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伝わる気持ち5
その日、優馬さんは珍しく平日の夜、店にやってきた。
「平日の夜って珍しいですね」
優馬さんが来るのは週末の昼間か平日の昼間だ。夜来ることは少ない。
「湊斗くんのお友達に会ってみたくてね」
「ここ2、3日来てないから今日は来ると思うんですけど。何にしますか?」
「今日はグァテマラで。それとチーズケーキある?」
「ありますよ。ラストワンです」
コーヒー豆を挽いてネルドリップでコーヒーを落としていく。グァテマラは甘いナッツのようなコクがある。それにチーズケーキ。間違いなくお疲れなんだろう。
「お疲れですね」
「うん、今日はね。でも、先週末出勤したし、打ち合わせも終わったから明日は休み。だから明日、昼間来ようかとも思ったんだけどね」
「今日来て、明日来てもいいんですよ?」
俺がおどけてそういうと優馬さんは、確かにね、と笑った。
「お待たせしました」
そう言ってコーヒーとチーズケーキを出したところでドアベルが鳴る。見ると涼だった。
「いらっしゃい」
「湊斗ー。疲れたよ。苦みの強いコーヒーが飲みたい」
「じゃあ今日のブレンドにするよ。コロンビアやマンデリンで苦みを強くしたから」
「あとケーキ食べたい」
「チーズケーキは出たばかりで売り切れだからフルーツタルトになるけどいい?」
「うん」
「涼もお疲れだね」
「なんだかね。上司に疲れた」
涼とそんなふうに話していると、優馬さんがぴくりとする。涼との会話で友人だとわかったんだろう。
「お友達?」
「あ、はい。涼っていって中学時代からの友人です。優馬さんが会いたがってた」
「え? 優馬さん?」
涼の方も相手が優馬さんだと知り反応を示す。お互いに会いたがっていた2人だ。
「お噂は兼々。でも、ほんとイケメンですね」
涼がそう言うと優馬さんがそれに言葉を返す。
「そんなことないですよ。湊斗くん、イケメンだなんて言ったの?」
「はい。優馬さんって言ったら柔らかいタイプのイケメンですよね。だからそのまま言いました」
俺がそう言うと優馬さんは恥ずかしそうに微笑む。うん、やっぱりイケメンだ。
「コーヒーカップが似合うなぁ」
「なにそれ」
涼の言葉に思わず笑ってしまう。コーヒーカップなんて誰にでも変わらないだろう。そう言うと、違うんだと反論される。
「もうさ、湊斗もイケメン見慣れすぎてわからなくなってるんじゃないの」
「いや、涼の言ってる方がわからないから。イケメンだからなんでも似合うならわかるけど」
「それそれ!」
俺と涼がそう言って話していると優馬さんは楽しそうに笑った。
「ほんと仲いいんだね」
「まぁ、そうですね。今まで続いてるし」
「中学のときから、もう1人大輝っていうのがいて3人でよくつるんでたんです」
涼の口から大輝の名前が出てきてドキリとしてしまう。きっと優馬さんにもわかっただろう。そして涼はそれを承知で大輝の名前を出したんじゃないかと思った。
「その大輝くんっていうのは?」
「今はドイツにいます」
これで完全に俺が好きな人だとわかっただろう。俺は名前は出していないけれどドイツに行っているということは話しているから。そして、優馬さんが反応するのを承知で涼は話している。まぁ隠しているわけではないからわかってもいいのだけど。
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