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16話(3)

 再び、あじさいの里まで2人で戻る。体は倦怠感でつらい。できれば今すぐにでも寝たい。でも如月の誘ってくれた気持ちを大切にしたい。体に鞭を打って、歩き進める。 「こっちぽいです」ホタルはこちら、そう書かれた看板を如月は指差す。足場の悪い砂利道が続く。明かりはあまりない。真っ暗だ。 「如月」暗闇の先へ行こうとする如月の手を握る。暗くて見えづらい。体温だけでも感じたい。 「あ……そうですね……」お互い、ゆっくり指を絡めた。  静かに聞こえる川のせせらぎ。闇夜にひらひらと舞う、小さな灯り。たくさんいるわけではない。現実世界から離れ、幻のようなホタルの乱舞。光耀くホタルの求愛行動に気持ちが触発される。  俺も求愛行動とっても良いですか?  如月の服を軽く引っ張った。ホタルの恋路を邪魔しないように、静かに目を閉じ、顔を上に向ける。 「…………ん」暗くてよく見えないのか、確かめるように如月の手が顔に触れる。ゆっくり重なる唇。もう場所は分かる。顔の向きを変えて、もう一度。軽いキスを繰り返す。空いてる手で如月の肩に触れる。 「……はぁ……」気持ちがだんだん昂ってくる。深いキスがしたい。如月の唇を自分の唇で甘噛みして、アピールする。  舌がそっと口内に入ってくる。如月の舌の動きに合わせ、絡ませていく。ホタルがつくる、幻想的な雰囲気のせい? 体の中が次第に熱くなる。  激しくはない。優しくて控えめな深いキスが、もっとしたい、そして、その先を望む性的欲求を誘発させる。 「ーーはぁっ……如月……俺……っ」あんなにシたのにもうシたい。 「今日はもうシないよ?」若干引いている。 「ぇえ~~!! せっかくのお泊まりなのに!!」 「睦月さんうるさい。ホタルが逃げる」如月に手を引かれ、来た道を戻った。  ーーーーーーーーーーーー  ーーーーーーーー  ーーーー  ーー翌朝  朝日と共に目が覚める。ん~~、良い目覚め。心も体も満たされている。隣を見る。如月はまだ寝ている。寝顔、かわいい。ちゅ。頬に軽くキスをする。    朝のセルフチェック。はい、健康~~。元気~~。どうする? 放置する? う~~ん。朝抜くのって結構気持ちがイイ。代償として体の怠さは出る。でも、まぁ休みだしぃ。別にいっかぁ。  如月に跨る。寝息を確認する。一応、寝ている。慰安旅行を思い出す。良かったな、アレ。怒られたけど。どうしよっかなぁ~~。  腕を組み考える。まぁ、ちょっとだけなら……。 「……あなたはそこでナニをしてるんですか?」眉を上げ、切れ長の目を目一杯、見開いている。やだっこわい。 「だっ!」顔面に枕を投げつけられた。 「降りろ!!!」如月は軽く体を起こし、もう一度枕を投げつける。いたい。 「やめて~~ひどいぃ~~」渋々降りる。  寝起き、如月きげんわるい。胸元はだけてる。顔を傾け、目線だけで衿の中を覗く。あ、見えた。えっちぃ。むら。やっぱ抜こ。 「ななななな、なに?」如月は手で胸元を押さえる。 「いいもん、えっちな如月を妄想して抜いてくるから」如月に背を向け、洗面所へ向かう。 「待て待て待て待て!!!!」すごい剣幕で肩を掴まれる。 「なによぉ~~」立ち止まって、如月を見る。 「そういうのは、恋人ではなく、蒼とかいう女で抜いた方が健全だと思います」如月は1人で頷きながら話す。 「はぁ? 俺がそんなんで抜けると思ってんの?」如月の目が濁る。 「俺はね!! 今はえっちもマスターベーションも如月じゃないとイケないの!!! 分かった?!」ショックを受けている如月を振り切り、再び洗面所へ向かう。 「嘘…………」如月は失意のあまり、膝と手を床につき、項垂れた。  んはぁ~~。すっきり。今日は日曜日。どうせ遠出しているなら、ついでに行きたいところがある。項垂れている如月の前にしゃがみ、話しかけた。 「ねぇ。指輪見に行かない?」 「え?」顔を上げ、睦月を見る。 「プラチナのやつ、買おうよ」如月の左手を持ち、薬指に口付けする。 「本気? まだ良くないですか?」 「見に行くだけ。ね?」如月にウインクして、誘う。 「う~~ん……見るだけですからね……」  ーーーーーーーーーーーー  ーーーーーーーー  ーーーー  ーーブライダルジュエリーショップ前 「本気でここ入るんですか!! 絶対やめておいた方がいいですって!」如月は店内へ入ろうとしない。 「え? ちゃんとしたやつ買いたいし」かれこれ、1時間くらい店の前にいる。まぁ、同じ質問の繰り返しである。 「暑いし、早く入ろうよ~~」依然と動かない如月に疲れてその場にしゃがむ。 「いやいやいや……私たち同性ですよ……?」 「だからぁ? あ、ちなみに朝予約したんで、あと15分後には必ず入ります」スマホで時間を確認する。 「何勝手に!!!」予約して正解だったな。  如月と一緒に店内へ入った。真っ白なエントランスは結婚式場を思わせる。日曜のせいか、幸せそうなカップルが多く、店内は混雑している。 「やっぱり帰りません?」人目を気にしている。 「大丈夫だって。みんな自分のことしか見えてないし」 「あ、すみません。予約した佐野です」予約してあったせいか、待たされることなく、席へ案内される。 