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3話(2)普段料理をしなければシャーってやるやつでじゃがいもの皮の剥き方もわからない?!

   じゃがいもと人参、玉ねぎを冷蔵庫の野菜室から取り出す。記憶にある限り、料理なんてほとんどやったことがない。  じゃがいもの皮ってどうやって剥くの? 「如月、じゃがいもの皮ってどうやって()くの?」 「それ、私に聞きます?」  如月が眉を中央に寄せ、困ったように私の手からじゃがいもを取った。 「そういえば、皮を剥く、シャーってやるやつが調理器具にあった気がします」  如月が流し台の引き戸を開け、何かを探している。ごそごそ。皮を剥くシャーってやるやつと思わしき物が取り出され、じゃがいもと一緒に手渡された。  これがシャーってやるやつかぁ。  じゃがいもを左手に持ち、上から下に、ピーラーをスライドさせる。うまく皮が剥けない。なんかガクガク引っかかるんですけど。 「刃が反対ですよ」 「まじか!!!」  正しい刃の向きに持ち直し、もう一度、皮を剥いてみる。 「おぉ! むける!! むけるぞ!!!」 「私は玉ねぎの皮を剥きますね」  じゃがいもの皮を剥き終わると、芽だけが残った。このじゃがいもの芽はどうやって取るの? 全然分からない。如月に聞こう。 「この芽はどうやって取るの?」 「シャーってスライスして取るのでは?」 「なるほど」  じゃがいものあらゆる面が平らになっていく。芽は取れるが、果たしてこれで合っているのか。スライスすればするほど、じゃがいもが平らになる。 「玉ねぎの皮とはどこまでが皮なのですか?」 「茶色の部分でしょ」 「茶色の部分を取ると白の部分にも薄っすら茶色が付いてません?」 「じゃあ、それも皮だ」 「なるほど」  如月の手元を見ると、玉ねぎがみるみる小さくなっていた。どこまで剥く気なんだろう。しばらく観察する。玉ねぎの皮(?)は無くなり、芯まで到達した。 「小さくなりました、この状態で切るのでしょうか」 「……剥きすぎじゃない?」  正直、よく知らないので、あまり如月を責めることは出来ない。じゃがいもの皮剥きが終え、人参の皮を剥く。要領を得れば意外と簡単に剥ける。そして結構楽しい!!! 「よし、野菜を切ろう!」  カレーのパッケージを確認する。野菜を『乱切り』? 「ねぇ、乱切りって何?」 「乱れて切るのでは?」 「踊りながら切る的な?」 「世の中の主婦たちがそんな危ないことをしているとは思えませんね」  如月もかなりいい加減なことしか言ってない気がする。乱切りとか分からないし、千切りでいっか。  如月は、剥きすぎた玉ねぎを重ね、包丁で切り始めた。 「目がぁあああぁあ!!! 目がぁあぁああぁあ!!!」 「何やってんの?」  如月が叫びながら、物凄い速さで冷凍庫を開け、頭を突っ込んでいる。何してんだ、マジで。 「目が痛いです、というか、涙が止まりません!!!!」 「どんまいだな~~」  冷凍庫から顔を出した如月の目からは、大量に涙を流し泣いていた。 「玉ねぎが目にしみた場合、冷凍庫で目を冷やすと改善されるという文献を読んだことがあります!!!」 「ほんと? それ~~」  ガタッ。  また冷凍庫に頭を突っ込んでるし。  ※そんな文献ないと思います。 「全然切ってないじゃん~~。メガネしてるくせに情けないな~~。私が代わりに切ってあげるよ」  キッチンカウンターに置かれた包丁を手に取り、切りかけの玉ねぎに刃を入れる。  とんとんと……。 「ああああああ!!!! 目がぁああああ!!! 目がぁあああああ!!!」  耐えきれず、目を押さえ、床にゴロゴロ転がる。痛い痛い痛い!!!! 涙が止まらない!!!!  冷凍庫から復活した如月は、泣きながら玉ねぎを千切りにした。  PM5:30。  野菜を切るだけで1時間半もかかってしまった。兄は7:30には帰ってくる。あと2時間しかない。どうにか時短しなくては!!! 