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交差する想い5
くしゅん!
暖房もつけずに玄関でしゃがみ込んでいたらくしゃみをして我に返る。考えるにしても部屋に入って暖房をつけてからにしよう。その前に風呂に入って体を温めよう。そう思って風呂のスイッチを入れ、暖房を入れてソファーに座る。風呂が沸くまで時間もかかるし、その間にコーヒーでも淹れよう。気持ちを落ち着けるのにコーヒーを淹れるのは適している。
まずはベッドサイドテーブルに置いてあるガラス瓶に今日拾ってきたシーグラスを入れる。だいぶいっぱいになってきた。海に行くたびにシーグラスを探しているんだから、いくら1回で拾ってくるのが少しだとしてもガラス瓶いっぱいになってくるのも当然だ。もうシーグラスを拾うのはやめようか。今あるシーグラスだけで十分だ。
とりあえずキッチンへ行き、コーヒー豆を挽く。コーヒーの良い香りがして、これだけでも気持ちが落ち着く。そして、今日は面倒なのでペーパードリップにする。お店ではネルドリップにしているけれど、家では洗うのが面倒なときなどはペーパーフィルターを使うこともある。
ケトルでお湯を沸かし、まずは蒸らしてそれからゆっくりとコーヒーを落としていく。そうしていると、またコーヒーの良い香りがしてくる。やっぱりコーヒーを淹れるのは気持ちを落ち着けるのに向いている。これからの寒い時期は海に行くより家でコーヒーを淹れる方がいいかもしれない。
コーヒーが落ちたところで、淹れたてのコーヒーを口に含む。今日は酸味よりも苦みがたつマンデリンにした。家にも常に数種類のコーヒー豆をストックし、その日の気分で飲んでいる。
コーヒーを飲んでいると風呂が沸いたという軽やかな音がするので、コーヒーをグッと飲み、着替えを持って風呂場へ行く。冷えていた体もコーヒーで少しは温まった。
まずは洗髪をし、体を洗い、最後に湯に浸かる。コーヒーで少し温まった体が熱い湯で完全に温まり、ため息が出る。
優馬さんと食事やカフェに行くことは承諾したけれど、それはほんとにいいんだろうか、と今になって考えてしまう。それは優馬さんに期待をもたせてしまうことになるんじゃないか。だとしたら今さらだけど断った方がいいのかもしれない。でも……。
大輝が好きだ。それは変わらない。でも、辛くなるときがある。今はちょうどその時期だ。誕生日が過ぎた今。大輝が迎えに来てくれるかもしれない、という期待が粉々に砕け散って精神的にはちょっとキツかった。だから海へ行った。そんなときに優馬さんと食事に行ったりするのは利用していることになるだろうか。優馬さんは利用していいと言った。それでも嬉しいと。でも、ほんとにそんなことで利用したら酷い人間じゃないだろうか。でも、今日一緒に食事をした時間は楽しかった。そんな時間を過ごすのは悪くないと思う。だけど……。
風呂の中でそんなことを考えていたら逆上せてきてしまい、慌てて風呂からあがり水を飲む。
頭の中はまだまとまっていない。涼に相談してみようか。スマホを手に持ち、涼にメッセージを送る。
『優馬さんに食事行ったりしたいって言われてついOKしちゃったけど、期待もたせちゃうかな。今日一緒に食事して楽しかったから、つい承諾しちゃったんだ。今は、嫌いでなければいいって。そして大輝のことで辛いなら利用していいって。どうしたらいいんだろう』
そうメッセージを送ったら、すぐに涼から電話がかかってきた。
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