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11話(5)ーー別れたいなんて言ってない。脱がされる浴衣が恥ずかしい?!一緒に露天風呂?!
一通り、館内を探しても、佐野の姿はない。まだ部屋に居るのかもしれない。足早に自分の客室へ戻る。
部屋の中に入ると、水を片手に持ち、うずくまっている佐野が居た。
「何やってんのさ~~」
「だってぇ~~……如月のとこ行こうと思ったんだけど……どんな顔で会っていいか分からなくて……うぅ…」
佐野の隣にしゃがみ、背中をぽんっと叩く。顔を上げた佐野の瞳は、涙が少し浮かんでいた。
「泣くなよ~~まだ酔ってんの?」
「……酔いも目も覚めた……っう……なんて言えばいいと思う? 仲直り出来るかな……?」
「知らんがな」
机の上からスマホを取り、メールの画面を開く。卯月にメールを送った。
【売店まで出て来れる?】
【なんで?】
【お兄ちゃんと如月氏、仲直り大作戦です】
【り】
【待ってるよ~~】
はい、既読無視~~。スタンプくらいくれ。
「まぁ、とりあえず、ちょっと付き合ってよ」
「う~~ん……」
佐野を連れ出し、売店へ向かった。
売店に着くと、同じタイミングで、卯月が来た。心配そうに佐野を見つめている。
「お兄ちゃん、泣いてるの?」
「…………」
「自業自得だから。大丈夫大丈夫。悪いんだけどさ、卯月ちゃん、しばらく僕の部屋に来てくれる? 僕は断じて何もしない。ここに誓う」
この作戦の全貌を察したのか、卯月が頷いた。物分かりが良くて助かる。
「お兄ちゃん、私、神谷さんと居るから、ちゃんと仲直りしなよ?」
「……出来るかなぁ……?」
「はい、これ、卯月ちゃんの部屋の鍵」
卯月に背中を撫でられながら、不安そうな顔をする佐野に、部屋の鍵を渡した。卯月が不審な目で僕を見る。
「なんで私の部屋の鍵持ってるの?」
「え? パクった。これぐらい出来ないと、皐さんと付き合っていけないのさ!!」
「変な関係~~」
「頑張れよ、佐野~~」
軽く佐野に手を振り、自分の客室へ戻った。
*
如月の居る客室に行く、足取りが重い。仲直りはしたいが、何を言っていいのかわからない。
謝って済む問題なのだろうか。本当に自業自得でしかない。客室に鍵を差し込み、扉を開ける。ベッドに座り、脚を組み、本を読む如月が見えた。
「卯月さん、良いおやつありまーー……」
穏やかな声は俺の姿を見て、消えていく。重い沈黙が俺と如月の間に流れた。言いづらい。でも、言わなくちゃ。如月に向かって、頭を下げた。
「酔っていて理性を失いました。ごめんなさい……」
「いいですよ、別に。お酒、飲んでいましたし、若いからそういうこともあると思いますから。非難するつもりはないです」
如月が俺を見てくれない。
淡々と、何もなかったように、本を読みながら話す如月を見ていると、とても、自分の過ちを許しているようには、思えない。
その冷淡さが怖くて、口籠る。感情的になって怒ってくれた方がまだいい。
「……俺……酒の飲み方は気をつける……理性を失ってそのままってなりたくないから」
「そうですか」
「本当にごめんなさい…嫌なもの見せた……如月を絶対傷つけた。怒ってるよね? 俺だったら死ぬほど嫌だから……」
溢れ出る感情が、全て口から出ていく。堪えていた涙が、頬を伝った。
「俺……多分、女の子も好きかもしれないけど、如月が1番好き…大好き……うぅ……別れたくない……うっ…ごめん……だから別れるなんて言わないで……」
「私、別れたいなんて言いましたっけ? もう~~なんで泣いてるんですかぁ」
如月が本を閉じると、俺のそばに寄り、指先で涙を拭った。
「だって~~だって~~めっちゃ目怒ってたし……」
「はぁ~~……バカですね」
ぎゅっと、如月に抱きしめられ、優しく唇が重なった。
「怒ってはいましたけど、部屋を出たら冷静になりました。まず、睦月さんから誘った訳ではないですし。泥酔している相手に、欲情させるようなことをする方がおかしいですから」
「それに、こんなことで崩れるような関係なら、要らないかなって。でも貴方は私のところへ戻ってきた」
如月が再び、ベッドに腰掛けると、俺に向かって、手のひらを差し出した。
「じゃあ別れなくていいの?」
俺の方へ伸ばされた手に、導かれるまま手のひらを重ねる。重ねた手が勢いよく引かれ、そのまま一緒に寝転んだ。
「だ~か~ら~~別れたいなんて、一言も言ってないですって」
如月の腕の中で聞こえる鼓動が、俺の鼓動を早くする。ふと、気づく。
ベッド、ダブル? 卯月とダブル? 外へ目線を送ると客室露天風呂。え……。卯月と露天風呂? はぁああああ???
「き、如月さん。ダブルですね。このベッド」
「えぇ。卯月さんを抱いて眠るためのベッドです」
「だ……抱く……??」
あまり何かを言える立場ではない。抱くって、卯月とえっちして寝るってこと?!?!
