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15話(2)
如月はちゃんとたこ焼きの材料を買ってきてくれたかな? タコパに胸を躍らせ、階段を颯爽と駆け上がる。思いっきりドアを開けた。
「ただいまぁ~~!」スニーカーを脱ぎ、リビングへ行く。風通りの悪い和室は暑いらしく、如月は最近リビングで執筆している。
「おかえりなさい」如月はノートパソコンから顔を上げ、微笑んだ。今日は丸メガネだ。丸メガネイイよ、丸メガネ。最近良さが分かってきた。キレイめなのにメガネを中心に柔らかい可愛さが出るよな。
「仲直りできた?」1番の心配事。
「あ、はい。もう大丈夫です」如月は嬉しそうに頬を赤らめた。私の知らない何かをしたのだろう。
「たこ焼きの材料は買ってきてくれた?」
「買ってきましたよ~~」如月は台所を指差す。
「ありがとう!」台所に置かれたエコバッグの中身を確認する。
「…………イカ?」トッピング的な?
「キャベツ?」たこ焼きってキャベツ入ってたっけ。
「もやし?」たこ焼きって、もやし入ってなくね?
「牛肉?」これ、たこ焼きに入れるやつ?
「お好み焼き粉?」もはやたこ焼きじゃない!! そして冷蔵庫にしまえ!!
「如月!! これ、いかたま!!!」こいつに頼んだ私がバカだった……。
「えぇ? 竹串でくるくるすれば、皆、たこ焼きでしょ」如月はノートパソコンを閉じ、抱きかかえ、立ち上がる。洋室からたこ焼き器を持ってきた。ノートパソコンは和室に置いてきたようだ。
「まぁ、確かに?」台所下からボウルを取り出す。
「ほら、準備しましょ」リビングの机にたこ焼き器をセットし、温める。
ボウルにお好み焼き粉と卵、みじん切りにしたキャベツ、もやし、牛肉を入れ、混ぜていく。これぐらいなら私にも出来る。あとは流し込んでくるくるするだけ。楽勝だ。
「たこ焼きって簡単ですね~~」
「あとはくるくるするだけっしょ」
ーー卯月と如月はたこ焼きを完全に舐めプしていた。たこ焼きなんて、生地流し込んで、竹串で適当にくるくるやっときゃ、たこ焼きになるだろうと。
「生地ってどれくらい入れるの?」如月に訊く。
「穴から生地が溢れて境目が見えなくなるまでかと。知らんけど」
「なるほど」境目という境目が完全に見えなくなるまで生地を注ぎ込む。
「あ、油塗り忘れました」思い出したようにキッチンから油を持ってくる。
「ぇえーー!! もう入れちゃったよ!!」
「どうしましょ」如月は渋い顔で卯月に油を渡す。
「上から油入れとく?」油を回しかける。
「ないよりいいですかねぇ?」如月の顔が更に渋くなった。たこ焼きに油が浮く。
プレートはぐつぐつ沸騰している。生地にどろっと感がないのはお好み焼き粉だからだろうか。
「量、入れすぎでは?」如月は眉を顰める。
「今更言う? くるくるすれば人類皆、たこ焼きさ!!」竹串を如月へ一本渡す。
「あ、イカ入れてないです」
「え! しっかりしてよね~~」穴がどこにあるか分からないので、適当に振り撒く。
「なんていうか……膨らんでね?」たこ焼きってこんな風に膨らむものだったっけ。
「くるくるしろっていう訴えでは?」
「なるほど」穴がどこなのか分からず、竹串で適当に8等分の切れ目を入れる。
「いや、そんなに穴少なくなかったでしょ。こんな感じでは」如月が横にもう一本線を入れていく。
「あんまり変わってなくない?」ピザのように、斜めに区切る。いい感じ。
「いやいやいや!!! 横に区切りましょうよ!!!」如月は修正するかのように横線を増やす。
