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報告

 鎖を引っ張られながらネテルに導かれる。廊下を出て狭い階段を上り、二階へ向かう。  終始無言だった。会話は全く交わさず、ひたすら歩みを進める。辺りを見回してみると、絵画がたくさん飾ってあったがどれも不気味で薄気味悪いものばかり。気分が悪くなって、目を伏せてしまった。  二階の広間に着くと、上は白で下が紫色の壁の廊下が続く。廊下は明かりがついてなくて薄暗く、歩くのに恐怖を感じてしまう。所々柱や壺が飾ってあって、どの壺も高級そうな雰囲気がする。 「ここだ」  廊下を歩み続け、大きな扉の前に立つ。開けて中に入ると、長いテーブルを挟んだ向こう側に一人の男が座っていた。テーブルの上には大きな鶏肉を焼いたものと、スープ、サラダが置いてあった。  男は黒くて長い髪に光のない緑の瞳をした、冷たい雰囲気がする。肌は異常に白い。 「父上、報告しにまいりました」 「なんだ?今は食事の時間だ。後にしてくれ」  ネテルの父マースティは口の周りをナプキンで拭き、彼を不機嫌な眼差しで睨みつける。  それに屈することなく、ネテルは自分の主張を口にした。 「食事よりも大切なお話です」 「そうか。言ってみろ」 「この隷女を買いました。その料金を払いたいのです」 「いや、別にそんなことはしなくて良い。相変わらず真面目だな、お前は。我々ダグラス家が買う場合は、払う必要などない。どうだ?お祝いとして一緒に食事でもするか?人が増えるのはとてもありがたいからな。メイドと使用人、合わせて6人しかいない。部屋と廊下の掃除や洗濯、料理や庭の手入れは彼らがしている。さぞ大変なのだろう」  人事のように淡々と話すマースティ。彼は死んだ目をしていて、恐怖を感じてしまう。  アークは思わず震えたまま、ネテルの後ろに隠れる。そんな彼に、舌打ちした。 「チッ……」  はぁっと小さくため息をついて、父の方に視線を向ける。 「父上。ご一緒したいところですが、本日はしなければならないことがございます。またの機会によろしくお願いします」 「そうか。頑張れよ」  ネテルは軽い会釈をして、大広間から出る。少し歩いて角を曲がった後、足裏を床に叩きつけて怒りを見せた。 「あのクソ親父!俺に指示しやがって!」 「あ、あの……」 「うぜぇな、話しかけんな!」 「す、すみません……」  罵声を浴びせられてしまい、恐縮してしまう。  アークは暴言を吐いてくる男の元で働かないといけないとことを知り、絶望的な気持ちに陥った。これでは精神的なダメージが高くなってしまい、心も体も擦り切れそうだ。しかも彼は、身分の低い隷女ならぬ奴隷である。一度買われたら逃げることができない。  廊下を再び歩いて、一つの扉の前に立つ。その扉を開けると、高級そうなベッドと机、本棚が置かれていた。その本棚にはたくさんの本が入っている。 「ここは俺の寝室。まずは掃除からだ。親父も言っていたが、使用人は少ないんだ。お前には二階の廊下の掃除をしてもらう。ただし、ホウキで履くだけでいい。水拭きは一ヶ月後だ。ちょっと待ってろ」  彼が部屋に入り、壁に貼り付けてある扉からホウキと塵取りを取り出す。なぜ彼の部屋にあるのかといえば、ネテルは大の綺麗好きだからである。いつも部屋を綺麗にするため、箒や雑巾を使って清潔感を保っている。  アークは彼からホウキをもらう。 「これを使え。隅々まで綺麗にして、階段の近くにあるゴミ箱に捨てろ。その後、ゴミを外にある箱へ出しに行くぞ。今日は俺のものを貸すが、普段は一階にある使用人の部屋から借りれ。いいな」 「はい……」 「あと、掃除は金曜日にだけ行う。終わらなければ、明日も続行だ」 「はい……」  初めての仕事にワクワクしながらも、少し不安もあった。しっかり仕事ができないと、彼に叱られてしまう気がする。  アークはネテルが部屋に入るところを見越して、一生懸命仕事に取り掛かった。少し暗いが、手元くらいは見える。

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