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向けられた刃5
「で、誰がやったって?」
涼がビールを一口飲んでから口を開く。俺はプルタブは開けたけれど、まだ飲んではいない。
「まだ確信があるわけじゃないよ。でも、優馬さんがデザインしている会社の人で優馬さんのことを好きな人みたい。不穏な話しを聞いたって。まだそれ以上はわかってないよ」
「要は逆恨みってことか」
「みたいだね」
「まぁ、あれだけのイケメンだから優馬さんのことを好きな女がいたって驚かないし、いない方が不思議だけどそれで嫌がらせするとか最低だろう。しかもインターネット掲示板に書き込みだぞ。永遠に残るじゃんか。デジタルタトゥーを消す専門のところに頼まないといけないんだぞ」
「そうなんだよね」
リアルでなにかやられるのも怖いけどインターネット掲示板に書き込むのもかなり悪質だ。嫌がらせしているのが自分だとバレないからいいと思って書き込んでいるのだろう。HNを入れる必要のない掲示板なら数字の羅列のID番号が振られるだけだ。そのIDを見れば以前書いた人物と同一人物だとわかるだけで、誰が書いたかはわからない。ほんとに悪質だ。
「でも、どうしたらやめさせることができるかだな」
「優馬さんは自分がなんとかするって言ってたけど……」
「まぁ優馬さんが動くしかないけど、女だからなぁ。泣いて否定したりしそうだな」
確かに涙見せれば男は弱いって思ってる女の人いるって言うからな。そう考えると気が滅入ってくる。開けたビールを飲んでため息をつく。
「今日、掲示板見た?」
あの書き込みにレスがついていたのを見ただろうか。
「見た。レスついてただろ。気色悪いってあったな。お店の名前は出てるから営業妨害だぞ。警察に相談する手もあるか」
警察に相談……。それは考えたことがないでもない。俺の名前もお店の名前もはっきりと書かれているわけだから。それに警察が介入すれば掲示板運営側は情報を開示する必要がある。つまり犯人は見つかるし、刑事責任を問われることがある。今回は店名が入っていることから営業妨害とかに問われるのかもしれない。
「今からでも警察に相談するか?」
「んー。お店に影響が出てきたら相談する」
「もう出てるんじゃないのか。まぁ、常連さんとかは関係ないかもしれないけど」
どこを見てお店に影響がでたら、となるのかは正直わからない。まあ、大事にしたくないだけ、というだけなんだけど。
「まあ大事にしたくないんだろ」
笑いながら涼が言う。さすがだな。伊達に付き合いが長いわけじゃない。俺の性格を知っている。それに対して苦笑で返す。涼はビールを一缶飲み終わったのだろう、冷蔵庫に立ち、もう一本飲むかと訊かれたので首を振って答える。なんだかあまり飲む気になれないんだ。プルタブを開けた一本で十分だ。
「でも、どうしたら尻尾を出すかな?」
「尻尾出さないと、優馬さんもどうしようもないよな」
「そうなんだよね」
「実際になにかされないとな」
涼の言うとおりだ。はっきりとした証拠がなければなにもできない。そうでなければ言いがかりだと言われて終わりだ。怖いけれど、逆にリアルになにか行動を起こされた方がいいのかもしれない。まさか、数日後リアルに行動を起こされるとは思わず、俺と涼は話していた。
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