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伝わる気持ち7

「じゃあ僕は帰るね。湊斗くん、ご馳走様でした」 「お気をつけて」  一足先に優馬さんが帰って行った。涼はまだコーヒーを飲んでいる。優馬さんと結構話してたからコーヒーが残っているはずだ。 「コーヒー冷めちゃってるんじゃないの? ブレンド一杯分残ってるから淹れるよ。それ貸して」 「ありがとう」  涼からカップとソーサーを下げ、先にコーヒーを淹れる。 「優馬さんっていい人なんじゃない?」  疑問形にしているけれど、ほんとにそう思っている響きがある。 「うん……」  優馬さんは俺もいい人だと思う。いい人だからこそ、俺にいれこんでいるのはもったいないと思う。優しくて穏やかでイケメンだから優馬さんのことを好きな人はたくさんいるはずだ。 「どうした?」  新しく淹れたコーヒーを涼の前に置く。俺が言葉を濁して、視線を下げたことに涼はなにが言いたいのか訊いてくる。 「なんか、自意識過剰みたいな言い方で嫌だけどさ、俺のことを好きだって言ってくれているのは優馬さんの時間を無駄遣いしているみたいで申し訳なくて」  一口コーヒーを飲み、涼は口を開いた。 「湊斗は優馬さんのことどう思ってるの?」 「いい人だと思う」 「一緒にいてどう思う?」 「やっぱり優しいし、美味しいものを食べるのが好きっていう共通点もあるから一緒に食事をするのは楽しい」 「その一緒にいて楽しいっていうのはそのうち恋になるものじゃない?」 「でも、俺は大輝が好きだし、大輝に感じるときめきとか安心感とかは優馬さんには感じないんだ」 「今はね。でも、可能性としてはゼロじゃないんじゃないの? 俺としては優馬さんいいと思うよ。湊斗を置いていった馬鹿大輝なんかよりいいんじゃないかな。俺は優馬さんいいと思うよ」  この件に関して涼は大輝に対して辛口だ。連絡もしない、と言ったことでお冠なのはわかっている。その涼からしてみたら優しい優馬さんというのは点数が高いのだろう。 「2、3年ならまだしも、7年も待たせてるんだよ? それを待っちゃう湊斗も湊斗だけど」 「……」 「湊斗は自分のことを大切にしなきゃ。そして湊斗のことを大事にしてくれる人を選ばなきゃ」  俺は俺のことを大切にしていないのだろうか。そして大輝は俺のことを大事にしてくれていないんだろうか。自分では自分のことを大切にしているつもりだし、大輝だって大事にしてくれていると思っている。大輝は言ったんだ。俺じゃなくてもいいって。 「涼。大輝は悪くないんだよ。待たなくていいって、俺じゃなくてもいいって大輝は言ったんだよ。それを大輝じゃなきゃ嫌だって言ったのは俺なんだ。だから大輝を悪く言わないで」  俺がそう言うと涼は大きくため息をついて言った。 「湊斗。もっと自分を大切にしなきゃ。7年も時間を無駄にしてるんだぞ。それに大輝のこと庇ってるけど、いくら湊斗が大輝がいいと言ったからってたまにの連絡くらい入れたっていいと俺は思うよ。そりゃ会いたくなっちゃうかもしれないけどさ。だからって連絡のひとつも入れないっていうのは俺は反対」  きっと涼は大輝が行くときにそのまま同じことを言ったんだろうな。でも、そっか。涼の目には俺は時間の無駄遣いをしているように写ってるのか。自分では全然そんな風には思っていないのだけど。確かに7年は長いとは思うけれど、もうここまで待ったら後は一緒っていう気がするから、この先も待つつもりでいる。そんなことを言ったらきっと涼は怒るだろうけれど。 「とにかく! 俺は優馬さん推しだな。優馬さんなら大切にしてくれるんじゃないかな」  この話しの流れで大輝も大切にしてくれているとは言えない。大切に思ってくれているからこそ、待たなくていいとまで言ったんだ。でも、待つと言った俺に大輝は約束をしてくれたから。最もそれを言っても今、大切にしているわけじゃないって言いそうだ。 「まぁさ。湊斗の気持ち次第だけど、絶対に無理と思わないで気楽に会ってみたらいいんじゃないかな。それで気持ちが変わっていくかもしれないし。それで気持ちが変わっても湊斗は悪くないから。それだけは覚えていて」  そう言う涼に、俺は素直に頷いた。
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