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切なくて残酷で綺麗で5

 大学の後期試験を終えたあと大輝はドイツへ2週間の短期サッカー留学へと旅立った。  たった2週間。それでも、中学から一緒にいて2週間も会わないのは初めてだ。でも会えないことよりもメッセージすらろくに来ないことが寂しかった。きっと忙しいのだろう。まして少しはドイツ語の勉強をして行ったとはいえ、ろくに言葉もわからない土地で誰も知っている人がいないという環境ではメッセージなんてしている余裕はないのだろう。それでも2週間だけだから、と必死に自分を励ました。   「大輝から連絡ないのか?」  大学が休みに入ってから俺と涼はバイトのシフトが入っていないときに暇を持て余して、近くの喫茶店でだべっている。 「ない。涼にはあるの?」 「湊斗にないのに俺にあるわけないじゃん。でも連絡なかったら寂しいだろ」 「寂しいけど、大輝の夢のためだもん。それに2週間だし」 「でも、場合によっては長期留学するかもしれないんだろ」 「みたいだね」 「湊斗、大丈夫なのか?」 「……」  大丈夫かどうか言ったら大丈夫なんかじゃない。この短い間だって辛いのに長期になんてなったらどうなってしまうんだろう。考えるだけで気が狂いそうだ。だけど、ずっと海外のサッカーチームでプレーしたいと言っている大輝の夢は叶えて欲しいんだ。その気持ちに嘘はない。だけど、寂しいと思うのとは別問題だ。 「俺だってカフェオーナーになる夢叶えたいって思ってるんだもん。大輝にだって海外のチームでプレーして欲しいと思うよ」 「それは頭では、だろ。でも人間なんだ理性と感情は別物だろ。今は俺とお前しかいない。本音を言ってみろ」 「……長期留学なんて行って欲しくないよ。でもドイツはトライアウトがないから留学するしか手がないんだ。大輝、ドイツ語の勉強してるだろ。そこまでしてるのにさ、他の国にしてくれなんて言えないよ」 「そうだな。でも、長期になったらさすがに連絡くれるんじゃないか? 大好きな湊斗にそれぐらいはするだろ」 「そう、かな。そうだよな」  仮に長期留学の場合連絡があったとして、でも会えないのは年単位になるんじゃないのか。いや、いくらなんだって休みくらいあるだろうからその間に会えるかもしれない。でもそれは2週間よりもずっと長い。短期でも長期でも寂しいのは同じなようだ。大輝は不器用なところがある。だから短期であれ長期であれ変わらないのだろう。 「もし大輝が長期留学したいって言ったらどうするんだ? 待つのか? それとも別れるのか?」 「わからない。大輝しだいだよ。俺は寂しいけど待ちたい。でも、大輝にとって俺が重荷となるのなら別れるんじゃないかな。大輝がどう思うか」 「健気だなー。ほんとに大輝のことが好きなんだな」 「好きだよ、知ってるじゃん」 「そうだけどさ、ここまで健気に想ってるとは思わなかったからさ」 「健気、なのかな。普通じゃん?」 「えー。健気だと思うけどなぁ。でも、大輝もかなり真剣だからいいのかな。大輝の友人としても、湊斗の友人としても嬉しいわ。片方が軽かったら絶対に別れさすからな」  その言葉で涼は俺と大輝のことを大事に思ってくれているんだということがわかる。 「2人の友人としては2人に幸せでいて欲しい。どんな形でも。それが俺の望みだよ」 「ありがとう」  大輝が長期留学をするのかはわからない。2週間の短期留学をしてみてほんとにドイツでやっていきたいと思ったら大学を中退して長期留学に行くだろう。でも、他の国にしようと思うのならトライアウトに合格するまでは日本にいるだろう。でも、プロとして海外のチームでプレーするのならいつかは離れ離れにならなくてはいけないんだろう。せめて、その期間が少しでも短ければ、と願ってしまう俺は酷い恋人だろうか。
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