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いじめと暴力
「んん……」
目が覚めると、隣にネテルが眠っていた。彼も目を覚まして、こちらを緑の瞳で見ている。どういう状況だろうか。
慌てて自分の体の方を見てみたら、パンツ一枚、乳首丸出しの状態で思わず布団を被った。
ネテルは何も履いていない裸の格好。体には均等に筋肉がついている。とても美しい体つきだ。
「な、なんで裸……?」
「お前が着ている服は汚すぎだ。シーツが汚れるんで、脱がした。俺が裸なのは……察してくれ」
「まさか、さっき履いていたパンツを履かせたの?」
「ああ」
「っ……」
ふしだらなことを想像してしまったアークは思わず布団を口まで当てて、頬を真っ赤に染める。そんなことを想像してしまった自分が恥ずかしくなったからだ。しかもネテルが使っているパンツを履いているなんて……心拍数が高まってしまう。
「もしかしてエッチなことでも想像した?」
「いえ……」
ここは誤魔化すことにした。
彼は身分が一番高い貴族の中の一番上、国王の王子であり、アークは一番身分の低い奴隷だ。こんな二人の間に、恋愛関係など築いてはいけない。そんなことがバレたら、二人して城から追い出されてしまうだろう。
ネテルを巻き込んではいけない。
彼はベッドから起き上がり、クローゼットの中から赤いボクサーパンツを取り出して履いた。彼は真剣な顔でアークを見る。
「まあ、いい。今日は洗濯をしてこい。一階の使用人部屋に行って、手伝ってやれ。俺は仕事があるんでな。一週間、館にいない」
「はい……」
「分からないことがあれば、使用人かメイドに聞け」
「はい……」
怒られることが一週間もないことにホッと安心する。とはいえ、仕事をサボるわけにはいかない。メイドや使用人たちと仲良くして、仕事を教えてもらおうと考える。
確か場所は一階にあると言っていた。アークは扉の方へ向かおうとした瞬間、ネテルに呼び止められる。
「おい、俺が着替えるところを見ておけ。お前に次から任せるかもしれないからな」
そこへメイドの一人が寝室にやってくる。彼女はお辞儀をした。
「失礼します」
メイドはクローゼットを広げて、そこから外着の服を選ぶ。一つ選んだら、下着の下からズボンを履かせ宝石付きのベルトを締められる。白いワイシャツを着せられ、金色のボタンをしてから赤いネクタイを丁寧に締めていく。
メイドはその後も手際良く服を着せ、装飾品をつけていく。これを彼女は、迷いなく素早く行なっていた。アークは目を輝かせて、その様子を見ている。
終わった後、ネテルは服を見渡した。
「ありがとう。今日も完璧だな。では、隣の国へ行ってくる」
「いってらっしゃいませ、ネテル様」
「ついでにこいつを使用人室に連れて行ってくれ。適当に仕事を与えておけ」
「かしこまりました」
メイドはお辞儀をして、ネテルを送り出す。彼がいなくなると、アークの方を睨む。
「ついてきなさい。まあ、貴方にさせられる仕事なんて洗濯くらいよ。足手纏いになるんじゃないわよ」
「はい、わかりました」
頷いて彼女の後に続いた。
この一週間は絶望的な日々が続いた。ずっと同じ過ちを繰り返すせいで、メイドや使用人に変な目で見られる始末。おまけに彼らにいじめられてしまう。
今日も洗濯物を畳もうとしたら、上から生ゴミをかけられた。洗濯したものが生ごみ臭くなる。
三人のメイドはブツブツと文句を垂れ流した。アークはそれにペコペコとお辞儀するしかなかった。何を言っても、聞き入れてもらえないはずだから。身分の違いのせいで。
「あら、ごめんなさい。手が滑っちゃった」
「だ、大丈夫です……また洗濯すればいいですし」
「チッ。また洗剤残りが服に染み付いているじゃない!いつになったら仕事覚えるの?」
「も……申し訳ありません」
「あと、折り方も汚いし。丁寧にしなさいよ」
洗濯以外にも使用人の仕事である皿洗いもしたが、高価な皿を何枚も割ってしまい彼らを激怒させてしまった。だから洗濯物onlyにされている。
しかし全く上達できず、メイド達の関係が改善されるどころか、いじめが加速していく。もう逃げ出したい気分だ。目から涙が溢れてくる。
「泣いても解決しないわ。行動で示しなさい」
メイドの一人がそう言うと、女三人でペラペラと世間話を始めた。アークはそれを無視して、また洗濯機にシーツを入れる。
生ごみを洗うために、シャワー室へ向かう。シャワー室はとても狭く、三つしかないので適当に体と髪を洗う。当然シャンプーやリンス、ボディーソープはない。使いたいなら、買わなければいけない。お金が一円もないので、臭くて汚いままである。生ごみの臭いは落ちない。はぁっと大きなため息をついた。
シャワー室から出てタオルで体と髪を拭きながら歩くと、ネテルと遭遇。アークのことを鋭い眼差しで見下ろしていた。
「メイドと使用人たちから聞いたぞ。お前な……」
顔をグーで殴られた。アークは何が起こったのか分からず、その場で尻餅をつき頬を撫でる。その隙に何度も殴られた。まるでサンドバッグになった気分。
涙を流して、助けを乞う。
「テメェ、メイドと使用人に迷惑かけさせやがって!このクズが!こんなこともできないのかよ、このゴミ野郎め!死ね!死ね!死んじまえ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。仕事覚えますから……殴らないで……」
「ウルセェな!言い訳なんか聞きたくねぇ!」
何度も殴られ蹴られて、体は痣だらけになった。ますます気持ちが萎縮してしまい、体が震えてきてしまう。
失敗するたびにこんなことが続き、絶望的な気持ちに陥った。やる気が削がれていくばかりだ。
この後も掃除の続きをしたが、綺麗にできないミスばかりしてしまう。
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