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 少しして、僕たちは宿に戻った。  キリアンは困惑し続ける僕に根気強く付き合ってくれた。背中を撫でて、声をかけてくれた。  そのせいなのか。僕は――ついつい、声を上げて泣いてしまった。 「ぼ、くは。一体なんなんだろう……」  口からこぼれた言葉にキリアンも困っただろう。なにも言わない。ただ僕の身体をぎゅうっと抱きしめ、あやすように手を動かしていた。 (僕の両親は普通の人間だった。間違いない。じゃあ、僕って一体どういう存在――?)  僕は両親の子供ではない、デルリーン商会の人間ではないということなのだろうか?  別にデルリーン商会に未練があるわけじゃない。僕は真実が知りたいだけだ。 「僕、本当のことが知りたいよ」  手をぎゅっと握った。  今までの僕だったら、こんなに前向きには思えなかった。きっと絶望して、もうこれ以上知りたくないって逃げてしまっただろう。 (けどね、今はキリアンがいる)  キリアンがどんな僕でも愛してくれるって言ったから。僕もちょっとずつでも前向きになりたい。 「トリスタンさんの言ったことが真実だったとしても、僕はきちんと受け入れたい」  分厚いキリアンの胸に顔を押し付けて、自分の気持ちを彼に伝える。彼は「あぁ」と返事をくれた。 「キリアンと一緒だったら、なんでもできる。どんなところにでも行けるって、思うんだ」 「俺も一緒だ」  僕の背中にキリアンの腕が回った。だから、僕もキリアンの背中に腕を回す。  人のぬくもりはとても心地いい。特に抱き着いているのがキリアンだって思ったら、愛おしくてたまらない。 「僕ね、キリアンが――」  ――好き、と言おうとしたとき。  部屋の扉がノックされた。僕は慌ててキリアンから身体を離そうとしたけど、キリアンは僕を離してはくれなかった。  そして、キリアンが返事をして部屋の扉が開く。 「おやぁ、随分と仲良くなったみたいだな」 「――師匠!?」  扉の先にはほかでもない、僕の師匠アクセル・ヴァルスがいた。  彼は僕たちのほうをちらりと見て、笑う。ただし、目元は笑っていない。 「ジェリーを旅に出したのは、どうやら正解だったようだな。私の勘も衰えていない」  師匠は僕たちのほうに近づいて、室内の椅子に腰を下ろした。ソファーに腰掛ける僕は、師匠をもてなすために立ち上がろうとする。――もちろん、キリアンが離してくれなかったから無理だったけど。 「師匠、どうしてここに?」  僕の声は戸惑いを含んで震えていた。  そりゃそうだ。だって、師匠が現れるなんて夢にも思ってなかったんだもの。 「なぁに、大した意味はないさ。たまたまこの街に寄ったら、キミの魔力が香ったからね。どうせだし顔でも見ておこうかと」  僕の魔力って独特の香りでもしているんだろうか――と、そうじゃない。 「ところで――キミは全部を知ってしまったようだ」  真剣な色を帯びた師匠の声に、心臓がどくんと大きく音を鳴らした。  全部を知った。つまり、師匠は僕の正体を――知っていたんだ。 「私も話すべきかは迷ったさ。ただ、あの頃のキミがこの現実を受け入れることができるとは、到底思えなかった。時が来るまで、私は待つつもりだった」  立ち上がり、師匠は窓のほうに近づく。木々に止まっていた小鳥たちが、師匠を見てちゅんちゅんと鳴いている。  師匠は昔から動物に好かれやすい。鳥類も例外じゃなかった。 「キミをこの旅に送り出したのは、キミを成長させたかったからだ。私とずっと一緒にいるだけでは得られないものを得てほしかった」  目を伏せた師匠はどこまでも美しい。僕だけじゃない。きっと、キリアンも見惚れている。 「そして、キミは私の想像を超えるほどに素晴らしいものを得た。――かけがえのない友人、もしくは恋人だ」  なんて返すのが正解なんだろう。まだ恋人じゃないって言うのが正解? それとも、肯定するのが正解? 「今のキミならば私が知ることを受け入れることができるだろう。知りたいのならば、話してやる」  僕に視線を向けた師匠は――どこまでもつやめかしく、きれいだった。

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