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15話 お兄ちゃんはお父さんではない!
ーー翌朝
「如月、朝ごはんだよ~~!!」
置き時計を見る。まだ朝6時。いつもより早い。睦月さん、朝から元気……。眩しい。
ベッドから身体を起こす。痛……。腰痛い。体だるい。疲れが取れていない。結局、深夜3時頃まで、若さという強靭な肉体に付き合わされた。睡眠時間、3時間。
リビングへ行くと、何事もなかったかのように、艶々した顔で、朝食を並べる睦月がいた。初めて感じる年の差。改めてまた思う。若いって良いね。
「美味しそう……」白米、焼き鮭、豆腐とわかめの味噌汁。朝から豪華。
「鮭はコンビニ飯だけど!」味噌汁が手作りならいい。席に着き、手を合わせた。
「頂きます」
「頂きま~~す!」
「~~んはぁ」味噌汁うまぁ。疲れた体に染みる。
「卯月は皐さんの家からそのまま学校行くって」
「へー。今日朝ごはん早くないですか」
「仕事行く前に部屋もう少し掃除しようと思って。時間を逆算すると、ちょ~~っと余裕なくて、早めた」
何気ない朝の会話。いつもの日常。美味しい食事で心が潤う。
「ごちそうさまでした。如月、茶碗洗っといて~~俺着替えて掃除する」目の前で服を脱ぎ始めるのを見て、サッと顔を逸らす。
「はいはい」睦月の上半身にドキドキしながら、食器を重ね、キッチンへ持っていく。あぁもう。脱衣所で脱いで。
「俺の肌着どこぉ~~」知らんがな。食器を洗う。
「あ、洗濯して干したんだった~~」自己解決してるし。
「如月ぃ~~またここでいちゃいちゃしようね」後ろから抱きしめられる。少し振り返って睦月を見ると、上半身裸、ボクサーパンツ。なんて格好。早く服着てぇ……。
「服!!! 早く着て!!!」無自覚すぎ。嫌でも胸の突起が目に入る。むら。
「あぁも~~何? 朝からカリカリして~~」ぁああぁああ!! むらむらする!!
「あっち、行って!!!」睦月を手で押し撃退する。
「ひどぉ~~い。髪の毛セットしてくる~~」いや、着替えろよ。睦月は如月から離れ、洗面台へ向かった。
*
少し寝不足だが、疲れは感じない。洗面台にある道具を拝借し、鏡を見ながら、髪の毛をセットする。
鏡で自分の上半身を見る。首筋から胸元までキスマークが付けられまくっている。やり過ぎでしょ、如月さん。
私のもの。って言われてるみたいで、愛を感じる。昨日の情事を思い出し、少し頬が染まる。
ーーピンポーン
「え~~誰?」半袖シャツを羽織る。すっかり自分の家だと勘違いし、相手が誰かを確認せず、そのままドアを開ける。
見たことない美魔女的な女性。
俺から見れば若作りしているオバサン。
「…………」
「…………」
ーーバタン
ドアを閉めた。
うん、何も見なかった。知らない。
こんにちわ、そしてさようなら。
「って閉めるなコラァ!!! 開けなさい!!!」ドアを開けようとガタガタしている。必死に開かないよう、押さえる。なんかやばい!! 鍵を閉める。
「居るの分かってるんだから!!! 開けなさい!!!」ドンドンドンドン。こわい!!!
「もう、うるさいなぁ。睦月さん何やってるんですか」如月が玄関まで様子を見に来た。
「あ、いやぁ~~なんか知らないオバさんが……」助けを求めて、如月の服を掴む。
「誰がババアだ!!! 聞こえてんぞ!!!」ひぇええぇえ!!!
「あぁ~ー………………」如月は無言でドアを開けた。
「……はぁ。姉さん、何しに来たの?」きょうだい居たの?!
「昨日、一昨日ずっと電気付いてたから、来ただけ。それ、恋人? 随分若いね」良く見ると、目元は似てる気がする。なんだか怖くて、如月の後ろに隠れる。
「ババアって言ったこと謝れよ、ガキ」きゃあーー!!!! 根に持ってる!!
「ご、ごごごごめんなさ……」如月の背中に隠れながら相手を見る。
「なんだぁ? 顔だけは良いな」ずいっと顔を近づけられる。
「ちょっと、睦月さんのこといじめないでくれます? 中入れば?」如月は眉を顰め、すごく嫌な顔をしている。
「だって、私に彼氏が出来ないのに、弥生に年下のイケメン彼氏がいるなんておかしいでしょ」遠慮もせずに、部屋の中へ入っていく。
「高望みし過ぎなんですよ。ほんと、何しに来たんですか。早く帰ってよ、姉さん」
「SNSみて、少し気になってたの。まぁ元気そうで良かったわ。実家、帰ってこないの?」姉は椅子に腰掛けた。
「帰っても結婚しろとかうるさいし。面倒くさい」如月のこと全然知らないな。新たな一面だ。
「こういう子が趣味なの?」如月の姉にじーーっと見つめられる。むっ。
「カワイイでしょ。睦月さんって言うの」紹介された! あわわ。
「私は小春 。よろしくね。今度遊びに来てよ。うちは女系家族だから男の子が来たら大変だ~~」絶対行きたくない……。
「えっと……佐野睦月……社会人です……?」何言えばいいの!
