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向けられた刃3
オムライスを食べようと、いざお店に行くと食欲が失せてきた。最近はこんな感じだ。全く食べていないわけではない。ただ、量は減っているし、酷いとゼリー飲料で済ませることもある。だけど、明日からまた1週間仕事だ。倒れる訳にはいかない。誰かに変わって貰えるわけではないから。それなら少しでいいから口に入れよう。そう思い、お店のドアを開けた。
店員さんに食事だと伝え、奥の席に案内される。食欲はなくてもオムライスの匂いがすれば少しは食欲も出るかもしれない。なのでオムライスとホットコーヒーを注文する。ホットコーヒーは心を落ち着けてくれる。
そう思い注文をし、ズボンのポケットからスマホを出して件のインターネット掲示板を見ると、昨夜遅くにも同じ書き込みがあった。IDが同じだ。以前の書き込みは随分と流れてしまっているから、また新たに書くことで人の目にとまるようになっている。そしてその書き込みに対してレスがされている。
『なに、その男。最低じゃん』
『男なのに男寝取るとか気色悪いー』
俺のことを知らない人。その書き込みが真実だと思っている人。いや、真実かどうかなんてどうでもいいのかもしれない。ただ面白いからレスをしているだけなのかもしれない。最低なのは、俺じゃなくて虚偽の書き込みをした人間が最低だし、その書き込みに対してレスをつけている人間も最低だ。こんな嫌がらせ、どうしたらいいんだろう。書き込みをした人間が誰かわからなければ止めることもできない。
その書き込みをぼんやりと見ているとホットコーヒーが運ばれてきて、一口、口をつける。温かいホットコーヒーは気持ちが落ち着く。やっぱりコーヒーはいいな。と思っているとスマホが新着メッセージを知らせる。優馬さんからのようだ。
『お休み中ごめんね。変なことを訊くけれど、最近お店で嫌がらせされたりとかしていない? 昨日、打ち合わせで会社に行ったときに少し不穏な話しを聞いて気になったんだけど。なにもないのならいいんだけど』
不穏な話し。
それってあの書き込みに結びつくようなことだろうか。だとしたら、あの書き込みは優馬さんのことを好きな人が書いたのだろうか。あれだけのイケメンだから優馬さんのことを好きな人は1人や2人いるだろう。その人が逆恨みをしてああいった書き込みをしたんだろうか。だとすると頷ける。だって他に心当たりはないから。
そして俺は優馬さんへの返事を打ち込む。
『お店にはありませんけど、俺に対してはあります』
優馬さんからメッセージがなければ優馬さんに訊くことはなかった。だって優馬さんが悪いわけではないから。でも、訊かれたのなら嘘をつくわけにもいかないし、ほんとのことを話す。
俺が返事を送ってすぐにスマホが着信を告げる。優馬さんだった。ちょうどスマホを見ていたのか。
「湊斗くん! なにをされた?」
「インターネット掲示板に、俺がゲイで男を寝取ったって書かれてます。お店の名前も書かれてます」
「それ、多分会社の子だと思う。俺に好きな人がいることを知って、逆恨みしてるっていう噂を聞いたから」
やっぱり逆恨みか。もう、最低だ。
「もし今以上にエスカレートするようなら教えて。で、今書かれているインターネット掲示板のURL教えてくれる?」
「わかりました。送ります」
「楽しい連絡じゃなくてごめんね」
「いえ。優馬さんが悪いわけじゃないから」
「その子がやったっていう確信が取れたら、俺がなんとかするから」
「ありがとうございます」
「湊斗くん、大丈夫? 夜、寝れてる? 食べれてる?」
「うーん……。正直、ダメージは受けてます」
「だよね。今度お詫びに美味しいもの奢るよ」
「優馬さんが悪いわけじゃないですよ」
「でも、もしその子だとしたら……。エスカレートしなければいいんだけど」
「今、涼も毎日チェックしてるから、もしなにかあったらメッセージしてもいいですか?」
「もちろん。とりあえず、その掲示板教えてね」
「はい」
そう言って電話を切り、書き込みされているインターネット掲示板のURLを優馬さん宛に送った。
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