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切なくて残酷で綺麗で4

 大学に進学した俺と大輝は時間がすれ違うことが多かった。大学の講義以外は少しのバイトとドイツ語の勉強、そしてサークルと忙しい大輝。サークルとカフェでバイトの俺。時間は平日のお昼時間か週末の夜という短時間だった。それでも毎日メッセージのやり取りはしていて、それで寂しさを紛らわしていた。   「なかなか時間取れなくてごめん」  今日は金曜日の夜。いつもならお互いにバイトが入っている時間だけど、サークルの集まりがあってバイトを休んだ大輝は飲み会を途中で抜けて、同じくバイトのシフトが入っていなかった俺と合流して喫茶店に来た。  平日のこの時間はお互いバイトが入っていることが多いけれど、こうやって会えることもたまにあるから、なんとかなるんだ。 「ううん。俺も結構バイト入れてるから。大輝だけじゃないよ」 「バイト、楽しい?」 「楽しいというか厳しいというか。でも、鍛えられててすっごくためになる。いいお店だよ」 「そっか。じゃあ今度バイトのシフト入らなかったときにでも行ってみるよ。カフェの店員さんやってる湊斗を見てみたい」    大学は高校までと違い生徒数がとにかく多い。学部が違えば知らない人ばかりなのに、その中で大輝は結構モテているのを知っている。太陽の下、走り回る大輝は陽に焼けていて、染めていない黒髪が逆に目立つ。本人も言っているけれど、すごくおしゃれをしているいわゆるおしゃれ男子ではない。けれど、きりりとした目元が男らしいと英語文化学科ではモテている、らしい。  それに本人はなにも言わないけれど、バイト先の女の子とかも大輝のこと好きな子はいそうだ。大輝はコンビニでバイトしていて、何度かバイト先に行ったことがあるけれど、そのとき一緒のシフトに入っていた女の子が少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに大輝に話しかけているのを見たことがある。  結局俺は大学生になってもモテる大輝にヤキモキしている。でも、そんなのもこうやって時間を取って会ってくれるから俺はやっていけている。きっと大輝がモテないなんてことはないんだろう。最近はそうやって思うようにはなってきた。   「あのさ、湊斗。俺、春休みになったらドイツのチームに短期留学に行ってくる」 「短期ってどのくらい?」 「2週間」  大輝は当初サッカーの本場イギリスをはじめ、イタリアを視野に入れていたけれど今はドイツを希望している。なんでも他の国では外国人枠というのがあり、その外国人枠の中で戦わないといけないけれど、ドイツには外国人枠というのがなく、サッカー留学をして試合経験を積むことでプロ契約へ繋がりやすい国なのだそうだ。トライアウトのないドイツではサッカー留学をしてプレーしてスカウトを得るしかないようだ。 「それで場合によっては大学をやめて長期のサッカー留学をするかもしれない」  長期のサッカー留学……。  海外のチームに入る試合経験を積むために短期間のサッカー留学に行くことはわかっていた。だから別に驚かない。でも、長期というのは頭になかった。 「短気だと言葉や環境に不慣れだからやっぱり難しいから。でも、2年、3年って時間かければ……。高校卒業時はイタリアを考えていたけど、でも今はドイツでプレーしたいからだから事情で変わって……」  大輝の言葉に俺はなにも言うことができなかった。身近にいれば、忙しくてなかなか時間が合わなくてもこうやって少しの時間を作って会うことができる。でも、海外へ行ってしまったらそんなことはできなくなる。大輝とどうなってしまうんだろう。俺の頭の中は大輝が遠くへ行ってしまう恐怖に捕らわれてしまった。大輝の夢は応援したい。でも離れ離れになるのが怖かった。  
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