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思い出のシーグラス3
大輝と一緒にシーグラスを拾ったときのことを思い出しながら、シーグラスを探す。しばらくそうして探していると、薄いグリーンのシーグラスを見つけた。
「湊斗くん?」
シーグラスを拾っていると誰かに名前を呼ばれた。声は駐車場の方から聞こえていて、ポツンと止まった車の脇に優馬さんが立っていた。
「優馬さん」
「やっぱり湊斗くんだ。こんなところでなにしてるの?」
「優馬さんこそどうしてこんなところにいるんですか?」
「僕はクルーズの帰り。友人がクルーザーを持ってて朝から海に出てたんだ」
俺は優馬さんの言葉にびっくりした。だってクルーザーを持ってる友人がいるなんて。確か優馬さんは俺と4歳くらいしか年は変わらないはずだ。なのに、クルーザーを持っている友人って。優馬さんはデザイナーだから、周りの人たちもそういった関係者なのかもしれない。俺とは住む世界が違う。
俺がそんな風に考えていると、優馬さんはゆっくりと砂浜に降りてくる。
「今日は波も静かだし、天気もいいから海はいいですよね。俺はシーグラスを拾ってました」
「シーグラス?」
「はい。これです」
そう言って俺は拾ったばかりのシーグラスを優馬さんに見せる。
「あぁ。シーグラスってこれか。綺麗だね。あれ、これってお店に飾ってなかったっけ?」
「飾ってありますよ。俺が拾ったシーグラスです」
「道理で見覚えがあるはずだ。新しいコレクション?」
「そうですね。海に来ると癖になっちゃってるっていうのもありますけど」
「僕も探すよ」
そう言って優馬さんは砂浜に目を落とす。そうして俺と優馬さんは無言でシーグラスを探す。
どれくらいそうして探していただろう。空があかね色に染まっていたことに気がつき顔をあげると、同じタイミングで優馬さんも顔をあげる。
「なかなかないものだね。はい、これ」
優馬さんは拾ったシーグラスを俺にくれた。
「湊斗くんのコレクションに加えて」
「ありがとうございます」
「ところで、湊斗くんはこのあと予定は?」
「特にないです。後は帰るだけです」
「そう。そうしたら一緒に食事でもどうかな? 少し早い夕食でも」
「俺は構いませんけど」
「なら決まり。この先にオムライスの美味しいお店があるんだ」
そう言って優馬さんは車へと戻る。それは特に車に詳しい訳ではない俺が見ても一目で高級車とわかる車だった。友人がクルーザー持ってたりするんだから、当然車だって高級車だよな。そんなことを考えながら車を見る。
そういう俺は車は持っていない。実家も今のマンションも駅から近く、どこへ行くにも苦労しない。逆に車で出かけると出先で駐車場を探すのに苦労するから車は必要ない。だから車の必要性を感じたことはない。現に俺の店にだって駅からはさほど遠くないし、駐車場はない。それでも、お金のある人は買うのかもしれないけど。
砂浜に座っていたからそのまま高級車に乗るのはさすがに気が引けてズボンの砂をパンパンと払ってから助手席に乗る。車の中はサンダルウッドのいい香りがした。イケメンは顔だけじゃなく持っているものの細部までイケメンなんだな、とそんなことを思う。
「お店はすぐそこなんだ。オムライスがほんとに美味しいんだ」
そう言って優馬さんは車を出した。
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