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13話(6)#初めてのえっち。繋がる身体は絶頂へーー。
何かやって、ですか……。
感じたことのない快感で頭がぼうっとする中、如月の言葉に耳を傾ける。今にも身体はおかしくなりそうだ。
指が抜かれても尚、身体の中の熱はおさまる気がしない。
「何を……?」
頭がぼんやりしてしまい何も考えられない。とりあえず手を伸ばし、如月のバスローブの紐を引っ張る。慰安旅行の浴衣を思い出し、顔が赤面してしまう。
「なんで赤くなってるの。何をって……私に訊きます?」
如月は睦月から降り、ベッドに横になった。
体は既に限界。力が入らず、身体を起こすのが精一杯。それでも最後の力を振り絞って、如月に覆い被さる。
「ちょっとキスして、触ってくれるだけでいいですから」
なんか、その言い方むかつくな。ちらっとベッドに置かれたローションを見る。同じ目に遭わせたい。でも体が疲れて、取りに行く気が起きない。
「今、一瞬悪い顔した!」
何かを察したのか、如月は身体を起こし、こちらを警戒する。
「えぇ~~? やって欲しいんでしょ?」
指先に力を入れ、首を鳴らし、軽く準備運動をする。如月を気持ち良くさせてあげたい。
「あは……いや、違……違わないですけど……そんながっつりは……要らな……」
如月は顔をひきつらせ、後退りする。ふ。ならがっつり気持ち良くさせてやろう。ニヤリと笑みを浮かべる。
「俺さぁ、もう身体怠くってしょうがないんだよねぇ~~動けないし。激しくは出来ないからさぁ、これで勘弁してね」
四つん這いになり、後退りする如月に近づき、下着を思いっきり下げ、顔を近づける。優しく手で触り、口をあけ、そっと口内へ入れた。
「ちょっと!! 荒いんだって!! ちょ……え? うそ? それやるの? 本気? 本気ですか? ~~~~っぁあっ」
してもらうことはあっても、自分がしたことはない。でもそれほど抵抗は感じない。男だからこそ、どうすれば良いかも分かる。舌先で刺激し、口内に唾液を含みながら攻めていく。
如月が愛おしくて、気持ち良くなって欲しいという気持ちで続ける。ただ、大きいな。顎が疲れる。
「~~~~っん…はぁ……ダメだって……あぁ……あんまりやると出ちゃうからぁ」
頬を赤らめ、少し身を捩り悶えている姿が可愛くて仕方がない。
口元と手のひらから、感じていることが分かって嬉しい。口内に少しとろみが広がり、ここまでだと悟る。口元から離した。
「……はぁ~~……もう~~ーーっ」
息を吐く暇など与えたくはない。如月の顎を持ち、唇を重ねる。顔を傾け、もう一度。如月の呼吸を掴みながら、舌を差し込み、ゆっくり動かす。舌を遊ばせるように絡ませる。
長いキスに感情が高ぶり、のぼせてくる。もう限界だ。それは如月も同じだろう。タイミングを合わせ、唇を離した。
「ーーはぁっ…はぁ…睦月さん、大好きです」
瞳は潤み、口から糸が引いている。|艶《なまめ》かしい。そそられる。
「ーーはぁ…俺も大好きだよーー」
心を誘うような色っぽさに惹かれ、糸の引いた口元を舌で拭う。
「っ……はぁ……睦月さん…痛かったら手を上げてくださいね…はぁ」
ゴムを口にくわえ封を切り始めるのをみて、経験のない領地に踏み込むことへの不安が過ぎる。
「……歯医者か」
いつもとは違い、荒々しく、獲物を食べるかのように押し倒された。
「ちょ……っ! んっぁあっ!!」
とても変な感じ。入ってくる。少しずつ奥に。でも、気持ち良い……。
「っん あぁっあっ ぁあっはぁ…」
近い。すごく如月が近い。体と体が触れ合う。ずっと良いところで止められ、我慢していたせいもあり、すごく気持ち良い。
「はぁ…ぁあっ あっ、あっ ああぁっ」
奥まで入り、突かれる度に体が身震いする。頬を染め、荒い息遣いで、恋焦がれるような眼差しを向ける如月に色香を感じる。こんな顔もするんだ。知らなかった。
もっと、もっと、強く抱きたい。そんなこと今まで誰かに対して思ったことなかった。背中に手を回し、如月を力強く抱きしめる。強く抱きしめると気持ち良さが更に増す。あぁ、もう……。
「はぁぁあっ……はぁ……」
腕の中の如月を見る。ビクビクっと震えながら、堪え、そのまま、倒れ込んできた。動こうとしない。そっと頭を撫でる。このひと時、ちょっと幸せ。
「はぁ~~、越えてしまったぁ~~」
急に恥ずかしくなり、両手で顔を隠す。
「は、早く帰らないと……」
如月は何か思い立ったように、睦月から離れ、身体を起こす。どこかへ行こうとした。なんか顔めっちゃ赤いし。
「ねぇ、照れてるの?」手を掴み、引き止める。やっぱり顔赤い。
「ぇ……中学生を家に1人で置いておくわけには……」無視すんな!
