらいいんだろ……)  このままだと大変なことになっちゃいそう――と思ったとき。  お部屋の扉が乱暴にノックされた。驚いて肩を跳ねさせる僕。キリアンは「ちっ」と舌打ちをした後、僕から離れていく。絡めていた指が解かれたとき、僕はどうしてか寂しさを覚えてしまった。 「なんだ」  キリアンがぶっきらぼうに扉に向かって言葉を返せば、勢いよく扉が開く。  そして、顔を覗かせたのはエカードさん。けど、彼の様子は普段とは全然違う。慌ただしい。 「至急来客だ」 「こんな朝早くからくる客なんて追い返しておけばいい」 「そういうわけにもいかなくてだな――」  エカードさんがなにかを言おうとしたとき。彼の後ろから誰かが顔を覗かせたのが見えた。 「……おい」  その人物を見たとき、キリアンが露骨に表情を歪めた。  というか、あのお方って! (シデリス殿下!?)  金髪は短くてさらりとしている。大きなエメラルドのような目はぱっちりとしていて、美しい。背丈は僕よりも少し高くて、身体は細い。  まさに理想の王子殿下という容姿を持つ彼は、シデリス・ステパット殿下。ステパット王国の第四王子殿下である。 (って、いやいや、さすがにこんなところに王子殿下がいらっしゃるわけが――!)  多分そっくりさんかなにかだろう。  僕は自分自身を納得させようとした。けど、キリアンが「シデリス」と名前を呼んだことにより、僕は卒倒しそうになった。 (まさかの本物! しかも、キリアンは呼び捨てにして――!)  それって、不敬罪に当たるんじゃないだろうか?  怯えてびくびくとする僕を気にする様子もなく、シデリス殿下は呆れたような表情を浮かべる。 「全く、キミはなにも変わっていない。その傲慢な態度、僕の前でくらい隠せと言っているというのに」 「残念だが、俺はお前を敬う気はまったくないんでな」  それはもう処刑レベルの言葉だよ!  慌てふためく僕に気が付いたのか、シデリス殿下はキリアンの身体を押しのけて室内に入ってくる。  キリアンがシデリス殿下を止めに動いたみたいだけど、殿下のほうが早かった。 「キミは――あぁ、ジェリーか」 「え、は、はい」 「キミのことはアクセルから聞いている。なんでも、優秀な魔法使いなんだって?」  シデリス殿下のエメラルドのような瞳が僕を映していた。  眩しすぎて、卒倒しそうだった。なんだろう。美形って怖い。 「ゆ、優秀だなんて恐れ多い……です」  視線をさまよわせる。僕はなにを言えばいいかわからなかった。  今すぐにでも俯きたい気持ちをこらえて、しどろもどろになりながらも言葉を返していく。 「いや、勇者一行に選ばれるだけでも、大したものと言えるだろう」  シデリス殿下が僕の言葉に返事をして、お一人でうんうんとうなずかれる。  彼の姿は可愛らしいというか、愛らしいというか。この人、僕よりも年上のはずなんだけどな……。 「おい、シデリス。ジェリーから離れろ」  現実逃避をしかけた僕を戻したのは、キリアンの冷たい声だった。あ、相変わらず王子殿下に対して不敬! 「キリアン、それは不敬罪――」  口を挟もうとすると、シデリス殿下は手で僕を制する。 「問題ない。コイツとは幼少期から付き合いがあってな。ま、いわば幼馴染というものだ」 「――幼馴染」  なんだか、どこかで聞いたことがあるような単語――。 (え、もしかして、昨夜キリアンが話していた幼馴染って――)  まさかまさかで、シデリス殿下のことだったんだろうか。  僕が視線だけでキリアンに問うと、彼は首を縦に振った。  う、嘘でしょ! 王子殿下と幼馴染ってどういうこと!?

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