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交差する想い6

「なに。食事に誘われたの? てか今日、定休日じゃん」 「うん。海に行ったら偶然会って一緒に食事をしたら、今度食事に誘われてついOKしちゃったんだ」 「それで、それは利用することになるんじゃないかって思ったのか」 「そう。で、今は嫌でなければそれでいいって言われた」 「ほー。本気だな」 「だよね? だとしたら、期待もたせちゃうのは申し訳ないから今からでも断った方がいいかなって思ってさ」 「期待もたせるっていうか、まぁそうだな。一緒に食事行ったり話したりして相手がどんな人か知っていかないと答えなんて出ないから、まずは気楽に食事に行ってもいいんじゃん」 「でも、俺が好きなのは大輝だ」 「だけど、海に行ったんだろ」  涼は俺がどんなときに海に行ったりするか知っている。つまり、今日、海に行ったということは気持ちを落ち着けたいからだとすぐにわかるだろう。今年も迎えにきてくれなかった大輝。俺のことなんて忘れてしまったかもしれない。離れている間に俺以外の人を好きになってしまったかもしれない。そんなことで心が乱れていた。だから海に行った。 「俺さ、湊斗が幸せになるならいいと思ってるんだ。そのための相手が大輝でも、その優馬さんっていう人のどちらでもいいと思ってる。相手が誰であれ湊斗が幸せならいいんだよ」 「涼……」 「だから別に絶対に大輝にしろ、とも大輝はダメだとは言わない。大輝のことはもうどんなやつか知ってるだろ。だから次は優馬さんっていう人を知ってもいいんじゃないか」 「それは浮気にならない?」 「どうなんだろうな。大丈夫じゃね? まぁ、でも浮気にしても大輝は文句言えるような立場にないからな」  涼は大輝の幼馴染みなのに、大輝にも厳しいことを言う。俺を置いてドイツへ行き、連絡もしないと言ったことが涼にとっては気に入らなかったらしく、俺の肩を持ってくれる。 「まぁ、でも約束しちゃったんならまずは行ってみたらいいと思うよ。そしたら大輝の方がいいって思うかもしれないし、優馬さんがいいってなるかもしれないし。それはそのときに考えればいいよ」 「そっか」  もう一度一緒に食事をしてから今後どうするかを決めてもいいっていうことかな。やっぱり大輝じゃなきゃ嫌だと思うか、大輝よりも優馬さんの方がいいと思うかもしれない。俺は大輝じゃなきゃダメだと頑なに思いすぎなんだろうか。大輝との思い出が美化されてしまっているんだろうか。それは大輝に会ってみないとわからないけど、大学生の頃の俺にとっては大輝以上の人はいなかったとしても今の俺が見たら、なんで大輝に拘っていたんだろうと思うこともあるかもしれない。それはほんとにわからない。 「その優馬さんていう人のことをもっと知ってもいいと思うし、そのためにまずは気楽に食事行ってもいいと思うよ。俺は賛成」  気楽にか……。優馬さんがそれでいいのなら、すぐに答えを出すとかではなく、優馬さんを知るために気楽に食事に行ったりしてもいいのかもしれない。それは優馬さん次第か。優馬さんはいい人だから友人として仲良くできたらと思う。そしてもっと優馬さんのことを知ったら気持ちが変わることがあるかもしれない。  あぁ、そうか。だから優馬さんは利用していいと言ったのかもしれない。人として優馬さんのことをいいと思ったら、どんなに大輝に固執しようとしても心が動くことはある。  そして大輝は言ったんだ。”俺じゃなくてもいい”と。もちろん、そのとき俺は大輝じゃなきゃとは言った。でも、大輝も長い間離れることで俺の心が変わってしまうこともあると思ったのかもしれない。迎えに来ると約束はしてくれたけれど。   「まぁ、まずはさ、その優馬さんのことを知ることが先決じゃん? 鬼が出るか蛇が出るか、それは神様にもわからないよ」 「そっか」 「そう。だからまずは、その約束した日一緒に食事行ってみたら? で、今後のことはそのときに決めてもいいと思うしさ」 「うん」 「大輝のことなら大丈夫。あいつがなんて言おうと俺が許す」  涼のいつものその言葉に俺はつい笑ってしまった。涼はいつもこうやって俺の心をほぐしてくれる。最高の友人だ。 「で、俺はその優馬さんに会ってみたい」 「涼のこと話したから、そのうち平日の夜来るかもよ。友人といるオフの俺を見たいって言ってたから」 「ほー。それは楽しみだ」  涼とそんなことを話して、優馬さんと食事に行くことくらいはいいのかな、と思った。  そして思う。大輝と生きて行く世界を選ぶことはこんなにも切ない。この先どうなるかはわからない。でも、今の状態では世界は切なくて。だけど綺麗で。誕生日に迎えに来ると言った約束は忘れられない。じゃあ優馬さんと生きて行く世界はどうなんだろう。優しい世界なんだろうか。切ないことなんてないんだろうか。

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