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交差する想い8
「俺も湊斗には幸せになって欲しい。湊斗には、お前じゃなくたっていいと言ったけど、ほんとはお前と幸せになって欲しいって本音では思ってるよ。湊斗も大事な友人だけど、お前も大事な友人だからな」
「ありがとう」
「で、いつ引退するんだ」
「なんか引退を待たれてるみたいだな」
「だって、引退したら迎えに行くんだろ」
「そうだな。まだはっきり決めたわけじゃないけど、来年あたりかもしれない。だいぶキツくなってきた」
引退を決めたら。迎えに行くと約束した。来年1年くらいが限度かもしれない。だから、決めたら迎えに行く。それまで他の人のものにならないで欲しい。そんなことを言う権利はないけれど、そう願ってしまう。
「そっか。じゃあ、決めたら迎えに行けよ」
「行くよ」
「それまで他の人のものにならなきゃいいな」
「そうだな」
あと1年。短いようで長い。それまで湊斗は俺を待っていてくれるだろうか。その告白してきた人のところへは行かないだろうか。俺には言う資格もない。それでもそう勝手に願ってしまうその思いは静かに胸の中で願った。
「っていうか、湊斗が今までお前に一途で誰にも心が傾かなかったのも驚きだけど、お前も湊斗一筋だよな。お前なんて中学の頃から湊斗のこと好きだろ」
「そうだな。中学のときから好きだな」
「ドイツでいい人いないの?金髪の綺麗なお姉さんとかさ。男はちょっと厳つい感じあるけど、女の人は綺麗でいいだろ。お前、初恋は普通に女の子だったしさ」
そう。俺は中学のときから湊斗のことが好きだ。涼に紹介されたとき一目惚れしたんだ。でも、俺はゲイと言うわけではないと思う。涼の言う通り初恋は小学2年生のとき、隣の席の女の子が好きだった。だから女の人を好きになることは普通にあることだ。でも、どうしてかドイツへ行ってから誰にも心が動いたことがない。それは男性に対しても同じだ。俺の心は湊斗に捕らえられたままだ。
「湊斗以外の人でいい人なんて誰もいないよ。湊斗以上の人なんていない」
「ほんとお前たちってすごいよな。中学生のときからなんて10年以上だぞ。付き合い始めたときからだって10年だろ。俺には想像できないよ」
「俺以上の人なんて他にもいると思うけど、湊斗以上の人はいないから」
「俺には理解できないよ」
そう言う涼に俺は小さく笑った。傍から見たら10年以上同じ人を思い続けるのは驚くことなのかもしれない。でも湊斗はどうかわからないけれど、俺はこの先の人生を湊斗と歩んでいきたいと思っている。だから、引退を決めて迎えに行くときにはそういう気持ちで行く。
「まぁ、でもさ。それだけ強く想ってるなら早く迎えに行けよ。引退決めたらさ、湊斗の誕生日じゃなくたっていいじゃん。すぐに迎えに行けよ」
「そうだな」
「そうだな、ってお前さー。ほんと早くしないと取られるかもしれないんだからな。それは覚悟しとけよ」
「ああ」
長い間待たせている。だから、心変わりされたって仕方がない。でも、どこかでこの先の人生は湊斗と歩んでいけると信じている自分がいる。心変わりなんてされないと。だから、どうかそれまで待っていて欲しい。それは言葉にしない願いだった。
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