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10話(2)#ブックカフェデートに潜む魂胆はバレバレ?!私は受けになりたくない?!↑改稿

   ブックカフェというから、こじんまりとしたところを想像していたが、着いたところは明るく、広々とした店内だった。クッション付きのソファが置いてあり、あたり一面は本棚だ。 「全て置いてある本は読み放題です。ドリンク頼んできますね」  如月はどこか嬉しそう。来てよかった。レモンスカッシュを2つ持った如月が戻り、一緒にソファに腰掛けた。 「皐さんともここへ来るの?」 「ここへは来ないですよ。皐とはもっとアンティークなブックカフェへ行きます」 「…………」 「いいじゃないですか。ほら、本選びましょ」  少し敗北感に苛まれながら、如月と一緒に店内を見て回る。手に取っては、元の位置に本を戻す。どの本にも全く興味が湧かない。俺にも読める本はあるかな?   「如月は何読むの?」 「純文学」 「そ、そう」  純文学が何の本なのかさえ分からない。でも満足させるって決めたのだから、俺も何か読んで付き合おう。 「俺にも読めそうなやつある?」 「はい、どうぞ」  手渡された小説を開くと、1話がとても短い、短編集だった。これなら俺にも読めそう!! 「ありがとう」  ソファに戻り、横並びで本を読む。横目で如月を見ると、脚を組み、片手で本を読んでいた。深い思考にふけっているような表情は落ち着きがあり、綺麗な顔を際立たせる。 「なに?」 「本読んでる如月もいいなぁって」 「……っ見てないで本を読め」 「はいはい、読む読む」  素早く背けられたその顔は薄紅色に染まっているのが見えた。  * 「僕のドーナツを何故食べる……」 「食べたいと思った、だから食べた。仕方ない、返そう」  神谷の惣菜ドーナツを皐が何食わぬ顔で食べている。食べかけのドーナツを神谷へ返し、指先に付いた砂糖をぺろっと舐めた。神谷の視線が皐へ釘付けになっているのが気になった。  何故、そんなに見つめるのか。 「いや、食べかけ返すなよ……」  そう言いつつも食べかけのドーナツを受け取り、神谷が口の中に入れている。それ、食べるんだ。  ドーナツは生ドーナツで、口内でしゅわっと広がり、とても美味しい。どれを食べても口の中でとろける食感はとてもドーナツには思えない。美味しすぎる。待った甲斐があった。 「美味しいよぉ~~」 「あぁ、そうだな。こんなに美味しいドーナツは、初めてだ。惣菜ドーナツも中々良い。赤キャベツのマリネとトマトの組み合わせは、絶品だな」 「だからそれ僕の……」  ドーナツを食べ終わり、ジュースを飲みながら、一息つく。神谷は食べたいものが食べれなくて、悲しみに暮れているが、皐は満足気だ。良かった。 「美味しかったね! 皐さんっていくつなの?」 「私か? 33だ。弥生が結婚してくれないから、三十路を過ぎてしまったよ」 「如月と出会ったのはいつなの……?」 「24の時。弥生も27くらいだったと思うが、よく覚えていない」  長い。5年以上も一緒に居たってこと? すごい。長く一緒に過ごしたからといって、結婚出来るとは限らないんだなぁ。恋愛って難しい。 「お腹もいっぱいになった。人の恋路を邪魔する程、愚かではない。そろそろ、帰るとしよう」 「どの口が言ってるんだ……」 「え、帰っちゃうの? 別にデートとかじゃないよ?」  帰り支度を始める皐をみて、急に寂しくなり、皐を引き留める。 「恋とは一瞬で落ちる。頭で理論的に考えるのは、無意味だよ、卯月。自分の相手へ感じた欲求が全てだ」 「また家へ行くよ、卯月。あぁ、そうだ。ドーナツの割合は、弥生が2個だからね」  兄の分はないんかい!!!  皐と別れ、神谷と2人になった。先ほどの言葉が引っかかり、神谷を変に意識してしまう。  神谷の顔をじぃっと見る。イケメンというよりは万人受けするような、パーツバランスの良い顔だな。優しく微笑むその顔に安心し、心惹かれてしまう。 「どこ行く?」 「そ、そうだね~~」  私に顔を少し近づけ、神谷が訊く。その距離に緊張して、鼓動が早くなる。顔の近さに恥ずかしくなり、頬が熱くなる。手で顔を扇いだ。 「食べ歩きでもする?」 「まだ食べるの?!」 「だって、僕のドーナツ、皐さんに食べられちゃったんだもん。それなのに、自分のドーナツはくれないなんて、ひどいよねぇ」  神谷と一緒にぷらぷらと歩き始めた。横並びで歩いていると、時々、手と手が触れる。手が当たっても、神谷は手を繋いではくれない。  もっと手が当たれば繋いでくれるのだろうか。繋いでみたい。少し見上げ、神谷を見つめると、神谷と目が合った。 「どうしたの?」 「あ、いや、何もないです……」  目線を逸らし、誤魔化す。 