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交差する想い1
オムライスを食べて、満足して店を出た。また海に来たときにでも寄ろう。
「湊斗くん送るよ」
優馬さんは自然にそう言うけれど、いいんだろうか。一瞬そう思うけれど、ここで断る方が不自然だ。そうしたら送って貰おう。
「乗って」
そう言って助手席側のドアを中からわざわざ開けてくれる。
「ありがとうございます」
「家まで送って行くけど場所は知らないからナビゲートしてね。どの辺まで行けばいいの?」
「お店の最寄り駅まで行って頂けますか? そこから近いので」
「わかった」
優馬さんはそう言うと小さく音楽をかけ、静かに車を出した。
「でも、今日は偶然会えるなんて思わなかったよ。湊斗くんはよく海に行くの?」
「半年に一度か1年に一度ぐらいですかね。落ち込んでいたり、気持ちを落ち着けたいときに行く感じです」
「じゃあ、僕邪魔しちゃった?」
「いいえ。もう気持ち整ってたから大丈夫ですよ」
「気持ちを乱したのは僕? って自意識過剰? この間、急に告白なんてしちゃったから」
そうだよな。あの告白からまだそんなに日にちは経ってない。そんなときに気持ちを落ち着けたいって言ったらそう思うよな。こういうときなんて返せばいいんだろう。
「って、ここでそうだとも言い辛いか。ごめんね」
「いえ……」
「湊斗くんのことはほんとに好きなんだ。でも、今すぐ返事を欲しいとは思わない。だって、僕のことよく知らないでしょう。そんな状態での返事なんて聞かなくてもわかるから。だから時間をかけて、ゆっくり考えて欲しいんだ。湊斗くんを置いて行った彼みたいに寂しい思いはさせない。それだけは約束する。だから、今はまだ返事はしないで、俺のことを知って」
これから時間をかけて優馬さんのことを知ったら大輝よりも好きになるなんてあるんだろうか。確かに大輝がドイツへ行って、連絡もなくて寂しい。それは間違いない。でも、だからと言って他の人を好きになるなんてことはあるんだろうか。寂しいときに親切にされたらグラッとくることはあるのかもしれない。それは好きになるってことなんだろうか。
確かに寂しい。ドイツへ行くにしても連絡くらい欲しかった。サッカーに集中したいのならたまにで良かった。でも、大輝はそのたまにの連絡さえしないと言った。それはたまにであれ連絡をすれば帰って来たくなるからだろう。それがわからなかった。だけど最近、大輝の言っていたことがなんとなくわかるような気がした。俺は置いていかれたほうだから違うかもしれないけれど、会えないというだけで恋しくなる。そこで連絡がきたら気持ちはそちらに引きずられてしまうんじゃないかと思う。でも連絡を取らなければ会いたいという気持ちだけで、やらなくてはいけないことには集中できるんじゃないかと思う。それが正解かはわからないけれど。もし、俺がなにかに集中したいとしたらそうするかもしれない。なんとなくそう思った。かと言って、連絡もしないなんてと言って怒る涼の気持ちもわかるのだけど。
そんなことを窓の外を見ながら考える。優馬さんは自分のことを知ってからと言うけれど、優馬さんのことをもっと知ったら気持ちが変わることはあるんだろうか。大輝以上に好きになることが。
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