「ろ……露天風呂がありますね、部屋に……」
「えぇ。夕陽みながら一緒に入りました。気持ちよかったなぁ~~露天風呂の中で、こうやってね、後ろからぎゅーーってして。肩に顎を乗せるんです~~」
い、妹と風呂入ってる!!!! 俺の肩に如月が顎を乗せ、ぎゅっと抱きしめてくる。そんなことを妹と風呂で?!?! 色んな妄想が掻き立ち、冷や汗が出る。
「卯月と出来てるの? ねぇ?! 卯月と出来てるの?!?!」
「さぁね~~」
「って、ちょっと! 何してるの?!」
如月に体が起こされ、後ろから帯が引っ張られた。目線を上に向け、如月を見ると、クスッと艶かしく微笑む如月と目が合った。
「浴衣っていいですよね~~お風呂、入りません?」
「え、一緒に入るの?」
「イヤですか? あんなに入りたがっていたのに?」
イヤなわけない。ただ、急に恥ずかしくなってきて、頬が染まる。解けた帯が、床に捨てられ、肩からゆっくり、浴衣が下ろされた。
「あ……ちょっ……」
「ふふ、可愛い。恥ずかしいの? いつもと雰囲気違いますもんね。それに浴衣ですし?」
ちゅっ、ちゅ。
むき出しになった肩に、口付けされ、顔が熱くなる。は、恥ずかしい……。
「んっ……露天風呂はぁ?」
「入りますよ、汚い女が触った体は綺麗にして、私色に染めなきゃね」
肩からずり落ちた浴衣が、如月に剥ぎ取られる。如月が首を傾げ、俺を見つめた。切れ長の茶色の瞳にドキッとする。
「……脱がしてくれないんですか?」
「えっ……」
「この前の威勢はどこに行ったんですか。ほら、脱がしてよ、睦月さん」
如月の方を向き、そっと帯に手を伸ばす。帯を引くと、如月の浴衣が緩んだ。浴衣の|上前《うわまえ》に手を掛け、肩まで広げる。
肌が白い。こんなにゆっくり如月の裸を見るのは初めてかもしれない。肩から浴衣が崩れ、少しずつ肌が見えてくる。みたい。もっとみたい。
性的欲求に従い、崩れ落ちる浴衣を完全に下ろした。
「そんなにみないで」
「ご、ごめん……」
如月がベッドから降り、露天風呂に入る準備をする様子を見て、脳裏にあることが過ぎる。
今日は、もしかして、もしかすると、アレですか?! 念願の最後まで……?!?! 大丈夫、大丈夫だ!!! 落ち着け。|日和《ひよ》るな!!! 俺は新しい扉を開けるんだ!!!
「睦月さん何やってるんですか~~?」
「な、なんでもない!! 今行く!!」
露天風呂で待つ如月の元へ向かう。この後のことを、変に意識してしまい、緊張する。
「女の子と違って、メンズ2人じゃ狭いですね~~」
「……卯月と入るなよぉ……」
ざばぁ。
露天風呂に入ると、湯が浴槽から溢れ出た。露天風呂の淵で腕を組み、顔を乗せる。後ろから如月が、俺の肩に顎を乗せ、軽く抱き寄せた。
一緒に空を見上げると、たくさんの星が、小さな花のように輝いていた。
「綺麗ですねぇ」
「うん。色々あったけど来てよかった」
「お酒は程々にして下さいよ」
「わかってるよ。ほんとごめん」
お互いに、瞳をじっと見つめる。合図をするかのように、如月が首を少し傾けた。腕に乗せていた顔を起こし、如月に近づけ、唇を重ねる。いつもより優しく、何度も啄む。
「ん……んっ…ぁ…んん……ふ……」
少し唇に隙間を開け、また重ねる。来てもいいよ。如月へのメッセージ。
ゆっくり口内に舌先が入ってくる。甘く、優しく、呼吸を合わせながら絡める。俺の後頭部に如月の手が回り、髪を撫でた。
「んんっ……はぁ…んっ…んん…ふ…はぁ…んっ……」
吐息を漏らしながら、より激しく絡め合う。薄目を開けて如月を見る。目が合った。目尻が下がり、心を奪われているような表情だ。愛しい。
激しく絡めたり、ゆっくり絡めたり、緩急を付けながら、この時間を楽しむ。絡まる舌先が少しずつ弱まっていき、唇から離れた。
「んっ……んんっ……はあっ」
露天風呂の温度と、身体の中の熱で全身が熱くなる。キスをしているだけなのに、下腹が疼くなんて、恥ずかしくて、如月に言えない。
「如月、好き」
「知ってますよ。先に上がりますね」
如月が露天風呂から出ると、少し立ち止まり、振り返った。
「私も好きですよ、睦月さん」
如月の言葉に、顔が真っ赤に染まる。
露天風呂の淵に腕を乗せ、顔を伏せた。長いキスに触発され、身体中は熱く、すごく如月とシたい。お酒を飲んでいた時とは違う。理性は働いている。自分の意思だ。
そもそも、最初から、そういう流れなはず。
雰囲気に飲まれて、露天風呂から中々出て行けない。初めてな俺は、心がなんだか落ち着かなくなる。でも怖くはない。甘いひと時を過ごそう。
俺は露天風呂から出た。
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