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僕とキリアンが一階に降りると、シデリス殿下はすぐに見つかった。
彼はロビーにある情報誌を興味深そうに読んでいた。シデリス殿下の手元をエカードさんが覗き込んで、説明をしているみたいだった。
「ふぅん、そうなのか。――と、キリアンとジェリーが来たみたいだな」
シデリス殿下が情報誌を閉じ、僕たちに視線を移す。彼の視線は完全に情報誌に向いていたはずなのに、どうして僕たちが来たことに気が付いたのだろうか。まるで、頭の後ろにも目があるみたいだ。
「ジェリー、変なこと考えるなよ」
僕の耳元でキリアンがささやく。……なんだか、思考回路まで読まれているみたい。
「わかってるよ。ただ、ちょっとすごいなぁって思っただけ」
キリアンに言葉を返し、僕は手招きをするシデリス殿下に近づく。
促されるままに彼の目の前のソファーに腰掛ける。僕の真横にはキリアンが腰掛けた。
「お前ら本当に距離が近いな……」
疲れ果てたような表情でエカードさんが言葉を漏らす。なんだか申し訳ない。
僕がキリアンから距離を取ろうとすると、肩をつかまれて引き寄せられた。これじゃあ離れることが出来ないよ。
「キリアン」
「誰がなんと言おうと、ジェリーは俺のだ」
その言葉に顔に熱が溜まるのを実感する。う、嬉しい。嬉しいんだけど――。
「こ、こんなところで恥ずかしいこと言わないでよ――!」
誰に聞かれているかわからないんだから。今回の場合、エカードさんやシデリス殿下もいるんだから。
「別にいいだろ。そっちのほうが見せつける感じがして――」
キリアンの顔が僕に近づいてきて、僕は目をぎゅうっと強くつむった。
このままキスされるんじゃないか――って思ったのに、唇が重なる気配はない。
恐る恐る目を開けると、シデリス殿下が立ち上がって手を伸ばし、キリアンの肩をつかんでいた。
「別にいちゃつくのは構わないが、今は僕の話を聞いてもらおうか。こっちだって時間がないんだ」
「だ、だって、キリアン!」
これ幸いとばかりに僕がシデリス殿下のお言葉に乗っかると、キリアンは不本意そうに僕から顔を離す。
格好はつかないけど、僕は背筋を正してシデリス殿下を見据えた。彼は一度だけ「こほん」と咳ばらいをする。
「まず一つ、前提を話させてほしい。以前僕が伝達係に志願した経緯は、話した通りだ」
それは、確か――。
「あの大臣の息のかかった者を伝達係にしないため、だったか」
「そうだ。どうしてもクレメンスの息のかかった者にするわけにはいかなかったんだ。虚偽の報告をされては困るからね」
肩をすくめたシデリス殿下は、脚を組んだ。彼の目がキリアン、僕。そしてエカードさんと順番に見つめる。
「キミたちが飛ばされた後、僕は確信したよ。クレメンスのやつは、ろくでもないことを企んでいる」
ろくでもないこと。シデリス殿下のお言葉に、嫌な予感がした。
(師匠は、なにかを知っているんだろうか)
やるべきことがあると、師匠は言っていた。
師匠の目的とかは知らないけど、なんだか引っ掛かる。
上手く言葉には出来ないんだけど……。
「一番に思いつくのは、魔族と人間を争わせたいということだろうな。勇者がむやみやたらに魔族側を攻撃したとなると、戦のきっかけには十分だ」
シデリス殿下のお言葉の裏にある予想に僕はハッとする。
多分彼の考えていることは僕と一緒だ。
「あの、一つ、いいですか?」
僕がおずおずと手を挙げると、全員の視線が僕に集まった。
前までは注目されることも怖くてたまらなかった。ただ、ここ少しの間でいろいろなことがあったせいなのか、僕は成長している――と、信じたい。
「僕の予想が正しかったら、魔物の被害なんてないんだと思います」
ブレストリッチにたどり着く前も、たどり着いてからも。魔物の被害なんてなかった。
あえて言うのならば――僕たちが旅立ってすぐに現れた強化された魔物だけだ。
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