43 / 74
向けられた刃4
優馬さんにURLを送ってしばらくするとオムライスが運ばれてきた。溶けたチーズとふわとろの卵。それにかかるデミグラスソース。食欲は失せていたけれど、犯人の目星がついたし美味しそうなビジュアルで少し食べようかなという気になった。
オムライスを一口食べると、チーズと卵の甘さが口いっぱいに広がる。その一口が食欲を誘い、気がつけばお皿の半分を食べていた。全部食べれたわけではないけれど、あんなに食欲がなかったのに気づけば半分食べていた、って美味しいものはすごいな。ここに食べに来て良かった。優馬さんからの電話と美味しいオムライスのおかげだ。頑張ってもう少し食べようかな。そう思って再び食べ進めて、気がつけばお皿は空になっていた。きちんと一食分食べたのは何日ぶりだろう。あの書き込みを知ってからは初めてだと思う。これで明日からまた1週間頑張れる。もしまた1週間頑張れたら、ご褒美に美味しいものを食べに行こう。美味しいは正義だ。
食後にコーヒーを飲んでホッと一息つく。美味しいコーヒーが飲みたいな。正門さんの淹れたコーヒーが飲みたい。もうどれくらい飲んでいないだろうか。半年か1年近く飲んでないと思う。正門さんのお店は18時までなのでお店が終わってからいくことはできない。正門さんのコーヒーを飲みたければ、定休日の火曜日に飲みに行くしかない。来週の休みはカフェ・サンクに行こうかな。正門さんの入れたグァテマラが飲みたい。とりあえずは家に帰ったら自分で淹れるか。
そろそろ帰ろうか、と思ったところで優馬さんから聞いた情報を涼に伝えておこうとメッセージを送った。涼もかなり怒りながらも、書き込みがエスカレートしないかチェックしてくれているし、なにより精神的に参ってしまった俺を心配してくれている。だから、さっき優馬さんから聞いた話しは共有しておかなくてはいけない。よし、涼にメッセージも送ったし帰ろう。帰って今日はネルドリップでグァテマラを淹れよう。そう思い席を立った。
最寄り駅まで後一駅となったところでスマホが振動し、着信を告げる。振動が1回だったのでメッセージのようだ。ポケットからスマホを取りだしてメッセージアプリを見ると、涼からのメッセージだった。
『犯人わかったってほんとか』
『確定したわけじゃないけど、目星はついたよ』
そう返信を返すとすぐにスマホが震える。今度は着信で、相手は涼だ。出たいけれど今は車内なので通話を切り、メッセージを送る。
『もうすぐ駅に着くから、そうしたらかけ直す』
『この後用事がないならうちに来いよ』
時計を見ると20時だ。家に帰ってもコーヒーを淹れることくらいしか用はないので、誘いを受けることにする。
『じゃあ寄らせて貰うよ。なにか買って行くものある?』
『いや、ない。ビールもあるから手ぶらで来い』
『わかった。後少しで駅だから』
『了解』
そんなメッセージをやり取りしているうちに電車は最寄り駅に着いた。ここから涼の家まで港の方へ向かって7、8分。手ぶらで来いということなのでコンビニにも寄らずに涼の家に直行した。
ともだちにシェアしよう!