「アンケートお願いします」名前、年齢、購入時期、予算……書かないとダメなの?! 書くけど! 記入量多いな! 「…………」如月は出されたアイスティーを黙って飲んでいる。 「お待たせしました。本日はマリッジリングをお探しということで」幸せそうに笑う女性。この場に相応しい。 「あ……はい」なんだか緊張してきた。 「奥様の好みのデザインやサイズなどは分かりますか?」あー……。如月の方を見る。 「……(だから言ったじゃないですかぁ)」  まぁ、如月とのペアリングを買いに来てる訳だし、隠す意味はない。理解されなくても、ちゃんと伝えなくては。 「奥様はこちらです」手のひらで如月を指す。 「ちょっと!! 紹介の仕方!!」 「あ、そうでしたか。失礼しました。少々お待ちください」店員は席を立って、どこかへ行ってしまった。 「お待たせしました。こちらのデザインはどうでしょうか」男性用のリングのみを持ってきたようだ。何も触れてこないだけ、有難い。  色々付けてみる。うーーん。やっぱりシンプルイズベストかね。ストレートタイプで良い気がする。これ、いいなぁ。値段を見る。 「じゅ、じゅうにまん!!!」高っ!!! 「まぁ、そんなもんでしょうね。もう少し安いのありますか?」 「似たようなものですと、こちらはどうですか?」うーーん。さっきの方がいい。  良いものを先に見てしまうと、それが前提になるせいか、後から出されたものが良いと思えなくなる。いや、何も今日買わなくていい。そう! 見るだけ! 先ほどの金額が忘れられない。  123200+123200=246400円!!! ぐはっ。高っ。結婚指輪、高っ。神谷すごっ。あいつ皐さんのために頑張ったんだな……。 「おーーい、睦月さん。睦月さぁ~~ん」如月に頬を叩かれ、我に帰る。 「ーーほぇっ……な、なに?」如月を見る。 「今日は見るだけでしょ。買う時は割り勘で」  割り勘……。んーーやだ。社会人としての意地と如月()に対する愛のプライド。割り勘は絶対認めない。 「ありがとうございました、また来ます」店員に告げる。 「今日は一旦、帰る。けど……割り勘はしない」号数とデザインをスマホで撮る。 「割り勘でいいですって」椅子を引き、席を立つ。 「これは俺の嫁へのプライドだ!」 「だれが嫁だ……」  何かのタイミングに合わせて作りにこよう。あれ? 結婚指輪を買うってことはプロポーズがいる? ペアリングを買うつもりで来たけど、これってどういう意味合い?  プロポーズとは?  これ、どういう流れで作るの? こういうのっていつから付けるの? 付き合って同棲したら? あれ? 俺たちってどういう状態? 結婚は出来ないけど、これを贈るなら何かケジメがいる? ケジメとは。 あ、プロポーズ?  分からない!! 一旦保留!! 「睦月さぁ~~ん? 帰ってこ~~い」頬を叩く。 「ご、ごめん、もう少し考えさせて……」はっ。また意識飛んだ。 「はぁ? そんなに頭を悩ませるくらいなら、要らないですよ。早く帰りましょ」 「んーん。要る。もうちょっと待っててね」  如月に背中を押され、歩き始める。帰路に着いた。 「ただいま」家に着いた。 「お兄ちゃんおかえり~~どうだった?」ものすごくニヤニヤしている。 「……どうだったとは……」卯月が肘で押してくる。 「え? えっちしたんじゃないの?」なななななな!!! 「我妹どこでそんな知識を!!!」俺の純粋な妹が! 「ネットとかで~~あんだけいちゃつかれると気になるよね、フツーに」悪影響!! 「今度えっちしてるとこ見たいんだけど」なにを言うてんの! 「ダメに決まってるでしょ!!」 「いいじゃないですか、見せてあげれば。燃えるんでしょ」違うわ!! 「あっ、3人でします? 愛欲に絡まる淫らな三角関係。あぁ、愛しき妹よ、俺はもう我慢出来ないぃ~~」如月は感情を込め、演じながらリビングへ行く。 「何それ!! やめて!! あり得ない!! 変なこと言うな!!」如月を睨む。 「あはは、冗談冗談。本気にし過ぎ」如月は睦月の頭を撫でた。 「私は如月となら、シてもいいよ?」卯月がボソッと言う。 「え?」 「え?」 「お兄ちゃんはない、マジでキモい。イクってどんな感じなのかな~~って。シテミタイっていうかぁ~~」お年頃過ぎる!! 「「ダメに決まってるでしょ!!」」  中学3年生。まぁ、まぁ、まぁ。自分が中学生の頃はもっと脳内えろえろだった気がするけど。でもっ、でもっ……。妹のそんな一面見たくないっ! 家でいちゃいちゃは極力控えないと! 「私は睦月さんとしかシませんよ。睦月さんのことが大好きですからね」如月は、ふっ、と優しい笑みを浮かべた。 「如月は俺の嫁っ」ぎゅう~~。如月に抱きつく。いちゃいちゃしないとか、もう忘れたわ。 「嫁ちがう! なんで私が嫁なんですか!」そう言いつつも抱きしめ返してくれる如月、好き。大好き。 「俺のぽんこつ嫁~~」如月を煽る。 「ぽんこつ嫁~~」卯月は如月に抱きついた。 「ぽんこつ嫁とは失敬な!! まぁ、でも、とりあえず? 私が嫁ってことでも良いですよ」如月は上から目線で、2人を見つめ、背中に腕を回す。  如月は卯月と睦月、2人まとめて優しく抱きしめ、微笑んだ。

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