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 男性が歩いていく。けど、しばらくして僕のほうを振り返った。 「キミのお連れさんたちにも、よろしく頼むよ」  彼の言葉の意味が僕には理解できない。どうして彼は僕に連れがいることを知っているんだろうか――?  驚いていると、後ろから「ジェリー!」と名前を呼ばれた。視線を動かすと僕を手招くキリアンがいて。 「宿の部屋はとれたぞ。あと、エカードに連絡もしておいた」  キリアンが僕のほうに駆け寄ってきて言う。僕は先ほどの男性がいたほうに視線を向けるけど、彼はいない。  ――まるで、最初からそこにいなかったかのように。 「ジェリー?」  心配そうに僕の顔を覗き込むキリアン。僕は首を横に振って引きつった笑みを浮かべる。 「ううん、なんでもないよ。ごめんね、ちょっとぼうっとしてた」 「いや、なんでもないならいいんだが――」  キリアンの目を見ると、彼が本気で心配しているのはよく伝わってくる。  僕は誤魔化すのを申し訳なく思いつつも、なにも言わなかった。 (あの人はなんだったんだろう。不思議な存在だった)  彼は僕のことを『特別な存在』だと言い残した。  正直、僕みたいな存在はどこにでも転がっている石ころと同じだ。  そこにあっても当然で、誰の目に留まることもない。そして、僕はその石ころであることを望んでいる。  平穏に平和に。師匠と一緒に暮らすことが出来たらそれでよかった――はずなのに。 (僕は、キリアンと離れたくないって思ってる)  僕の心の中には師匠しかいなかったのに。  気が付いたらキリアンが住み着いていた。違う、キリアンだけじゃない。  エカードさんも、会ったばかりのシデリス殿下も。どうしてか僕の心に住み着いている。 (きっと、僕は今までの僕には戻れないんだ)  もう二度と、日陰の存在には戻れないんだ――って、僕の直感が告げていた。  不意に僕の肩にキリアンの腕が回った。引き寄せられて、身体が密着する。恥ずかしくてうつむいてしまう。 「ねぇ、キリアン。人前だよ?」 「別にいいだろ」  確かに広場の周辺には異性同性問わずいちゃつくカップルたちがいる。  だから、僕たちが目立つことはない――とはいっても。 「キリアンはすっごく目立つのに……」  精悍な顔立ちのイケメンさんなんだから。 「そうか。でも、俺の愛情はジェリーにしか向かないから、安心してくれ」 「なにを安心するのか、僕には理解不能だよ」  どうしてキリアンは僕にここまでよくしてくれるのだろうか。愛してくれるのだろうか。  ――僕は、キリアンになにか恩返しができるのだろうか。 (ねぇ、キリアン。僕もキリアンの力になりたい。だから、なにか困ったことがあったら言ってほしい……)  口には出せないことを願いつつ、僕はキリアンの胸にそっと頭を預けた。  彼が一瞬だけびくんと身体を跳ねさせたものの、僕の肩を抱き寄せる手に力がこもって。  こうしていたら、まるで本物の恋人同士みたい――と、思ってしまう。 (キスもえっちも、したのにね)  今の僕たちの関係は上手く言葉に出来ないものだ。  いつか、僕たちの関係に名前がついたらいいな――なんて考えるくらいは、どうか許してほしい。  僕には願うことしか出来ないんだけど。

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