62 / 102
16話(3)
再び、あじさいの里まで2人で戻る。体は倦怠感でつらい。できれば今すぐにでも寝たい。でも如月の誘ってくれた気持ちを大切にしたい。体に鞭を打って、歩き進める。
「こっちぽいです」ホタルはこちら、そう書かれた看板を如月は指差す。足場の悪い砂利道が続く。明かりはあまりない。真っ暗だ。
「如月」暗闇の先へ行こうとする如月の手を握る。暗くて見えづらい。体温だけでも感じたい。
「あ……そうですね……」お互い、ゆっくり指を絡めた。
静かに聞こえる川のせせらぎ。闇夜にひらひらと舞う、小さな灯り。たくさんいるわけではない。現実世界から離れ、幻のようなホタルの乱舞。光耀くホタルの求愛行動に気持ちが触発される。
俺も求愛行動とっても良いですか?
如月の服を軽く引っ張った。ホタルの恋路を邪魔しないように、静かに目を閉じ、顔を上に向ける。
「…………ん」暗くてよく見えないのか、確かめるように如月の手が顔に触れる。ゆっくり重なる唇。もう場所は分かる。顔の向きを変えて、もう一度。軽いキスを繰り返す。空いてる手で如月の肩に触れる。
「……はぁ……」気持ちがだんだん昂ってくる。深いキスがしたい。如月の唇を自分の唇で甘噛みして、アピールする。
舌がそっと口内に入ってくる。如月の舌の動きに合わせ、絡ませていく。ホタルがつくる、幻想的な雰囲気のせい? 体の中が次第に熱くなる。
激しくはない。優しくて控えめな深いキスが、もっとしたい、そして、その先を望む性的欲求を誘発させる。
「ーーはぁっ……如月……俺……っ」あんなにシたのにもうシたい。
「今日はもうシないよ?」若干引いている。
「ぇえ~~!! せっかくのお泊まりなのに!!」
「睦月さんうるさい。ホタルが逃げる」如月に手を引かれ、来た道を戻った。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
ーー翌朝
朝日と共に目が覚める。ん~~、良い目覚め。心も体も満たされている。隣を見る。如月はまだ寝ている。寝顔、かわいい。ちゅ。頬に軽くキスをする。
朝のセルフチェック。はい、健康~~。元気~~。どうする? 放置する? う~~ん。朝抜くのって結構気持ちがイイ。代償として体の怠さは出る。でも、まぁ休みだしぃ。別にいっかぁ。
如月に跨る。寝息を確認する。一応、寝ている。慰安旅行を思い出す。良かったな、アレ。怒られたけど。どうしよっかなぁ~~。
腕を組み考える。まぁ、ちょっとだけなら……。
「……あなたはそこでナニをしてるんですか?」眉を上げ、切れ長の目を目一杯、見開いている。やだっこわい。
「だっ!」顔面に枕を投げつけられた。
「降りろ!!!」如月は軽く体を起こし、もう一度枕を投げつける。いたい。
「やめて~~ひどいぃ~~」渋々降りる。
寝起き、如月きげんわるい。胸元はだけてる。顔を傾け、目線だけで衿の中を覗く。あ、見えた。えっちぃ。むら。やっぱ抜こ。
「ななななな、なに?」如月は手で胸元を押さえる。
「いいもん、えっちな如月を妄想して抜いてくるから」如月に背を向け、洗面所へ向かう。
「待て待て待て待て!!!!」すごい剣幕で肩を掴まれる。
「なによぉ~~」立ち止まって、如月を見る。
「そういうのは、恋人ではなく、蒼とかいう女で抜いた方が健全だと思います」如月は1人で頷きながら話す。
「はぁ? 俺がそんなんで抜けると思ってんの?」如月の目が濁る。
「俺はね!! 今はえっちもマスターベーションも如月じゃないとイケないの!!! 分かった?!」ショックを受けている如月を振り切り、再び洗面所へ向かう。
「嘘…………」如月は失意のあまり、膝と手を床につき、項垂れた。
んはぁ~~。すっきり。今日は日曜日。どうせ遠出しているなら、ついでに行きたいところがある。項垂れている如月の前にしゃがみ、話しかけた。
「ねぇ。指輪見に行かない?」
「え?」顔を上げ、睦月を見る。
「プラチナのやつ、買おうよ」如月の左手を持ち、薬指に口付けする。
「本気? まだ良くないですか?」
「見に行くだけ。ね?」如月にウインクして、誘う。
「う~~ん……見るだけですからね……」
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
ーーブライダルジュエリーショップ前
「本気でここ入るんですか!! 絶対やめておいた方がいいですって!」如月は店内へ入ろうとしない。
「え? ちゃんとしたやつ買いたいし」かれこれ、1時間くらい店の前にいる。まぁ、同じ質問の繰り返しである。
「暑いし、早く入ろうよ~~」依然と動かない如月に疲れてその場にしゃがむ。
「いやいやいや……私たち同性ですよ……?」
「だからぁ? あ、ちなみに朝予約したんで、あと15分後には必ず入ります」スマホで時間を確認する。
「何勝手に!!!」予約して正解だったな。
如月と一緒に店内へ入った。真っ白なエントランスは結婚式場を思わせる。日曜のせいか、幸せそうなカップルが多く、店内は混雑している。
「やっぱり帰りません?」人目を気にしている。
「大丈夫だって。みんな自分のことしか見えてないし」
「あ、すみません。予約した佐野です」予約してあったせいか、待たされることなく、席へ案内される。
「アンケートお願いします」名前、年齢、購入時期、予算……書かないとダメなの?! 書くけど! 記入量多いな!
