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交差する想い7
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街がクリスマス一色になっている。でも、俺が今住んでいるドイツとはまた違った盛り上がり方だ。ドイツではクリスマス礼拝があり家族で過ごすが、日本ではほとんどお祭りで家族と過ごすのは子供のいる家庭くらいで、後は恋人や友人と過ごすのが一般的だ。
俺はドイツに住んでいるけれどクリスチャンではないし家族は日本にいるので、クリスマスの大型連休は1人で過ごすか、こうやって日本に数日一時帰国をする。そしてクリスマスを控えた今日、まさに日本に一時帰国したところで、幼馴染みの涼を待っているところだ。
「悪い。待ったか?」
涼はそう言って息を切らしてやって来た。
「いや、大丈夫。それより年末の忙しい時期に悪いな」
「まぁ忙しいけどな。でも、普通この時間なら帰れるんだけど今日は特別。帰り際にトラブルが起きたから。それにお前が時間取れるのなんてクリスマス休暇の今くらいだろ」
「そうだな」
「あ、すいません。ホットコーヒーお願いします」
涼はウエイトレスにコーヒーの注文をする。
「俺、お前に言いたいことがあるんだよ」
涼は席につくなりそう言った。
会うたびに俺に言うことがある、と涼は言う。”湊斗に連絡をしろ”と。俺が連絡もしない、と言ってドイツへ行ったことが涼は気に入らないのだ。
湊斗とは連絡を取っていない。けれど、涼とは1年に一度、忙しいときは2年に一度くらいはこうやって会っている。涼いわく、こうやって会う時間があるのなら湊斗へ連絡のひとつ取ればいいのに、という。俺だって何度湊斗に連絡をしようと思ったことか。涼とこうやって会うときに、3人で会ったら、そう思ったことだってある。だけど、会ったら後ろ髪を引かれる。会わないで連絡だけにしても会いたくなる。だから俺は連絡を取れない。取らないんじゃない。取れないんだ。
そして、涼が俺に話したいことと言ったらそれだろうと思った。でも違うようだ。
「連絡をしろってことだろ」
「違う。いや、それもあるけど。湊斗、告白されたぞ。で、一緒に食事行くって言ってる。俺はそれもいいんじゃないかって言った」
湊斗が告白をされた……。湊斗は素直で色も白くて可愛いから告白をされてもおかしくない。涼が今までそう言ったことを俺に言ってきたことはないが、今までだってあったんじゃないのかと俺は思っている。
「涼の知ってる人?」
「いや。お店の常連さんらしいけど、時間帯が違うみたいで俺は会ったことない」
「そうか……」
「そうか、ってお前。それでいいのかよ。俺は反対しなかったからな。食事行って、その人がどんな人か知るのもいいんじゃないかって言った」
涼は、俺がドイツへ行くとき連絡くらいしろ、と言って怒った。今もその気持ちは変わっていないらしくて、こうやって会うたびに文句を言われる。だって涼とこうやって会うと、湊斗の話題が出るに決まっているから。
湊斗が俺以外の人を選ぶかもしれない。そのことを考えたことがないわけじゃない。俺以外にいい人なんてたくさんいる。だから、他の人に気持ちが移ることもあり得るかもしれない、そう思ったことなんて一度や二度じゃない。
俺がいないことで湊斗の心が他の人に傾いたって、それに対して俺はなにも言えない。ほんとは考えるだけで頭がおかしくなりそうだ。でも、連絡をしないと決めた俺にはなにも言う権利はないんだ。連絡をしないと決めた時点で俺はそうなるかもしれない未来を受け入れたんだ。
「湊斗の幸せを願ってやってくれ」
「お前はそれでいいのかよ。その人に取られるかもしれないんだぞ」
「仕方ないよ。連絡取らないと決めた時点で、そうなるかもしれないことは覚悟はしてたよ」
「お前……」
「本音は誰にも渡したくない。俺以外の人を見て欲しくない。でも、俺にそれを言う権利はないんだ」
涼は運ばれてきたコーヒーを口にして、苦い顔をする。コーヒーが苦いわけじゃない。俺が言った言葉に対してだろう。そういう気がした。
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