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 キリアンの自己犠牲は異常なものだった。  彼は多分、とても重くて苦しいものを背負っているんだろう。 「――キリアン」 「なぁ、ジェリー。お前はこの旅が終わったらなにがしたい?」  話題が一気に変わった。  それはキリアンなりの気遣いだったんだと思う。僕があまり気に病まないようにって。 「キリアンは?」 「俺は適当に放浪の旅でもしようかなって思ってる」  僕が逆に問いかけるとキリアンはすぐに教えてくれた。  旅が終わって、またすぐに旅に出るんだ――と言いそうになるけど、僕は口を閉ざす。 「放浪して、世界を見て回る。それが俺にとって一番の理想だ」  キリアンはお貴族さまだという。だから、王都に住んでいたらなに不自由なく暮らせるはず。  なのに、キリアンは旅に出たいという。僕には考えられないことだった。 「ジェリーは?」 「……僕は、辺境に戻ると思う。師匠と一緒にまた暮らしたいな」  これは願望とかやりたいことではないのだと、わかっていた。  ただ僕にとって思い描くことが出来る未来がこういうものしかないというだけ。  それ以外の未来が、なに一つとして僕には浮かばない。 「僕、ずっと人が怖かったんだ」  家族のことがあったから、僕は他人を悪意の塊だと思ってきた。師匠だけが僕のことをわかってくれる――なんて、思い込んで。 「ずっとこの世界が怖くて、憎かった。どうして僕はここにいるんだろうって思って、苦しかった」 「……あぁ」 「けど、案外生きてるのも悪くないなって思うんだ。キリアンたちと出逢えたからだろうね」  キリアンやエカードさん、シデリス殿下。たくさんの人と出逢って、僕は成長できたはずだ。 「ねぇ、キリアン」 「なんだ」 「キリアンが旅に行くとき、僕も誘ってよ」  今までの僕だったら、絶対に口にしなかった言葉だ。  他人と旅なんて絶対に無理だって思ってたんだから。 「僕もキリアンと一緒に世界を見て回りたい。僕の知らない世界を理解したい」  見て回ったところで、僕に理解できるのかはわからない。  けど、やってみなくちゃ始まらない。 「――あぁ、約束する」  キリアンが真剣な声で了承してくれた。僕は彼のほうを向いて、笑った。 「約束ね。約束破ったら、僕怒るから」 「怒るだけか?」 「嫌いになる……かも」  ちょっと小さな声で言うと、キリアンの顔色がサーっと蒼くなったのがわかった。  冗談だったのに。 「冗談だよ。僕はキリアンを嫌いになんてならないよ。……僕の一番の友人だもん」  そう、キリアンは僕にとって友人だ。恋人でもパートナーでもない。 「……あぁ」  キリアンは僕の言葉を訂正しなかった。僕の肩の上に顎を置いて、甘えたように頬をこすりつけてくる。  こういうの猫みたいだ。 「いつかじゃなくて、絶対に旅をしような」 「……うん」  僕たちの約束が果たされる日は来るのか。  今の僕にはそれはわからない。だけど、きっと。  僕たちは今後もずっと仲良くしているんだろうって、それだけはわかるんだ。

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