「…………」如月は出されたアイスティーを黙って飲んでいる。
「お待たせしました。本日はマリッジリングをお探しということで」幸せそうに笑う女性。この場に相応しい。
「あ……はい」なんだか緊張してきた。
「奥様の好みのデザインやサイズなどは分かりますか?」あー……。如月の方を見る。
「……(だから言ったじゃないですかぁ)」
まぁ、如月とのペアリングを買いに来てる訳だし、隠す意味はない。理解されなくても、ちゃんと伝えなくては。
「奥様はこちらです」手のひらで如月を指す。
「ちょっと!! 紹介の仕方!!」
「あ、そうでしたか。失礼しました。少々お待ちください」店員は席を立って、どこかへ行ってしまった。
「お待たせしました。こちらのデザインはどうでしょうか」男性用のリングのみを持ってきたようだ。何も触れてこないだけ、有難い。
色々付けてみる。うーーん。やっぱりシンプルイズベストかね。ストレートタイプで良い気がする。これ、いいなぁ。値段を見る。
「じゅ、じゅうにまん!!!」高っ!!!
「まぁ、そんなもんでしょうね。もう少し安いのありますか?」
「似たようなものですと、こちらはどうですか?」うーーん。さっきの方がいい。
良いものを先に見てしまうと、それが前提になるせいか、後から出されたものが良いと思えなくなる。いや、何も今日買わなくていい。そう! 見るだけ! 先ほどの金額が忘れられない。
123200+123200=246400円!!! ぐはっ。高っ。結婚指輪、高っ。神谷すごっ。あいつ皐さんのために頑張ったんだな……。
「おーーい、睦月さん。睦月さぁ~~ん」如月に頬を叩かれ、我に帰る。
「ーーほぇっ……な、なに?」如月を見る。
「今日は見るだけでしょ。買う時は割り勘で」
割り勘……。んーーやだ。社会人としての意地と如月 に対する愛のプライド。割り勘は絶対認めない。
「ありがとうございました、また来ます」店員に告げる。
「今日は一旦、帰る。けど……割り勘はしない」号数とデザインをスマホで撮る。
「割り勘でいいですって」椅子を引き、席を立つ。
「これは俺の嫁へのプライドだ!」
「だれが嫁だ……」
何かのタイミングに合わせて作りにこよう。あれ? 結婚指輪を買うってことはプロポーズがいる? ペアリングを買うつもりで来たけど、これってどういう意味合い?
プロポーズとは?
これ、どういう流れで作るの? こういうのっていつから付けるの? 付き合って同棲したら? あれ? 俺たちってどういう状態? 結婚は出来ないけど、これを贈るなら何かケジメがいる? ケジメとは。 あ、プロポーズ?
分からない!! 一旦保留!!
「睦月さぁ~~ん? 帰ってこ~~い」頬を叩く。
「ご、ごめん、もう少し考えさせて……」はっ。また意識飛んだ。
「はぁ? そんなに頭を悩ませるくらいなら、要らないですよ。早く帰りましょ」
「んーん。要る。もうちょっと待っててね」
如月に背中を押され、歩き始める。帰路に着いた。
「ただいま」家に着いた。
「お兄ちゃんおかえり~~どうだった?」ものすごくニヤニヤしている。
「……どうだったとは……」卯月が肘で押してくる。
「え? えっちしたんじゃないの?」なななななな!!!
「我妹どこでそんな知識を!!!」俺の純粋な妹が!
「ネットとかで~~あんだけいちゃつかれると気になるよね、フツーに」悪影響!!
「今度えっちしてるとこ見たいんだけど」なにを言うてんの!
「ダメに決まってるでしょ!!」
「いいじゃないですか、見せてあげれば。燃えるんでしょ」違うわ!!
「あっ、3人でします? 愛欲に絡まる淫らな三角関係。あぁ、愛しき妹よ、俺はもう我慢出来ないぃ~~」如月は感情を込め、演じながらリビングへ行く。
「何それ!! やめて!! あり得ない!! 変なこと言うな!!」如月を睨む。
「あはは、冗談冗談。本気にし過ぎ」如月は睦月の頭を撫でた。
「私は如月となら、シてもいいよ?」卯月がボソッと言う。
「え?」
「え?」
「お兄ちゃんはない、マジでキモい。イクってどんな感じなのかな~~って。シテミタイっていうかぁ~~」お年頃過ぎる!!
「「ダメに決まってるでしょ!!」」
中学3年生。まぁ、まぁ、まぁ。自分が中学生の頃はもっと脳内えろえろだった気がするけど。でもっ、でもっ……。妹のそんな一面見たくないっ! 家でいちゃいちゃは極力控えないと!
「私は睦月さんとしかシませんよ。睦月さんのことが大好きですからね」如月は、ふっ、と優しい笑みを浮かべた。
「如月は俺の嫁っ」ぎゅう~~。如月に抱きつく。いちゃいちゃしないとか、もう忘れたわ。
「嫁ちがう! なんで私が嫁なんですか!」そう言いつつも抱きしめ返してくれる如月、好き。大好き。
「俺のぽんこつ嫁~~」如月を煽る。
「ぽんこつ嫁~~」卯月は如月に抱きついた。
「ぽんこつ嫁とは失敬な!! まぁ、でも、とりあえず? 私が嫁ってことでも良いですよ」如月は上から目線で、2人を見つめ、背中に腕を回す。
如月は卯月と睦月、2人まとめて優しく抱きしめ、微笑んだ。
ともだちにシェアしよう!