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思い出のシーグラス4

 そう言って優馬さんが連れてきてくれたのは、普通に想像するレストランではなかった。というより、そのお店は看板にはカフェ&バーになっていた。でも、優馬さん曰く簡単な洋食メニューは提供されており、普通に食事時になると洋食目当てのお客さんが来るという。  海岸沿いにある店内に入ると店内の様子にびっくりする。天井は高く、窓も大きいので圧迫感はなく開放的だ。驚くのはそんなところにではない。驚いたのはインテリアにだ。  すぐそこの海岸で集めたという流木や石、砂をふんだんに使ったオブジェが飾られていて、窓辺の席は外の景色と相まって店の中にいることを忘れてしまいそうだ。そんな窓辺でゆっくりとコーヒーでも飲みたいところだけど、目的はコーヒーではない。食事だ。  店員に食事だということを告げると店の奥に通される。奥の席は、吊り下げ照明のかさが流木だったり壁際には海岸で拾ってきたのだろう石が置かれているものの、落ち着きのある洋食店の赴きだった。  こんなに素敵なお店だったらコーヒーでも飲みながら本でも読んで、その合間に窓の外に広がる海に目をやってゆっくりと1日を過ごしてみたい。そんなことを思わせる店内で、俺は一目でその店を気に入った。 「とても素敵なお店ですね。ゆっくりとコーヒーを飲みながら時間を過ごしてみたいです」 「気に入ってくれたようで良かったよ。俺も友人に教えて貰ったんだけど、ほんとにゆっくりと過ごせたよ。天井が高いから圧迫感がなくていいよね」 「ええ。それに窓の外に海が広がっているのが最高です。お天気の良い日に窓辺で過ごせたら最高でしょうね」 「さ、そんなことより食事を頼もう。僕はオムライス一択なんだけど、湊斗くんはどうする?」 「俺も同じで」 「飲み物は? コーヒーでいいのかな?」 「はい。ホットで」  メニューを決めたところで店員がやってきて、優馬さんが注文してくれる。オムライスなんて最後に食べたのはいつだろう? 洋食の人気メニューで、洋食を提供しているお店ではないことはないメニューだけど、注文するとは限らない。逆に家でも作れるメニューだからこそ外で食べないメニューと言えるかもしれない。 「オムライスはデミグラスソースなんだけど、それが最高なんだ」 「そうなんですね。デミグラスソースなんて手がかかるから、家では作りませんね。オムライスなんてもう長いこと食べていないから楽しみです」 「それなら良かった。ただ、コーヒーは湊斗くんが淹れるのには負けるかな。それが少し残念」 「そんな。でも、他の人が淹れてくれたコーヒーを飲むことって少ないのでちょっと楽しみです」  そう。他の人が淹れてくれたコーヒーを飲む機会は少ない。普段はお店があるから自分で淹れたコーヒーしか飲まないし、そうなると休日となるとほとんど家にいるので家でも飲むのは自分で淹れる。数少ない外出したときくらいしか外で飲むことはない。でも、チェーン店のコーヒーはマシンが淹れることが多いから味も画一的だし、人が淹れたとは言い難い。でも、さっきちらりとカウンター内を見たらマシンではなさそうだった。だから人が淹れてくれるだろう。他の人が淹れてくれたコーヒーを飲むのは俺の師匠の店に行ったときくらいで、師匠以外の人が淹れてくれるコーヒーなんてもう何年も飲んでない。だから味とかよりも淹れて貰えることが俺にとっては価値あるものだった。  何年も食べていないオムライス。何年も飲んでいない師匠以外の人が淹れてくれるコーヒー。それに俺はわくわくしていた。
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