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翌朝。
雨は夜のうちに止んで、きらきらとした陽の光が辺りを照らしている。
僕が起きたとき、キリアンは側にいなかった。一抹の寂しさを覚えたものの、自身の身体の違和感に顔を歪めてしまう。
(……腰が、痛い)
キリアンは後始末とかはしてくれていたらしく、僕の身は清められていて。衣服も雑だけど着せられていた。
ローブは毛布の代わりにかけられていて、衣服を正した後、僕はそれを身にまとう。
「あぁ、起きたか」
少しして、キリアンが洞窟に戻って来た。僕は彼に駆け寄ろうとしたけど、腰が鈍く痛んでそれは叶わない。
「おい、大丈夫――じゃ、ないよな」
キリアンが気まずそうな表情を浮かべて、僕の身体を抱き留めてくれた。
申し訳なくて、恥ずかしくて。僕が身を縮めていると、キリアンが頭を撫でてくれる。
「昨夜は無茶をさせたからな。今日は、存分に俺に甘えろ」
僕の身体をぎゅうっと抱きしめて、キリアンがささやく。そして、流れるように僕の頭のてっぺんにキスを落とす。
洞窟内に漂う甘さを含んだ空気。胸焼けしそうで、僕は誤魔化すように顔を上げた。
「ね、ねぇ、どこに行ってたの――?」
気になっていたことを尋ねてみると、キリアンは「あぁ」と言って入り口のほうを見つめる。
「日が昇ったから、ここがどこか確認しておこうと思ってな」
「あ、そ、そうだよね」
昨夜は雨がひどくて確認する余裕もなかったし……。
(そもそも、それは僕もするべきことだったよね)
キリアンに頼りっぱなしで、本当に申し訳ない。
肩を落とす僕を見て、キリアンが「気にするな」と声をかけてくれた。
「昨夜のことがあるからな。ジェリーの身体には負担がかかってただろ」
それはまぁ、そうなんだけど。
「あぁいう行為は受け入れるほうに負担がかかる。だから、俺があれこれ動くのは当然だ」
「う、うん」
「だから、気にするな」
そうは言われても、後始末も全部キリアンがやってくれていた。僕はなにひとつとして役に立っていない。
「本当に気に病むな。ジェリーだって、たくさん役に立ってるだろ」
「……そんなこと」
「川に落ちることが出来るように咄嗟に機転を利かせたのはジェリーだ。俺たちが生きているのは、ジェリーのおかげだ」
ネガティブな僕に根気強く付き合ってくれるキリアンは、本当に優しい。
あと、そういう風に言ってくれるのが純粋にとってもありがたくて。僕はふんわりと笑って「ありがとう」と言っていた。
「とにかく。ここらは王都ではなく、辺境のようだな」
僕が立ち直ったのに気が付いてか、キリアンが言う。
「でかめの木に登って見渡したら、東の方角に街があった。今はそこを目指そう」
「そ、そうだね」
木に登ったとか、ちょっと聞き捨てならないことは聞こえたけど、今は無視だ。
きっと、必要だったということだろうから。
(キリアンがいてくれてよかった。僕一人だったら、きっともう挫けてたよ……)
一人じゃない。キリアンがいてくれる。
これだけで、僕は希望を持つことが出来る。
「キリアン」
「うん?」
「一緒にいてくれて、ありがとう」
あふれ出した気持ちを伝えてみると、彼は驚いたようだったけど、笑ってくれた。
大きな手のひらが僕の頬を挟み込んで、額をこつんとぶつけられる。
「俺のほうこそ、ジェリーの役に立てて嬉しい」
女性だったら卒倒しそうなほどにかっこいい笑みを浮かべて、キリアンが告げてくる。
……僕の心臓も、はち切れそうなほどにうるさいけど。
「ジェリー」
キリアンが僕の名前を呼んで、唇を重ねてくる。
朝からなにをしているんだって思われそうだけど、僕はキリアンからの口づけに応える。
「んんっ、んんぅ――」
初めは触れ合うだけだった口づけは、どんどん深くなって、また舌を絡め合って。
互いの口元を銀色の糸が伝うほどに口づけて、僕たちは笑い合った。
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