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「僕は――」
正直なところ、知るのが怖い。
今まで知らなかった僕自身のことを突き付けられる。誰だって怖いはず。
(けど、僕は知らなくちゃならない。今後、僕が前を向いて生きていくためにも)
僕は決めた。キリアンと生きるって。彼の傍に僕はいたい。
気持ちを込めた目で師匠を見つめると、師匠は口元を緩めた。僕に向かって優しく微笑む。
「強くなったものだな、ジェリー。私の期待以上だ」
師匠が長い脚を組んで、頬杖をついた。
「まず、ジェリーが魔族の血を引いていることは間違いない。キミの異様なまでの魔法の才能は、魔族の血が入っているからだろう」
息をのんだ。
やっぱり、僕は魔族の血を引いているんだ。
「そして、キミの持つ雰囲気――いわば、魔力の器はデルリーン家のもので間違いない。キミはデルリーン家の血もきちんと引いている」
どういうことなんだろうか。
デルリーン家の血を引いている。でも、僕の両親はともに人間。どちらかが魔族ならば、兄弟にも表れていないとおかしい。
「ここからは私の憶測にすぎない。話半分で聞いてほしい」
とんとんと机を指でたたき、師匠が僕を見る。こんなはっきりと言葉をつむがない師匠はちょっと不気味だった。いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「キミがデルリーン家の血を引いていることは間違いない。ということは、キミは両親の実子ではない可能性が高い」
実子ではない――ということは。
「僕は親族の子で、両親に引き取られたということですか?」
僕の問いかけに師匠は静かにうなずいた。
ありえない話ではない。ただ、両親が僕を引き取った理由がわからない。彼らは僕に愛情を持っていなかった。いっそ、捨ててくれたほうがマシだと思うほどに。
「キミの両親がキミを引き取ったのには、深い理由があるのかもしれない。ま、結局は私の推測にすぎないけどね」
立ち上がった師匠は僕のほうに近づいた。そして、その大きな手のひらが僕の頭を撫でる。優しく、いつくしむように。
「立派になったね。もう、キミに私は必要なさそうだ」
違う。今の僕があるのは、全部師匠のおかげだ。師匠が必要ないなんてこと、絶対にない。
「師匠は僕にとって、一番の恩人です。必要ないなんて、言わないでください」
「おやおや、私の弟子は生意気にもなってしまったようだ」
わざとらしく肩をすくめた師匠は、僕の額を小突いた。
「残念ながら、私にもやるべきことがあってね。キミに付きっきりになっている場合ではないんだ」
自身の唇に指を押し当て、笑う師匠のことがはかなく見えてしまったのは、気のせいじゃないはず。
「キミが一人立ちをしたならば、私にも未練などない。私は私のやるべきことをやるさ」
まるで死地に赴くような言葉に、僕の心臓が嫌な音を立てる。
もしかして師匠は――自分の命をかけて、なにかをしようとしているんじゃないか。背中を嫌な汗が伝って、僕は師匠に手を伸ばす。
「師匠――」
「――血がつながっているからといって、必ず分かり合えるなんてありえない。夢物語は終わりにしよう」
眉を下げた師匠が流れるような動きで僕の手から逃れた。いやだ、嫌だ。師匠がいないなんて、嫌だ――!
「師匠!」
「キリアン・レヴィン。どうか、ジェリーを頼むよ。私の代わりに、守ってやってくれ」
「……はい」
どうしてキリアンは納得しているの?
キリアンだって師匠が僕にとって大切な存在だって、知っているはずなのに。
師匠のほうに駆けだそうとする僕を、キリアンが止めた。たくましい腕に包み込まれると、身動きもできない。
「キリアン!」
キリアンを強くにらみつけると、キリアンが唇をかんだのがわかった。
「悪いが、俺にはお前の師匠の考えが、わかってしまうんだ」
僕をぎゅうっと抱きしめて、キリアンが声を上げる。切なくて胸にしみわたるような声。
「キミが案外物分かりのいい男で助かったよ。ジェリー、どうか幸せにね」
僕の鼻腔にふわりとした花の香りが届いた。師匠が好きだと言っていた――国花にもなっている花の香りだった。
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