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「――え?」  キリアンの言葉がすぐには理解できなかった。 (師匠が、現国王陛下の元恋人!?)  確かに師匠はきれいだし、老若男女問わずモテるとは思う。  かといって、国の最高権力者の元恋人なんて――ありえない、とは言い切れなかった。 (確かに陛下に対する扱いは雑だったしそれに、不敬なこともよく言ってて……)  思い返せば、師匠の国王陛下に対する距離は異様なまでに近かった。 「それに、その男はどこぞの貴族の出身だったはずだ」 「え、えぇ……」  次々と明かされていく、師匠の新事実。  そりゃあ、仕草がすっごくきれいだなぁとか思ってた。だから、貴族だって言われて納得する部分もある。  ただ、それ以上に僕の心を悔しいという感情が支配する。 (どうして、師匠は僕に過去のことを教えてくれなかったんだろう)  師匠は僕のことを『一番弟子』だと言ってくれていたし、それなりに可愛がってくれてもいた。  けど、師匠は過去のことをなに一つとして話そうとはしなかった。  きっと嫌なことがあったんだ――って、自分に言い聞かせて、納得させようとしていた。 (僕は師匠にとって、信頼に値しない人物だったのかな)  過去を話せないほど、信頼できなかったのか。もしくは、師匠にとって僕は出逢った当初の子供のままだったのか。  真実はわからないけど、師匠の過去は師匠の口から聞きたかったと思ってしまう。 「――ジェリー」  キリアンが僕の身体を強く抱きしめる。僕が落ち込んでいるのを、察してくれたんだろう。 「『アクセル・ヴァルス』という男はお前が大切なんだろう」  下手ななぐさめなんていらないのに。 「なぐさめないでよ。僕は師匠にとって、信頼するに値しない人物だったってことでしょ?」 「――違うと思うぞ」  卑屈になる僕を、キリアンは強く強く抱きしめる。 「ジェリーは、家族にいい思い出がないんだよな?」  突然話題が変わっていた。 「……その、『アクセル・ヴァルス』の家族仲も、相当悪かったみたいだぞ」  その言葉を聞いて、僕は師匠の言動を思い出した。 「異母兄との仲がかなり悪くて、家出同然で実家を飛び出し、王城で魔法使いになったらしい」 「う、ん」 「いきなり姿を消したと一時期はニュースになっていたくらいだ。……まさか、辺境で暮らしているなんてな」  身体に回されたキリアンの手に、僕は自分の手を重ねた。 「あのな、ジェリー。人間っていうのは面倒なんだ」 「……キリアン?」 「好きなやつや大切なやつには、自分の薄暗い過去を話したくないんだ」  声がすごくしんみりとしていた。キリアンは僕を抱きしめたまま、言葉を続ける。 「もしもそれが原因で嫌われたらどうしよう――って、気持ちが付きまとってくる。隠し通せるなら、隠せたほうがずっといい」  キリアンの言葉が今度はすんなりと胸に吸い込まれていく。  僕だって同じだったじゃないか。 (家族から虐げられてきたことを、キリアンには知られたくない。僕だって確かにそう思ってた)  僕は自分のことを棚に上げて、勝手に苦しんで勝手に悲しんでいたんだ――って、気が付いた。 「キリアンには、ね」 「……あぁ」 「誰にも知られたくない過去が、あるの?」  口が勝手に動いて問いかけていた。キリアンはしばしの間を置いて「あぁ」と答えをくれる。 「俺も知られたくない。ジェリーには特に」 「それは、僕に嫌われたくないから?」  自分でも思いあがった尋ね方だってわかっていた。  ……尋ねる言葉がこれしか出てこなかったんだけど。 「それもある。けどな、一番は――俺に、幻滅してほしくない」 「幻滅?」 「俺は過去に一生をかけても償えないことをしてしまった。……だから、俺は自分を犠牲にしなくちゃならないんだ」

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