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思い出のシーグラス5

 まず先にコーヒーが運ばれてきた。何の変哲もない普通のブラジルだった。でも、何時間も冷たい浜辺にいたからそれが体を温めてくれた。温かいコーヒーは体を温めるだけでなく、気持ちを落ち着けてくれるものだと思っているが、このコーヒーもそうだった。 「やっぱりコーヒーはいいですね。ホッとします」 「湊斗くんはほんとにコーヒーが好きなんだね」 「小学生の頃から飲んでますから」 「そんなに幼い頃から飲んでるの?」 「はい。よその家がジュースや紅茶を飲むようなときにうちはコーヒーを飲んでいたので。両親がコーヒー好きなんです」  そう。うちは両親がコーヒー好きなせいか、小学高学年になる頃にはジュースの代わりにコーヒーが出てきた。学校の調理実習で家から紅茶などをクラスメートが持って来ていたとき、紅茶というものが家になく親に紅茶のティーパックを買ってきて貰ったほどだ。家にジュースや紅茶というものはなかったのだ。ジュースがあったのは小学校の4年生くらいまでだ。それ以降は両親が淹れるコーヒーを飲んでいた。 「じゃあカフェをやりたいっていう夢は随分昔から?」 「はい。中学生くらいのときだったかな。喫茶店に連れて行って貰って、自分もお店を持ちたいなって思いました」 「そしてそれを実現させたんだね」 「そうですね。だから大学も将来活かせるような学部選びましたし」 「すごいね」 「いえ。でも、優馬さんも同じなのでは? デザイナーなんて」 「そうだね。小学生の頃にテレビでコレクションの様子を見てデザイナーになりたいと思ったんだよね。女性の綺麗なドレスが印象的だったんだ」 「それ、俺と変わりませんよ」  そう言って笑う。中学生のころお店を持ちたいと思った俺なんて遅いんじゃないかと思う。だって優馬さんは小学生だ。 「でも、それで優馬さんも夢を叶えたんですね」 「まぁそうなるのかな? 名前がブランドになるくらいのデザイナーになりたいけどね」 「イッセイミヤケとかみたいな?」 「そう。そんなのなかなかなれないけどね。でも、そのことでこれから海外へ行くことはないよ」  それまで穏やかに話しをしていたが、最後は声色が変わった。それは大輝のことを言っているのだとわかった。大輝が夢のために俺を置いて海外へ行ったから。しかも連絡もしないと言って。そのことに気づくと下を向くしかなかった。 「ゆっくり考えて貰うためにアピールしておかないとね」  そう言う優馬さんの声はいつもの穏やかな声に戻っていた。そのことにホッとする。告白されたときは返事を受け取って貰えなかったけど、今も受け取ってくれないだろうか。 「あの。優馬さん……」 「返事ならもっと考えてからにしてね。僕は本気だから」  やっぱり。涼と話していたとおり本気だ。どれだけ時間をかけても俺の気持ちは変わらないのに。そう言ってもダメだろうけど。なんでそんなに俺に本気になったんだろう。  そう思ったとき、メインのオムライスが運ばれてきた。

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