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向けられた刃1
それはある日突然起こった。インターネット掲示板に、俺の誹謗中傷が書き込まれていたのだ。ただ、俺に対する誹謗中傷だけど、店名もしっかり出ている。それを見つけたのは常連の舞さんで、ある日ネットをしていてたまたま見つけたと言い俺に教えてくれた。書き込みの内容としては、オーナーの俺はゲイで男を寝取るということだった。
俺がゲイだと言うのは、大輝との関係を考えるとそう言われるだろうと思う。でも、俺と大輝との関係を知っているのは涼と優馬さんしかいない。そして涼がそんなことをするはずがないし、優馬さんだってそんなことをしないのはわかっているので、これはでたらめで書いたのだろう。
次に俺が男を寝取ったということだけど、これは酷いデマだ。一体誰を寝取ったというんだ。涼いわく馬鹿みたいに大輝を想っていてよそ見をしない俺がいつ男遊びをしたというんだ。誰から誰を奪ったと言うんだ。
冷静になればそう思うのだけど、それを知ったときはショックで頭が真っ白になった。舞さんが俺にすぐに知らせようと珍しく平日の夜にお店に来て教えてくれたので、たまたま涼もお店に来ていたのでその話しをその場で聞いた。
舞さんも涼もすごく怒っていた。誹謗中傷にもほどがある。お店に対する誹謗中傷ではないけれど、そんな人間のやっている店に来たい客なんていないだろう。つまりお店の営業に関わる問題だ。でも、直接お店のことを書かれている訳ではないから、とりあえず様子見をすることにした。それでも精神的にはかなり来た。だけどインターネット掲示板なんて誰でも簡単に書き込むことができるし、誰が書き込んだのかもわからない。事件性があれば情報開示というのはあるけれど、一般人にはそれを要求することはできない。つまり、泣き寝入りをするしかない。
インターネットの怖い点は、デジタルタトゥーとなっていつまでもネットに残ることだ。それを消すとなると専門のところで消して貰うしかない。
「大丈夫か? その書き込みされてた掲示板は俺も毎日チェックするようにしてるから、これ以上のお店の営業に関わる書き込みにエスカレートしたらすぐに知らせるから。もし、そうなったらお金はかかっちゃうけど、デジタルタトゥーを消してくれる業者に頼もう。でもそれ以上に心配なのは湊斗の方だよ。寝れてるか?」
涼がそう心配してくれているが、正直、眠りが浅くて疲れがなかなか取れない。食事はなんとか食べるようにはしているけれど。メンタル的には結構来ている。
「寝れてはいるけど、眠りが浅くてすぐ起きちゃう」
「だよな。ったく、誰だよ。そんな悪質な誹謗中傷書き込んだヤツ。絶対許せないだろ」
「でも、大輝のことを知ってるのは涼と優馬さんだけなんだよ」
「俺が書くわけないから、そうしたら優馬さんしか残らないけど、優馬さんが書くには男を寝取るっていうのを書くのは立場的に変だろ。この書き込みをしたのが女じゃないと成立しない話しなんだよ。まぁ男でもあり得るかもだけど」
「女の人で知っている人はいないよ」
「だよな。つまり、完璧な誹謗中傷だっていうことだよ。湊斗。あまりに睡眠に影響を与えるようなら病院行けよ?」
「うん、わかってる」
今の時点でメンタル的にはかなりダメージを受けていて、ほんとは仕事なんて放って引き籠もっていたい。でもそんな訳にもいかず、なんでもない顔をしてお店を開けている。なんでこんなことになったんだろう。女の人の恨みを買うようなことはしていないのに。
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