「穴みっけ」
溢れた生地を穴に集める。んーー。なんか上手く集まらない。というか、穴に収まりきらない。生地が膨張し、容量オーバー。それに加え、注いだ生地が多すぎる。
「焦げてきました!!! どうしましょ!!」如月が慌てたようにたこ焼きの穴に生地を集める。
「え!! あ!! とりあえず穴から全部ほじくりだして、フライ返しで一気にまとめてひっくり返そう!!!!」キッチンからフライ返しを取り出す。
「え? その理論よく分からないんですけど!!!」如月は卯月に言われるがまま、たこ焼きを竹串で掘り起こす。
「如月、焦げちゃうよ!! スプーンでやって!! 中央に全部集めて!」スプーンを如月に渡す。
「え? 中央? こう?!」もはや、ぐちゃぐちゃ。真ん中に掘り起こされた生地が集まる。
「大丈夫ですか!! これ!! 掘り返したのなら、反転 すればよかったのでは?!」如月は一生懸命、スプーンで穴から、救出し、中央へ集める。
ぱんぱんぱん。フライ返しで集めた生地を叩き潰す。
「何してるの?! 生地足す?!」如月は集めた生地の上から、お玉で液状の生地を少しかける。たこ焼き同士、接着。
「えいっ」フライ返しでまとめてひっくり返す。
じゅうぅ~~。
「……たこ焼きとは?」如月は首を傾ける。
「たこ焼き器でやれば全てがたこ焼きです」
「なるほど」
お好み焼きにしか見えない。これをお好み焼きといったら、お好み焼きにも失礼かもしれない。それ以前にお好み焼き粉だし。そして、たこ焼きの穴の意味、無し。
「これ、たこ焼きとして睦月さんに出すんですかぁ?」如月の目が濁る。
「大丈夫、たこ焼きだ」焼けたのを確認し、フライ返しでお皿に移す。
「ほら、たこ焼きっぽいよ?」ソースを垂らし、その上にマヨネーズを斜線状にかける。ついでに鰹節をまぶす。
「これお好み焼「たこ焼きです」
「いや、どう見てもお好「たこ焼きです」
「ていうか、お好み焼き粉を買ってきたのは如月なんだから、如月がお好み焼きとか言うのはナシだよ~~」もう一度さっきと同じ手筈で、作っていく。
「ほら! さっきより固まるの早い! 中央に集めて!!」如月にスプーンを渡す。
「いや、くるくるすれば良くないですか?! 何故あえてまた中央に?!」掘り起こして、中央に集める。
「まとめて、ひっくり返して、焼いて、また穴に分散させる!! そうしたらたこ焼き!!」フライ返しで叩いて潰す。
「集める意味!! ひっくり返したいだけでしょ!!」集めた生地に液状の生地を足し、固める。
「……何やってんの?」睦月が白い目でこちらを見ている。
「お兄ちゃん……おかえりぃ~~えいっ」フライ返しでひっくり返す。
「睦月さぁあん!! たこ焼きの概念が分かりません!!」如月は睦月にしがみついた。
「それ、お好み「「たこ焼きです」」卯月と如月は目を濁らせ声を合わせて遮った。
「まぁいいけどぉ……」睦月は頭を掻き、鞄を下ろした。
「夕飯、作ってくれたんだ……?」睦月は卯月を見つめ、微笑む。
「だって、今週末は父の日 だからね。如月のせいで失敗しちゃったけど」卯月は口を尖らせた。
「私のせい?!」如月は卯月を見る。
「てか、このたこ焼き、油やばいね」睦月は半袖シャツから部屋着に着替え、たこ焼き器を覗く。
「卯月さんが油を入れましたぁ~~」如月が卯月を見る。睨み合い。如月が油塗り忘れたくせに。
「油よりタコの罪の方が重い」如月の頬を引っ張る。
「いぃ~~~~助けて睦月さぁあぁん!!」助けを求め、睦月に手を伸ばす。
「ぇえ~~イカでたこ焼きとか舐めてるでしょ」睦月は如月の反対側の頬を引っ張る。
