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境遇
今日もアークは、彼の部屋である小屋の中で眠りについた。小屋には暖房や床暖房はなく、藁を敷いて眠ることでしか温かくなる方法がない。
今現在は冬であり、寒いのは当たり前。プルプルと震えながら、寝ようと努力する。しかし、眠ることは難しい。ベッドで寝たあの時が一番心地よかったのにと思い返せば、虚しくなってしまう。
いつも通り寝ようとしたら、小屋が開きそこから奴隷専用の麻服を着た女の子が放り投げられる。白くて長い髪にピンク色の目をしていた。アークは彼女に近づいて、切羽詰まった声をかける。
近づいて体を見たら、首を絞められた痕と縛られた痕。腕を強く握られた痕と歯形やキスマーク、痣がたくさんついていた。
彼女は啜り泣いている。
「何があったんですか?」
「グスッ……私、あぁぁぁぁぁぁ!!」
いきなり奇声を上げてきてビクッと肩が揺れてしまう。彼女は急いで近くにあった藁をかき集めて、縮こまってしまう。体がブルブルと震えていた。
これは只事ではないと気づいてしまい、その日は一睡もできなかった。起きれば目の下にクマが出来てしまう。
目を開いたら、あの女の子が連れていかれている最中だった。彼女は男の手から離れようと、暴れていた。
それについていくと、黒くて長い髪を束ねている大男が女の子を連れていく。一瞬ネテルの父かと思ったが、似ているだけで神父の服を身につけている。
アークは勇気を振り絞って声をかけた。
「あ、あの……その子、嫌がっています」
「おや、初めて見る顔ですね。新入りですか?」
想像以上に物腰柔らかそうな喋り方で、とても優しげな笑みを浮かべる。
彼は戸惑いつつも、頷く。
「は、はい……」
「ふーん。一瞬女の子かと思ってしまいましたが、よく見たら男の子のようですね。これは珍しい」
「そ、そうでしょうか……」
「はい。隷女はその名の通り、女の子が大半ですからね。私は女の子はもちろん、男の子もいけますよ。よろしければ、一緒に」
「き、来ちゃダ……!!」
女の子が叫び声を上げると、男に口を塞がれてしまう。彼女はモゴモゴと口を動かす。
彼は何事もなかったように、ニコニコと微笑んで話しかけてきた。
「さあ、どうします?」
「えっと……」
アークが顎に手を当てて悩んでいたら、そこへ一人の茶髪男がやって来た。ネテルだ。彼は男の前に立ちはだかる。明らかに男の方が高身長で、肩幅はガッチリとしている。
「兄上、俺の奴隷に手を出さないでくれませんか?」
「ネテルか……久しぶり」
「ネテルのお兄さん……」
アークはボソリと呟き、視線を下にする。その間に女の子の口から手を離した。彼女はしゅんと拾われた子犬のようになり、それから喋らなくなる。
大男の名はレイン。父マースティの息子の長男である。彼は極度のサディストで、表では神父をしている。神の名の元で教えを説き、小さな子供や大人たちを言葉巧みに操り信頼を得ている。しかし彼の裏の顔は優しくなく、女の子を痛めつけて楽しんでいるクズである。
父は悪魔を信じ、兄は神を信じており宗教観が正反対なので仲が悪く、この城に帰ってくることは珍しい。彼は教会の離れでひっそりと暮らしているのだ。
二人は会話を続けた。彼らの間にピリピリとしたオーラを感じる。
「てか、いつ帰って来たんですか?」
「昨日帰って来た。可愛い子を教会の近くで見つけたんでね。親なしの子だったから持って帰って来たんだ。買ったんじゃないよ。さて、神父の仕事はとりあえず終わったので本日も快感をぶつけますか」
レインは女の子の手を握ったまま、歩みを進める。ネテルに背を向けたまま、手を軽く振った。
「それと、そんなに大事な子なら取られないように鎖で繋げておけよ」
「……」
彼は無言のまま、兄の背中を眺めていた。彼がどこかへ行くと、怒ることなくポツリと呟く。命令されてうざいとネテルなら怒りそうだが。
「それができるなら、どんなにいいか……」
「あ、あの……」
「ああ、お前を探していたんだ。仕事だ、行くぞ」
「はい!」
あの女の子を見てから少し気が楽になった。元気よく返事をする。あんなに痛めつけられている人が自分以外にもいることを知り、どこか安心したのだ。
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