「照れてるんだ、へ~~」ニヤニヤしながら、如月を見つめる。
「違っ!! ……|愛してる人《睦月さん》と……」よく聞こえない。
「なに? なになに?」如月に詰め寄り、顔を寄せて訊く。
「……っ……やってしまった……どうしよう……」
耳まで真っ赤になっているが、どこか表情は絶望している。
「罪悪感とか感じられると傷つくんですけど……」如月の横顔を見つめる。
「あ……」気まずそうに横を向き、睦月を見つめる。
「きっかけは微妙だったけど……俺は良かったよ?」
恥ずかしい、言っててめっちゃ恥ずかしい!! 恥ずかしさで顔が熱くなり、顔を逸らす。
「うっ…かわいい……もうシない!! 睦月さんとは二度とえっちもしない!!」如月は着替えを始める。
「ーーは?」
なんで? 思わず目が濁る。それは困る。俺としては今以上にもっとシたい。挿れてみたいとすら思う。これは如月の貞操概念? どういうこと? それ以上聞くことも出来ず、自分の服を手に取る。
もう少しゆっくりしていたかったが、卯月のことを考え、早々と帰る準備をする。着替えを済ませ、身なりを整え、ホテルを出た。
時間は深夜を過ぎている。人は殆ど歩いていない。
「帰りは徒歩なんか~~い」
歩けない距離ではない。節約にもなるし、大歓迎だ。
「……手……繋いで……帰ろうかなって……」
目線を下げ、頬を染め、如月は言う。なんと、かわいい。こんなかわいい顔をするやつだったかな。
「如月から言うなんて初めてじゃな~~い?」
人目のつくところで如月から誘ってくるのは初めてだ。嬉しくて口元が緩む。
「はっ……別に繋がなくてもいいです」
横並びで歩く如月の指先を触る。最初は握り合ったが、自然と、手のひらが重なり、指を絡め合った。
カシャ。
如月が振り向く。
「どした~~?」
突然、足を止め、振り向く如月に声を掛ける。
「いや、別に……気のせいかも」
辺りをキョロキョロみて、また前を向く。
「そう?」
どうしたのだろう。あまり気には留めず、再び家に向かい、歩き始めた。
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*
ーー翌朝
……全然眠れなかった。寝不足で頭が痛い。気を遣って起こさなかったようだ。睦月さんと卯月さんはもう行ったみたいだ。
布団から起き上がり、和室を出て辺りを見回す。テーブルには朝食と昼食が置かれている。ありがとう。
「はぁ~~~~」自己嫌悪。
蒼とかいう女が睦月さんに近づいてきても、反応しない身体にしてやろう、睦月さんを取られたくない、そんな考えの自己都合で、やってしまった。
なのに、終わってみると、幸せに満ちてる睦月さん。自分自身も心と体が満たされたのは間違いないけど、すごく罪悪感。
「どうしよう!! 挿れたら駄目でしょうが!!」
壁に頭をぶつけてみる。ズキズキ。額が痛い。
睦月さんの将来を考えて、今まで最後までシてこなかったんじゃなかったのか。わかってたのに!! うまく乗せられたり、良いように解釈したりして、結果このざま! ぁあああぁあああ!!!
「責任の取り方が分からない!!!」
そもそも、責任の取り方なんて、相手の将来を想って別れるしかない気がする。いつかはそうなるかもしれないけど、まだ別れたくない。
睦月さんにはもう二度とシないって宣告した。やらなければ、身体は忘れるはず。知らんけど! それでいこう。でも、同じ家に住んでるのがネックだ。性欲、抑えられるかなぁ……。
用意された朝食を食べ、和室に戻り、最近止まっていた執筆を始めた。
*
職場に着き、経理課まで行くと、蒼が入り口に立っていた。朝からげんなりする。鞄を自分の席へ置き、この前のところへ蒼と場所を移動する。
「もう別れてるし、迷惑なんだけど」冷たく蒼に言う。
「そんなこと言ってぇ~~今日は良い話持ってきたんだよぉ?」蒼は手を後ろに組み、顔を近づける。
「何?」蒼は耳元に口を近づけ囁いた。
「……1回セックスしてくれたら諦めるよ」
「え……?」動揺。そんなこと良いわけがない。
「1回でいいんだよぉ? そしたら、睦月くんのこと、スッパリ諦める~~」本当に?
「俺、恋人がいるから、そういうのは……」
「じゃあ、この前みたいに内緒でずっとこういうの続ける?」それは困る。
う~~ん。勝手に決めて、また如月とケンカみたいになるのは嫌だ。それ以前に、どうにかしろと言われても、どう始末していいか分からない。相談が必要だ。
「ちょっと……持ち帰らせてください」颯爽とこの場を離れ、経理課に戻ると神谷が居た。
「おはよう、神谷。昨日と同じワイシャツだね」神谷の顔をじーーっと見つめる。
「おはよう、佐野。ワイシャツ、アイロンかかってないね」
お互いの顔をじーーっと見つめ合う。お互い何かを抱えているのは間違いない。
「俺、神谷に相談したいことがあるな」
「僕、佐野と如月さんに報告したいことがあるな。仕事終わりに家、行ってもいい?」
「いいけど……」
報告? 皐さんと付き合ったのかな。それは良かったなぁ。今言ってくれても良いのに。
でも今は祝えるような気分じゃない。決着はつけたいが、こんな、形でつけて良いものか。如月はなんて言うかな。
心につっかえを残したまま、今日の業務に取り掛かった。
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