「そう? クレープでも食べよっか」  もっと近づきたい、神谷のことが知りたい。自然に目線はまた神谷を追う。再び歩き始めると、また手が当たった。  でも神谷は私と手を繋いではくれないーー。  *  本当にいいのか? そう思いつつ来た、ブックカフェ。睦月さんが何を読めばいいのか分かなさそうだったので、読みやすそうなショートショートと呼ばれる超短編小説を渡した。  睦月さんを見ていると、小説を読みながら表情がコロコロ変わり、その様子を眺めているだけで、少し幸せな気分になる。本当に可愛い人。  お気に召してくれたみたいでなによりだ。本の世界に浸りながら、読み進めているうちに肩から重みを感じた。  ぐぅ。  本をテーブルに置き、睦月の顔を見る。柔らかい表情で静かに寝息をたて、口元からは少し涎を垂らしている。 「あんなに行くとイキっておいて、結局これですよ、全く」  頬っぺたを人差し指でつんつんしてみる。起きやしない。 「大体ね、魂胆がバレバレなんですよ」 「………………」 「自分が満足出来てないからシたいだけのくせに」 「………………」 「本当は起きてるんでしょ」  両手で頬を引っ張る。 「痛い痛い痛いぃいぃ~~っ!!! やめてぇ!! 起きてる!!! あと満足してないからシたいとかじゃないぃ~~痛い痛いぃ~~うぅ~~」 「じゃあ、なんですか」  頬から手を離すと、睦月は頬を大事そうに押さえた。 「……いつも邪魔が入るから2人でゆっくり過ごしたかっただけ」 「………ふぅん……」  疑いの眼差しで睦月を見る。 「ホントだって!! もぉ~~」  眉を八の字に下げ、甘えた表情で見てくる。可愛さに惹かれて、髪先を掴むように頭を撫でた。 「んーー2人でゆっくり出来るところ行く?」 「えっ……」 「何赤くなってるんですか、家に帰るに決まってるでしょ~~頭の中それしかないんですか、もう」 「違うわ!!!」  本を片付け、外へ出た。行き先は勿論、家。家に向かっていることが分かると、睦月は少し肩を落としているように見えた。  家に着き、リビングへ向かう。やはりまだ卯月さんは帰ってきていない。時計を見るとまだ正午。あまり読書も出来なかったし、随分と早い帰宅だ。  斜め掛けカバンを下ろし、床に足を伸ばして座る。短い時間ではあったが、なんだか疲れた。座って一息ついていると、後ろから抱きしめられ、睦月の脚の間にすっぽりはまった。 「如月、キスしよ?」  顔を少し後ろに向け、キスしようとした瞬間、右から頭を強く掴まれ、強引に唇が重なった。唇の隙間から舌が捩じ込まれ、激しく絡み合う。 「ーーはぁっ……」  積極さに少し戸惑い、睦月の目を見る。 「何? 俺がいつもやられてるだけだと思った?」  睦月の左手がお腹の下まで迫ってくる。 「いや……あは……えっと……ヤ、ヤダ? 受けはあまり趣味じゃないっていうか……」 「へぇ~~そうなんだぁ、だから何?」  笑顔が怖い……。 「……やめよう……? ねっ? あはは……やめて……脚広げないで……えへ?」  左足の膝を持ち、脚を曲げ、そしてゆっくり腿を左に倒された。恥ずかしさで耳が赤くなる。 「やめると思った? 俺の時はやめなかったくせに。都合いいな。それにいつも皐皐皐って。よそ見するな」  肩に睦月の顎が乗り、身体が密着した。耳元に睦月の口唇が近づき、吐息がかかる。 「ごめんなさいぃいいぃ~~ひゃっあっ……」  耳の中でくちゅくちゅと唾液の音が響き渡り、身体がビクッと反応する。聴覚を通じて、体が急に敏感になっていく。 「耳は……いや……はぁっ…ん…あっ…待っ……ん」  ズボンの上から私の幹を睦月がゆっくり撫でる。耳の愛撫が終わると、首筋に繰り返しキスがされる。  ちゅっ、ちゅっ…。 「俺はお願いしないと、ちゃんと触らないから」  私におねだりしろと? ()ね!!!!! 「ハ、言う訳ないじゃないですか」 「そんなこと言って~~顔は全然余裕なさそうだけど?」  下半身を中心に熱が全身を巡る。身体はもっと、もっと触れてくれと言わんばかりに、全てを欲する。  でも、つまらないプライドが邪魔して、言いたくはない。  まだ、耐えられる。耐えていれば、状況を逆転するチャンスがあるはずだ。ぼうっとする頭と格闘しながら、好機を待つ。 「俺良いこと思いついちゃったぁ~~」  妖しい笑みを浮かべながら、下着の中に手が入ってくる。指先は何かを探している。 「え? 待ってくださ……え……やだ……やだやだやだ!! 絶対やだ! ほんとやめて……されるのはやだ!!! いやだぁああああああ~~!!」 「如月はうるさいなぁ」  指先が窄みに辿り着き、いやらしくなぞる。その気持ち良さに肩が小さく上がった。

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