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「そ、そんなことより! エカードさんたちと連絡を取ろうよ!」
僕はキリアンの顔を押して、必死に話題を別のものに移そうとした。
キリアンは不満そうだったけど、僕の言葉にうなずいてくれる。
「まずは宿泊可能な宿屋を探すか」
「そうだね!」
妙に上ずった声で僕は同意する。
油断したら、昨夜の行為を思い出してしまいそう。
そんな自分が恥ずかしくてたまらない。
僕が必死に歩いていると、不意にキリアンが立ち止まった。視線の先にあるのは、広場だ。
中央には大きな噴水があって、周りを囲むようにベンチが設置されている。どこにでもある憩いの場だ。
「ジェリー、あそこに座ってろ」
キリアンが空いているベンチを指さして、僕に声をかけてくる。
「え、でも……」
「腰が痛いんだろ。宿屋が見つかったら迎えに来るから」
渋る僕を強引にベンチのほうに引っ張っていく。そして、キリアンは僕を半ば無理やりベンチに座らせた。
「ねぇ、キリアン。僕――」
「心配するな。俺一人で大丈夫だから」
いや、そういう意味じゃなくてですね!
と僕が言うよりも先に、キリアンは颯爽と場を立ち去る。残された僕は、呆然とすることしか出来ない。
隣のベンチには老夫婦が腰掛けていた。のんびりとお話をしているみたいで、優しい空気だ。
(キリアン、絶対に僕に気を遣ってくれたんだよね……)
なんか、申し訳ないなって。
「僕が腰が痛いなんて言わなきゃよかったかな」
一瞬そう思うけど、痛いものは痛い。いずれはバレていたと思う。歩き方が変だって指摘されてたし。
僕はぼうっと空を見上げた。青々とした空。昨日の雨が嘘みたいだ。
(昨日、僕は――キリアンと)
昨夜の生々しい行為を思い出して、僕はまた一人で悶えた。
頬を押さえる。恥ずかしくてたまらない。
(えっちしてるときのキリアン、すっごくかっこよかった)
あのときは余裕がなくて、頭は上手く動いていなかった。
一晩経ってようやく頭が動き始めたんだろう。――恥ずかしいことに、代わりはないけど。
ただ、それと同時に僕の頭に浮かんだのは一つの心配。
――僕とキリアンの関係についてだ。
「僕は、キリアンとどういう関係になりたいんだろ」
多分、そろそろ向き合わなくちゃならない。僕の心に芽生える――変化に。
僕の中に生まれた未知の感情を認め、理解しなくちゃならない。目を逸らし続けることは出来ない。
「好きか、嫌いか、か」
言葉をこぼしたとき、空を見上げる僕に影が落ちる。
キリアンが戻ってきたのかな――って現実に意識を戻すと、僕の顔を覗き込んでいたのは見知らぬ一人の男性だった。
「え、えぇっと」
「隣、失礼しても?」
男性が僕に問いかける。僕は慌ててうなずいた。
彼は黒髪を後ろで一つにまとめていた。目の形は鋭くて、色は深紅。
人並み外れた美しさを持つ彼は、静かに僕の隣に腰を下ろす。
周囲を見渡すと、ほかのベンチは埋まっているよう。そりゃあ僕に声をかけるはずだ。
僕と男性の間に風が吹き抜けた。彼の黒髪が風に揺れる。自然と視線が惹きつけられた。
「――なにか?」
「え、い、いや」
男性が僕に顔を向ける。慌てて顔を逸らすものの、不快にさせちゃったかなって反省する。
「キミは、ちょっと変わった子だね」
不意に男性が口を開いた。彼の言葉に驚いて目を瞬かせると、彼は僕を見つめる。
深紅の目が僕を射貫く。息を呑んでしまった。
「私の知る限り、キミと同じような存在はこの国にはいない」
彼は一体なにを言っているんだろうか?
「キミは特別な存在だ。きっと、この世界を平和に導いてくれる」
本当になにを言っているのかが、わからない。
「ただ、きっと今後キミには理不尽なことがたくさん襲い掛かってくるだろう。そのときはどうか――いや、なんでもない」
男性は首を横に振って、言葉を打ち切った。そして、立ち上がる。
「いろいろと話してしまって、悪いね。どうか、キミが幸せであることを。私は祈るよ」
どうして、見知らぬ男性が僕の幸せを願うのか。僕には彼の考えがわからなかった。
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