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彩雲華胥〜轉合編〜【第二部】 1-17 無明のお願い | 柚月なぎの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
彩雲華胥〜轉合編〜【第二部】
1-17 無明のお願い
作者:
柚月なぎ
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1-17 無明のお願い
無明
(
むみょう
)
と
蓉緋
(
ゆうひ
)
は
岩漿
(
がんしょう
)
洞の最奥まで辿り着く。そこには立派な堂が建っていて、入り口近くには結界が張られていた。しかしその結界は無明が近づいた瞬間、すっと消えた。 そして、ほぼ同時に堂の扉が開かれる。 「あ、
逢魔
(
おうま
)
!」 駆け出そうとした無明の左手を掴み、蓉緋が止める。その行動に、逢魔は眼を細める。自分が知らない間に、無明はまた
お友達
(
・・・
)
を増やしたようだ。しかも相手は
緋
(
ひ
)
の一族の宗主。 そして逢魔は知らなかった。宴の席で何があったのかを。 「俺の記憶が正しければ、
それ
(
・・
)
は渓谷の妖鬼、特級の鬼じゃなかったか?」 あ、と無明は、蓉緋に対して色々と説明不足だったことを今更ながら思い知る。 「なんで特級の鬼がここにいる? そもそもどこから入った?」 「あー······ええっと、」 「それって重要なこと? 俺は宗主でも神子でもないけど、ここに入る資格がある。そういう考えにはならない?」 逢魔はわざとらしくそんなことを言い、不敵な笑みを浮かべた。これではまるで悪の親玉のようだ。無明は手を放してくれない蓉緋の方へと身体を向けて、困った顔で見上げる。 「あのね、逢魔はそういう風にも呼ばれているけど、でも違うんだ。妖鬼じゃなくて、
鬼神
(
きしん
)
で、俺の、」 「君の、なに?」 少し怖い顔で見下ろしてくる蓉緋に、無明は一度心を落ち着かせ、すぅっと大きく息を吸い込む。 そして、 「俺の、大切なひとだよ!」 ぎゅっと目を瞑って大きな声で言い放った。 「へー。大切なひと、なんだ」 そのやりとりに、逢魔は思わず肩を震わせながら、腹を抱えて笑いを堪える。色々言い方があったろうに、なぜその言葉を選んだのか。 「くく······ははっ······無明、その言い方じゃ、俺、······あなたの想い人みたいになってるよ!」 思い出したらますますおかしくなって、逢魔は堪えきれずに笑い出す。 無明は自分の言った台詞をもう一度思い出して、わあ! となった。 「ああ、ええと、違うよ! 違わないけど! そういう意味じゃなくて、そう意味だけど! ちょっと、逢魔、俺、どうしたらっ」 はー······と息を取り戻して、逢魔は改めて軽くお辞儀をする。 「俺は確かに、あんたたちが勝手に付けた等級では特級の鬼、通り名は
狼煙
(
ろうえん
)
。ホントならあんたなんかに名前を呼ばれたくもないけど、無明が望むならいくらだって教えてあげる」 生白い肌をしているが、絵に描いたかのような美しい青年の姿をしている目の前の鬼は、含みがあるが嫌みのない軽い口調で言葉を紡ぐ。 腰くらいまでの細くて長い髪を後ろで三つ編みしていて、先の方を赤い髪紐で蝶々結びをしている。 右が藍色、左が漆黒と、半々になっている衣を纏っており、左耳に下がった銀の細長い飾りが、動くとシャランと独特な音を奏でる。 その涼し気な金眼がこちらに向けられた。 「俺の名は逢魔。正真正銘、神子の眷属で、
鬼神
(
きしん
)
。これでいい?」 「そう! だから、俺の大切なひと、なんだ!」 へへっと無明は照れくさそうに笑って、先程までの困った顔がどこかへ飛んで行く。それに安堵したのか、蓉緋は仕方なく手を解く。ここは神聖な場所なので、あの
岩漿
(
がんしょう
)
の影響もないようだ。 そんな中、扉の奥からゆっくりと姿を現したのは、この
炎帝
(
えんてい
)
堂の主、
老陽
(
ろうよう
)
だった。無明はその姿に、
鳳凰
(
ほうおう
)
の姿を重ねてしまう。それくらい、その立ち姿は優雅で妖艶だった。 蓉緋にはもちろん見えてはいなかったが、無明の視線が自分と全く違う場所を見ていることには気付いた。 「神子、よく来たな。君をどれだけ心待ちにしていたことか」 老陽は逢魔の横を通り過ぎて、堂からふわりと飛び降りて来た。そして無明の目の前まで来ると、例の如くその場に跪いて拝礼を始めた。 「初めまして、神子。私は、四神、朱雀。名を老陽と······、」 「わー! いいからっ! そういうの、慣れてないんだってばっ」 慌てて無明もその場にしゃがみ込み、その拝礼を止める。 蓉緋には傍から見ていて、無明が急に声を上げて、慌ててしゃがみ込んだようにしか見えない。こうして見ていると、事情を知らなければおかしな光景でしかなかった。 だが、そこにもし本当に朱雀がいるのだとしたら? 空想ではなくて、本当に、存在しているのだとしたら。 「老陽様、俺は無明って言うんだ。これからよろしくね!」 この無明の対応は、問題ないのだろうか······。 蓉緋は途中から感動よりも心配の方が勝って、表情を曇らせる。 「あ、あのね、契約の前にお願いがあるんだ!」 「お願い? 神子の頼みなら、なんなりと」 蓉緋は今更ながら、自分が言ったことを後悔するハメになる。まだ会って少しも時が経っていないというのに、なぜ今それを言おうとしているのか。いや、もう仲良くなったという事なのか? ぐるぐると思考を混乱させている内に、とうとう無明はそれを口にしてしまう。 「俺以外にも、あなたの姿を見えるようにできる?」 「······そこの者に見えるように、ということだろうか? まあ、見たところ
緋
(
ひ
)
の宗主のようだから、私はかまわないよ」 「ホント! ありがとう! 良かったね、蓉緋様っ」 言って、無明は蓉緋の袖を引いた。途端に、蓉緋の瞳に、今まで見えなかったものが現れる。それは、想像していた以上の存在で、そのまま勝手に身体が地面に跪いていた。 腕を前で囲い、深く頭を下げ、その神と名の付く存在から眼を逸らす。 「まあそう固くならなくても良い。私はどこかの根暗な誰かと違って、人間は嫌いではないし、むしろ好きな方だ」 立ち上がって、老陽はふっと笑みを浮かべる。その笑みはどこまでも妖艶で、この世の者とは思えない美しさだった。 「そうなんだ! 蓉緋様、お願いが叶って良かったね!」 「······君って、どんな心臓をしているんだ?」 「え? 心臓がどう? うん?」 蓉緋の質問の意味が解らず、無明は笑って誤魔化した。 逢魔はその長いやり取りを、よしよしと頷きながら見ていた。老陽は今のところはなんとか上手くやっているようだった。 そして、ようやくここに来た目的、四神、朱雀との契約が始まる。
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柚月なぎ
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