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師匠が立ち去ったあと、僕は身動き一つできなかった。キリアンの腕の中で戸惑い続けることしかできない。
「ジェリー。悪かったな」
キリアンが心底申し訳なさそうな声で謝罪をしてくる。
謝るくらいなら、はじめからしないでよ――と、言えるわけもなかった。
「ううん」
力なく首を横に振る。キリアンは僕の身体をさらに強く抱きしめる。まるで僕の身体の震えを止めるかのような抱擁だった。
「俺はどんなジェリーでも好きだ。お前が魔族の血を引いていようと、変わることはない」
僕の不安を読み取ったかのように、キリアンがまっすぐに言葉をぶつけてくる。僕はなにも反応することができない。
うつむいて、唇を軽くかんだ。
「お前が俺の言葉で安心できるのなら、何度だって言う。だから、思いつめなくていい」
キリアンは僕が思いつめやすいことをすっかり理解しているらしい。そして、僕を安心させる言葉なども理解している。
僕はキリアンの顔を見つめた。精悍な男らしい顔が僕の歯科医いっぱいに広がって、僕はそっと目をつむる。
「キス、してほしい」
きっと、これは気休め。キリアンが僕のことを本当に愛しているっていう証拠が欲しかった。
「お願い、僕のことを愛して」
目をつむったままもう一度キスをねだる。キリアンはしばし迷って、僕の唇にキスを落とす。
ついばむような、触れ合うだけのキス。角度を変えて何度か重なった唇同士が、熱くなっていく。ゆっくりと唇を開くと、キリアンが僕の口腔内に舌を差し込んだ。
「んっ、んぅ」
自ら舌を絡めて、キリアンのキスに応えた。
キスをしていると、熱は唇だけではなく、身体まで熱くしていく。脳内がとろけて、なにも考えられなくなっていく。
――それが、とても心地よかった。
腕を伸ばして、キリアンの首に回す。
(もっと、もっとキスして、僕を欲して。僕を必要として――)
僕が本当に欲しかったのは、キリアンからの愛なのか。はたまた、僕が存在する理由だったのか。それさえもわからない。
身体を支配する熱は思考回路を溶かしていく。気持ちよくなりたいって、身体が快楽を求める。
「ね、キリアン――」
僕の腕がキリアンの腕を引き寄せるとほぼ同時に、身体が荒々しくソファーに押し倒された。
キリアンの顔が僕を見下ろす。発情した男の目。射抜かれると僕のお腹の奥はきゅんと主張していく。
まだ一度しか身体を重ねていないのに。あのときの快楽が僕の頭と身体に呼び起こされる。
下肢にたまる熱。視線を動かすと、キリアンのモノもわずかに主張を始めていた。
「ジェリー。あんまり煽るな。乱暴に襲い掛かりそうだ」
彼の指先が僕のシャツの前ボタンを上から数個開ける。あらわになった鎖骨部分にキリアンが顔をうずめた。
「ここに印をつけたくなるだろ。ほかの輩に狙われないように、俺のものだという証を」
鎖骨を舌でぺろりとなめられた。
熱い。熱くてたまらない。
(顔も熱いし、お腹の奥も熱いよ。……キリアンが、欲しい)
心の底からキリアンを求めてしまう。息をのんだ。無意識のうちに脚が動いて、キリアンの身体を逃がさないように抱き込んだ。
「ジェリー?」
「してもいいよ。僕をキリアンのモノにして。印をつけて」
少なくとも印があるうちは、一人じゃないよね――?
「僕のことめちゃくちゃにしてよ。僕から離れられないくらい、夢中になってよ。僕を一人にしないでよ――」
師匠がいない今、僕にはキリアンしかいないんだ。
僕はキリアンに見捨てられたら、一人ぼっちになってしまう。
「そのためだったら、僕、なんでもするよ。苦しいことも、痛いことも。我慢するから」
キリアンが僕を痛めつけたいなら、僕は我慢する。キリアンが僕を苦しめたいのなら、僕は耐える。
だから、ね、お願いだから――。
「僕のこと、一人ぼっちにしないでよ」
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