「何歳なの?」小春は睦月に訊く。
「24……」小春の目が濁る。
「うっわぁ、マジか~~。13も年下と付き合ってんの? 敗北感あるわぁ」
「もう早く帰って」小春は睦月の耳に顔を近づけた。
「……ラブラブなんだね」胸を人差し指で押し、耳元でボソッと呟かれる。なにもう! 姉弟だな! 胸元のシャツを閉じるように握ってキスマークを隠す。
「じゃ、お邪魔した。帰るわ。睦月ちゃん、ばいば~~い。お盆遊びにきてね~~」ぇえ、やだ……。
「お姉さん居たんだ?」小春の帰る背中を見つめ、如月に訊く。
「えぇ。姉2人と妹が2人」うわぁ。行きたくねーー。
「長女と三女は嫁いでるので、帰ってくることは殆どないと思います」
「行かなくていいですよ、あんなとこ。あ、でも睦月さんのおばあちゃんちは行ってみたいなぁ」如月はクスッと笑い、睦月を抱きしめた。
「うちは全然来てもいいよ?」
「そうですか。じゃ、夏休みにでも。早く着替えましょ」如月に促され、着替え始める。ふと時計を見る。
「わ! もうこんな時間!! 急がなきゃ」
「次は佐野家で顔合わせましょうね」如月はにっこり微笑む。
「うん。また週末、ここ来ようね」釣られて微笑み返す。
「良いですよ」
「嘘はなしだよ」
口付けを交わす。身支度をして、家を出た。
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ーーーー
*
佐野家へ戻ってきた。もはや我が家。自分の家よりこっちの方が落ち着く。睦月に叩き起こされ、なんだかんだ一緒に家を出てしまい、午前中のうちに帰ってきた。
リビングの机の上にメモ用紙。
【如月へ 今週末は父の日 です。当日は日曜なのでサプライズに適さないため、平日に決行します。材料買ってきて。うづき】
なるほど。今日は時間もあるし、買いに行こうかな。
そうだ! 睦月さんと一緒に行ったスーパーへ行こう。エコバッグを片手に、如月は出掛けた。
ーー卯月は見誤っていた。如月は大人なんだから、たこ焼きの材料ぐらい1人でちゃんと買ってこれると。
少し古い外観の激安スーパー。久しぶりの戦場。前線で戦っていたのはいつも睦月さん。今日は私が買い物をする。カゴを持ち、スーパーの中へ入る。あることに気づく。
『当店のお支払いは現金のみとなっております』
え? 現金? そういえば睦月さんも現金で払ってたような……。
暗証番号の不要、一括払いの出来る断然QUICPay派の私。現金とかポイント付かないし勿体ない。このご時世、最早、現金は持たない主義。お金持ってたかなぁ。財布を開けてみる。
2000円。
まぁ、買えるよね? 天下の激安スーパーだもんねーー。
歩き慣れない店内を彷徨く。まず、タコでしょ。鮮魚コーナーを見にいく。タコの値段に驚く。
「200g、870円~~?! 高すぎでしょ!!」
財産の半分をタコが占めるというのか! 勿体ない!! ふと、イカが目に入る。イカの切り落とし。300g、430円。おおよそタコの半分の価格で買える。量も多い。イカでいいのでは?
類似品のお好み焼きだってイカ玉いうものが存在する。タコ焼きだからってタコでやらなればいけないなんてルールはないはず。
イカでいいのでは?
カゴにイカを入れる。残り1570円。
あとはたこ焼き粉がいる。たこ焼きって何入れるんだ? 薄力粉が並んでいるところを見にいく。
たこ焼き粉446円。
結構お高いのですね。激安スーパーのくせに野菜以外は定価のような価格だ。粉がなければ作れない。そもそもイカなんだから、たこ焼き粉でやる必要あるの?
お好み焼き粉でいいのでは? 同じようなものでしょ。型に流し込んでくるくるしたら、出来上がったものは、皆、たこ焼きなのでは?
お好み焼き粉375円。
こっちの方が安い。こっちにしよう。お好み焼き粉を手に取る。他に何が要るんだ? 裏面をみる。
キャベツ? 豚バラ肉? もやし、なるほど。イカも入れて、肉も入れるなんて、たこ焼きも大変だな。
キャベツともやしを青果売り場で回収する。あとは豚バラ肉。残金残り1000円。余裕!
睦月さんへのサプライズ。どうせなら、良いお肉を買って喜んでもらおう。精肉売り場で、肉を見つめる。よし、牛肉にしよう。美味しいに間違いない。グラム数を減らせば、ギリギリ持ち金で足りる。牛肉をカゴの中へ入れた。
完璧だ。
美味しいたこ焼きができるに違いない。
会計を済ませ、外に出て、歩き始める。
3話 と違い、今は睦月さんと恋人同士。前回とは心持ちが違う! 絶対に喜んで欲しい! 美味しいたこ焼きを作りたい。
睦月と来た時に寄ったアクセサリーショップの前で足が止まる。別に誕生日とかではないけど。何か良いものあるかな。ちょっと寄ってみよう。店内へ足を踏み入れる。
めぼしいものは特にない。店内を一周まわる。雑貨コーナーで立ち止まる。かわいい。おしゃれ。ガラス製の取手付きマグカップに惹かれる。
睦月さんには似合わないな~~。最近、卯月さんにはいっぱい迷惑かけてるし、卯月さんとお揃いで買おう。
一個ずつ手に取り、絵柄を見ていく。どれが良いかな。やっぱり可愛らしいのが良いよね。相手の笑顔を想像しながら選ぶ。ふふ、たこ焼きもプレゼントも楽しみ。
ガラスのマグカップを3つ取り、会計へ向かった。
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