「厚手の鍋にサラダ油を熱し、一口大に切った具材を炒めるらしいです」  カレーって意外と手間がかかって大変。野菜を切っただけなのに、既に疲労感でいっぱいだ。 「炒めるとか面倒くさそう……」 「炒めた後、水を入れて柔らかくなるまで煮込むなら、炒めなくても同じでは?」 「確かに」  私は炒める過程を省くことにした。  取手のついた大きな鍋を取り出し、ガスコンロに置く。計量カップで測りながら、鍋の中に1400ml水を入れた。  12皿分とあるが、そんなに食べることが出来るのだろうか? 「12皿分も食べれるかな?」 「カレーは2日目が美味しいらしいですよ。それにカレーうどんなどに、リメイクして食べる方法もあるので、多少、多くても問題ないと思います」  ぼとぼと。  水の中に如月が具材を入れていく。 「肉はこれで良いのかな?」  冷蔵庫から唐揚げ用の鶏肉を取り出す。それ以前に、なんの肉を入れていいのか、すらよく分からない。 「それなら、切らなくて良いですね。そのまま入れましょう」  ぼとっ。  如月が水の中へ肉を突っ込んだ。全部入れてるけどいいの?  ガスコンロに火をつけ、中ぐらいの火を設定する。水と具材がいっぱい入っているせいか、中々沸騰しない。  炒める過程を省いたのだから、火は強めの方が良いのかも。中火から強火に火の強さを変えた。 「私、洗濯物取り込んで、畳んでくるから、カレーよろしくね」 「はーい」  如月にカレーを託し、私はベランダへ向かった。  *  この鍋の中に浮かぶ油と、白い物体は取った方が良いのだろうか。このまま放置すると、汚いカレーになりそうだ。取ろう。  引き戸からお玉を取り出し、灰汁を取る。 「……無限に湧くなぁ」  取っても取っても無限に湧いてくる灰汁に対し、多少苛立ちを感じながら、執念で全て排除する。取っては捨てて、取っては捨ててを、繰り返すうちに、気づけば鍋の水は3分の1まで減っていた。 「あれ? こんなに量って少なかったっけ?」  ふとガスコンロの火をみると、かなりの強火。こういうのは中ぐらいの火か弱火でやるものなのでは? 知らんけど。強火ということもあり、沸騰しながら、物凄い勢いで減っている。  これにカレールーを足しても、少量のカレーにしかならないんじゃ。今ならまだ間に合うかもしれない。  最初に入れた水1400mlを追加で投入し、ガスコンロの火を強火から中火に変えた。  *  PM6:00。  洗濯物を畳み終わり、キッチンへ戻る。カレーの様子が気になり、鍋を覗き込む。こんなに水入ってたっけ? 「カレーはどう? なんか水分多くね?」 「かなり水が減ってしまったので足しました」 「なるほど……?」  足しすぎじゃ……。  不自然なくらい水が増えたカレーに不安を覚える。どれくらい煮込むのかよく分からないけど、カレールーを入れたら、ドロドロになって結果オーライになるのかな?  ふとカレーのパッケージをみると、『中辛』と書いてあった。 「お兄ちゃん、辛いの食べれない……どうしよう」 「砂糖を足して甘くするのはどうでしょう」  危険な香りの提案だ。でも今はそれしか方法がないのかも。話を続ける如月に、耳を傾けた。 「カレーは味噌や醤油などといった調味料を足すとコクや旨みが出るそうですよ。砂糖でも同じ効果が得られるのでは」  如月の話も段々、胡散臭く感じてくる。でも、他に何も思いつかなかったので、そうすることにした。 「砂糖どこ?」  探しても、砂糖がどこに置いてあるのか、見つからない。自分がいかに手伝っていないかを痛感する。  流し台下の開戸を開けると、買い置きされた、未開封の上白糖があった。あるじゃん、砂糖。    適量とは。  適量とは何グラム? 小さじでいうと何杯? どれくらい入れると適量? 全く分からなかったので、一袋全部砂糖を鍋に入れた。  どば。 「えぇ~~……」  如月が眉を顰め、唖然としながらこちらを見ていた。

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