「ぃいぃいい痛い!!! やめて!!! ケチってすみませんでした!! 許して!!」卯月と睦月は顔を見合わせ笑い、同時に手を離した。
「しかし、罪は償わなくてはならん」睦月は如月を見つめる。
「え?」じんじんする頬を両手で押さえる如月に、睦月は顔を傾け、近づけた。
「ん」如月は唇を重ねる。メガネが少し当たり、顔を離す。
「おぉ~~い!! 2人の世界入るなしぃ! 卯月、卯月ここにいる!」バンバンバン。机を手で叩いてアピールする。
「卯月さん、あれ、作ったやつ」
「はい、これ、ファザーズデイ 。お兄ちゃん、いつもありがとう!!」卯月と如月はお好み焼き状のたこ焼きが乗った皿を手に持ち、睦月へ渡す。
「……2人ともありがとう」口元に笑みを浮かべ、受け取る。箸で少し切り分け、口の中に入れる。
「フツーにお好み焼きだね」睦月は笑った。
「俺はお好み焼きなら豚バラの方がいいなぁ。牛肉って焼くと固くなるじゃん?」如月がショックを受けている。
「つーかこれ、お好み焼き粉じゃん!! 誰買ったの!!」睦月はたこ焼き器を外し始めた。
「如月でーーす」卯月は指を差して報告する。
「ちょっとぉ~~密告しないでくださいよ」
「如月はほんとダメダメだなぁ……ん」睦月は如月の頬に軽く口付けをし、たこ焼き器とホットプレートを入れ替える。
「ーーっ」如月は不意打ちに驚いたのか、キスされた頬を手で押さえる。頬はほんのり赤い。
「少しは妹の前で自粛してよねぇ~~」そうはいっても、いつもドキドキしながら、2人を見ている。
「よし、じゃあ、お好み焼きパで!!」睦月はホットプレートに余っている生地を丸く流し込む。
「結局……」如月は遠い目でお好み焼きを見つめる。
「美味しければなんでもいいじゃん」楽しそうにしている兄を見て、ホッとする。
「今日、改めて2人が兄妹だと感じました」如月はキッチンから何かを持ってきた。
「今回の兄の日は私からプレゼントがありま~~す」如月は包装紙で包まれた箱を卯月と睦月へ渡す。
「え!!」
「え!!」兄妹揃って同じ反応で恥ずかしい。
「開けていい?」如月に訊く。
「どうぞ」
包装紙を広げていく。箱の中に入っていたのは透明の取手付きガラスマグカップ。桜とうさぎが描かれており、すごく可愛い。おしゃれ。
「かわいい~~ありがとう!!」手の上に乗せ、スマホでマグカップを連写する。
「ちなみに私とお揃いです」如月は自分のマグカップを見せる。
「えっ? 俺、雪うさぎなんだけど! なんで俺だけ違うの?? 仲間はずれやだぁ!」如月の服を引っ張る。
「え? だって睦月さん1月でしょ? 私と卯月さんは春なので」如月は3人分のマグカップを流し台へ持っていく。
「何それぇ~~でも、ありがとう」睦月はフライ返しを差し込み、お好み焼きをひっくり返した。
「お好み焼き、美味しいね」兄と如月に言う。
「美味しいです~~」
「めっちゃうまい!!」2人とも幸せそうだ。
ぎゅう。
「お兄ちゃん、だぁい好き~~」睦月の後ろから抱きしめる。
「睦月さん、だぁい好き~~」如月は卯月の上から更に抱きしめる。
「なんかこのパターン前もあったぁ~~ありがとう。俺も、大好きだよ」睦月は腕を後ろに回し、2人の頭を撫でた。
2人の関係性に変化はあったけど、私はお兄ちゃんのことも、如月のことも、今も変わらず大好きだよ。
「ま、俺はお父さんじゃないけどね」睦月は目を細め、優しく笑った。
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