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Move on3
「ん〜やっぱり湊斗くんの淹れるコーヒーは美味しい。ネルドリップだからかな? 家で自分で淹れるとここまで美味しくない気がするんだ」
「ネルドリップとペーパードリップかで味は変わりますよ。後は蒸らし時間とか。気温や湿度でも変わるし、お湯の温度でも変わってきます」
「そんなに細かいことで味って変わるんだ。じゃあ同じ味がでるはずもないのかな」
「どちらが美味しいとかいうわけではなく、同じにはなりませんね」
「コーヒーって深いんだね」
「繊細ではあると思います」
淹れる条件での繊細さもあるけれど、コーヒーは保管も難しく湿気のあるところでの保管は厳禁だ。毎日気にせず飲むコーヒーだけど美味しく飲むには色々な条件をクリアしなくてはいけない。お店でコーヒーを淹れるときはエアコンで室内の気温を一定に保っているため、毎日同じような味を出すことができる。でも、家でコーヒーを淹れるのに一々そこまで気にはしないだろう。俺だって家で淹れるとお店と同じ味は出ない。
「やっぱり美味しいコーヒーを飲みたかったら来るしかないのね。でも、コーヒーもお店によって違うよね。職場近くのカフェでよく飲むんだけど、湊斗くんの淹れるコーヒーの方が美味しいのよね」
「ありがとうございます」
同じ豆を使ったとしてもお店によって味は違ってくる。ほんの少しの差でも味は変わるし、淹れる人によっても変わってくる。それでも、美味しいと言われるのは嬉しい。
「舞さんの期待を裏切らない味を提供するようにします」
「大丈夫。湊斗くんが淹れてくれたコーヒーで美味しくないと思ったことないから。ほんと湊斗くんはコーヒー淹れるの上手いよね」
きっと俺の淹れるコーヒーの味が舞さんに合っているだけだと思うけれど、それでもコーヒーの淹れ方に関しては専門学校だけでなく正門さんにも散々しごかれた。だから美味しいと言われると努力が無駄になってないと思って嬉しい。正門さんはコーヒーに関する資格をたくさん持っている人で、どれもレベルが高い人だ。だから正門さんのお店は市内でもコーヒーの美味しい店として有名だ。俺も正門さんにはまだまだおいつかないけれど、色々な勉強を常にしている。
舞さんは30分ほどおしゃべりをしながらコーヒーを楽しむと、今日はショッピングだからと言って帰って行った。そして店内はまた優馬さんと俺の2人だけになる。さっき告白されたこともあり、どうしたらいいのかわからない。
「湊斗くん。さっきなにか言いかけてたね」
沈黙を破ったのは優馬さんだった。時間は11時。忙しくなるにはまだ時間がある。優馬さんとは付き合えないことをはっきり言わないと。
「はい。あの、一応付き合っている人がいるというか。いや、今はそれが有効なのか無効なのかわからないけど、ずっと好きな人がいるんです。もう随分長いこと会ってないけど。だから優馬さんとはお付き合いできません」
「長いこと会ってないって?」
「はい。もう7年会っていないんです」
「そんなに? なんで? 訊いても大丈夫な話しかな?」
「話せますよ」
「じゃあ訊いてもいい?」
そう言って優馬さんが聞く姿勢になる。
「その人とは高校生のとき付き合い始めました――」
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