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同じ空の下4
その日の夕食は、ホテルからほど近いところでフランスの家庭料理を出すレストランに足を運んだ。
まずはじゃがいものガレット。とはいえ、日本でやるようにそば粉を使ったりせずに、じゃがいもを細切りにして焼いただけのシンプルなものだ。でも、それが美味しい。そば粉を使うよりも軽い感じがするのは気のせいだろうか。
「ガレットを焼くって言うと面倒くさいと思ってたけど、これなら簡単に作れますね」
「だよね。これなら毎日でもできるなって思うよ」
前菜を食べたところでサラダにはアボカドと卵のトマトファルシが出てきた。トマトを器として中にアボカドと卵を詰めたもの。アボカドとトマトがいい味を出している。ファルシって中をくり抜かなきゃいけないから何気に面倒だから自分では作らないけど、こうやって出てくるのはいい。それに見た目が可愛い。女性に受けるだろう。
「トマトとアボカドってあうんですね」
「ね、そう思うよね」
「アボカドのねっとりした感じがトマトで中和されてる感じがします。トマトがさっぱりしてるからいいのかな」
「だろうね。これは作ってみたいな」
優馬さんの料理男子なところが出ている。イケメンで料理男子なんて女性が聞いたら高得点だろう。男の俺が見ると”ズルい”と言いたくなる。そのイケメンさで落として料理でとどめを刺す感じだ。それをズルいと言わないでなんと言うのだ。そして、それがつい口から出ていた。
「優馬さんってズルいですよね」
「ズルい?」
「はい。だってイケメンっていうだけでも落ちるのに、それで料理男子っていってとどめを刺してる感じじゃないですか。モブな俺からしたらズルいとしか言えないですよ」
「モブって湊斗くんが?」
「そうです」
「湊斗くんがモブっていうのはちょっと頷けないけどな。可愛いのに。と、それより僕に落ちて、とどめ刺されてくれるの? 誰を落とすよりも湊斗くんを落としたいんだけど。湊斗くんが落ちてくれないなら意味ないかな」
俺のことを可愛いなんて言うのは大輝だけだ。もし俺がほんとに可愛いのならそれで店が繁盛するんじゃないかと考えてしまう。でも、残念ながらそれはない。だったらモブだろう。実際に、中心にいるタイプではない。
「まぁ湊斗くんが可愛い談義はドイツの彼と話しが合いそうだけどね。それより料理がポイント高いのは良かった。料理は好きだよ」
そういって笑う優馬さんはほんとにズルいの一言だ。優馬さんと大輝か。2人揃ったら女性が2人を取り囲んじゃいそうだ。俺のことで話しがあうかどうかはわからないけれど。
そう言いながらファルシを食べるとスープが出てくる。スープはクルトンの入ったグリーンピースのスープだった。
「これはポタージュ・ピュレ・サンジェルマンって言うんだけど、パリ郊外にサンジェルマン城ってあるんだけど、そこがかつてグリーンピースの産地で、当時の伯爵がこのスープを好んだらしくて、それでこの名前になったらしい。日本ではグリーンピースのスープってピンとこないよね」
「グリーンピースってひとつひとつは小さいからスープにするの大変だろなって思っちゃいました」
「いまはミキサーやハンドブレンダーがあるからいいけど、昔は大変だっただろうね。その伯爵は自分で作るわけじゃないから良かっただろうけれど」
確かに昔はミキサーとかはなく、人力だ。言うのも食べるのも簡単だけど作るのは大変だ。でも、伯爵が好んだというのもわかる。グリーンピースと炒めた玉葱がなかなかマッチしていた。
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