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交差する想い3
食事くらいなら、と軽くOKしてしまったけれど良かったんだろうか。でも、それでオフの俺を知って幻滅してくれればいいのかもしれない、と思ってしまう。ほんとに、どこにでもいる普通の男なんだ。特に綺麗でもイケメンでもない。馬鹿みたいにコーヒーが好きなだけの男だ。そんな男だから告白されてびっくりしてしまった。だって優馬さんは穏やかな微笑みをいつも浮かべている優しげなタイプのイケメンだ。それでファッションデザイナーをやっているんだから、間違いなくモテるだろうし、そんな人が俺なんかを好きだと言うのが信じられない。会話が途切れ、静かになった車の中でそんなことを思う。
でも、きっと何回か食事を一緒にしたら幻滅してくれるだろう。こんなにつまらない男だったのかと。自分のことをそう言うのはちょっと悲しいけれどほんとのことなのだから仕方ない。
「湊斗くんって食べ物何が好き?」
信号で車が止まっているときに優馬さんが俺をチラッと見てそんなことを訊く。そうか、食事に行くなら食の好みは大事だ。
「なんでも好きですよ。和・洋・中、なんでもいけます」
「生ものは大丈夫?」
「大丈夫です。逆に好物です」
「そう。それなら美味しい寿司屋があるんだ。今度そこへ行こう。ネタがとにかく新鮮で美味しいんだ」
「お寿司好きです。楽しみにしてますね」
「来週の月曜の夜なんてどう? お店が終わった後にでも。翌日は休みでしょう」
優馬さんは今、打ち合わせが多いらしく平日の夜誘われる。俺は平日の夜はたまに涼と会うくらいなので時間は空いている。
「はい。楽しみにしてます」
「僕も楽しみにしておくよ。湊斗くんとのデートだからね」
デート。そんなに甘い物になるだろうか。それでも俺のことを好きだと言ってくれる優馬さんにとってはデートになるんだろう。優馬さんなら、もっと綺麗な女性も男性も選び放題だろうに。つい、そんなことを思ってしまう。
でも、俺も楽しみというのはほんとだ。残念ながらそれは優馬さんと食事に行くからではなく、久しぶりにお寿司を食べれるからだ。美味しいお寿司を食べようとするなら、どうしてもいい値段がしてしまうのでいつもは食べられない。食べるのはなにかあった時ぐらいだ。だから来週の月曜が今から待ち遠しい。
すると隣からくすくすと笑う声が聞こえた。どうしたんだろう、と優馬さんに視線を向ける。
「なんだか楽しみにして貰えてるみたいで嬉しいよ」
俺が喜んでいたのは顔に出ていたようで恥ずかしくなる。
「すいません……」
「謝らないでよ。理由はどうであれ楽しみにしてくれるのは嬉しいから。だって、どんなに好きなものでも嫌いな人と行くのは楽しみにならないでしょう。だから」
「嫌いだなんてとんでもない!」
「うん。今はそれだけでいいんだ」
優馬さんのことを嫌いだなんてあり得ない。もちろん、まだ、どんな人かわからないから好きとは言えないけれど、お店で見かける優馬さんは穏やかで好感が持てる人だ。
「食べることって好き?」
「好きです。美味しいもの食べると幸せだなって思いますもん」
「そうか。じゃあ、美味しいものいっぱい食べに行こうね」
食事に行く目的が少し違ってきそうだけど、美味しいものを食べに行くのはやぶさかではない。そんなことでいいのかわからないけれど。
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