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19話(6)
「如月、遅くない?」卯月に訊く。
「混んでるんじゃね?」
スマホをいじりながら、卯月と2人で待つ。かれこれ、30分以上待っている気がする。まぁ、混むかぁ。こういう場所は。もう少し待ってみよ。
ーー10分経過
「……いやいやいや、遅いでしょ!!」もう待てません!!
「大の方じゃない?」卯月は特に気にも留めず、スマホを見続ける。
「ちょっと様子見てくる」卯月に告げ、如月が向かったお手洗いへ行く。
「居ないし!!!」何故?!
ずっとスマホ見ていたせいで、出てくる瞬間は見ていない……。まさか、お手洗いから、自分の元へ帰ってこないなんて思いもしなかった。
でもなんで? え? 原因、俺? うそ、なんかした? あ。手を繋ぐのを断った……? いや、でもあれは如月が気にするかなって思ったから断ったというか。
あれ? でも誘ってきたのは如月からか。断る必要って……
なくね!!!!(がーーん)
むしろ、ひどいことをした説。あんまり自分から誘わない如月から言ってきたのに断ったとか……2度と手なんか繋がないとか言われそう!!(正解)
でもどこ行ったの?! この短時間で?!
また放浪癖?! もぉやめてよぉ~~!!
お手洗いから戻り、卯月に話しかける。
「如月、いませんでした」
「マジかぁ、どこ行く?」なんでそんなあっさり。
「とりあえず連絡を……」手に持っているスマホで如月へ電話をする。
繋がった。
『あ……睦月さん? 今戻りますから、待っていてくださいね』
「え?」会話、3秒。切るの早。
その場を動かず、如月を待ち続ける。待てる男だな、俺。遠くの方から如月が歩いてくる姿が見えた。やっぱりどっか行ってたんじゃん。なんだよ、連絡なしに。
「どこ行ってたの?」じーーっと如月を見つめる。
「えっ? いや、どこも……」如月の目が泳ぐ。なんだ?
「なんか、あるの?」気になる。
「えっ? な、なにもないですけど……」焦りの色が見える。
「何?」追及。
「べ、べつに。ちょってぷらっと歩いて帰ってきただけというか……」変。
「ふぅん?」疑いしかない。
なんか、香水くさいですよ。如月さん。付けないでしょ、アナタ。旭と居たんじゃないの? 俺に黙って密会ですか? 何してたの? 旭へのヤキモチで顔が曇る。
「今からどこへ行きますか?」如月は睦月と卯月に訊いた。
「ランタンの打ち上げイベントがあって、見に行きたい」卯月が答える。
「そんなんあるんだ」モヤモヤするけど一旦保留にしよ。
展示場を出て、イベントホールへ向かう。陽は少しずつ暮れ始めている。ランタンが打ち上げられるには良い頃合いだろう。
「ちょうど今から始まるね!」卯月はランタンを手に持つカップルや、家族たちを眺めた。
「どうせなら、チケット買って参加すれば良かったかな?」羨ましそうに眺める卯月の頭を撫でる。
「いいよぉ、別に。一緒に見ることが出来ればそれで」卯月は睦月をみて微笑んだ。
「そう? ありがとう」人の手から空へ浮かぶランタンを見つめる。
LEDが中に入っている色とりどりのランタンは淡い光を放ち、空高く打ち上がっていく。とても綺麗。隣に立つ如月が話しかけてきた。
「……えっと……嘘は吐きません。旭さんと居ました」でしょうね!
「……色々思うところがあり……睦月さんの元へ戻ってきました……」如月は俯いた。
「ふーん?」俯く如月を見る。
「『如月弥生』として、セクシュアルマイノリティを世間に公表します」如月は顔を上げ、睦月を見つめた。
「え? なんで? 良いんじゃないとは言ったけど……如月自身が苦しくなる道は望んでないよ」如月は真剣だ。
「ふふ、ありがとうございます。でも…これは……その……私が睦月さんと……えっとぉ……うぅん……」如月の頬が赤い。声が小さくなり聞こえづらい。口ごもり、歯切れが悪い。
「なに? よく聞こえないんだけど?」そっと如月に寄り添う。
「えっ……ちょ……はぁあ……」顔、赤いですよ。
「早く続き言ってぇ~~」顔を手の甲で隠す如月をじーーっと見つめる。
「……む、睦月さんと……一緒に色んなこと楽しみたいし……睦月さんの喜ぶとことはしたい……ので……そ、そうすると……か、隠しているより……公表した方が……睦月さんと……い、色んなことが出来る……」なんか可愛いこと言ってる。顔が見たい。如月の手を掴み、顔からずらす。
「ぇえ~~っそんなこと思ってくれるの? 如月って俺に対してなんていうか……塩みたいなとこ多いし……どこか面倒くさそうだし……だからすごく嬉しい!!」嬉しさのあまり、目が笑い、細くなる。口角が上がり、顔いっぱいに笑顔が広がった。
「それでですね……て……ん~~っ……えっと……て……あの…その……」如月は睦月から目線を逸らし、恥ずかしそうに人差し指で頬を掻く。
「なにぃ?」もう旭とかどうでもいい。如月が、赤面してまで、何を言い出そうとしているかも分かる。顔の綻びが止まらない。
「……手…繋ぎませんかっ! 睦月さんっ!!」如月は顔を真っ赤にし、ギュッと目を閉じ、言い切る。かわゆ。キュン死にする!!
「うんうん~~繋ごぉ~~あの時は断ってごめんねぇ~~もう2度と断ったりしないよぉ~~」顔がふにゃけるわぁ。
「お兄ちゃん、デレやばい」つっこむな。
「いやぁ~~もぉ嬉しくてぇ~~」如月は手を伸ばし、睦月の指先を触った。
そんなんじゃ『繋いだ』にならないよ。仕方ないなぁ~~。
手の甲に指がつくまで、ゆっくりと、指を差し込んでいく。指がこれ以上進まないくらい、奥まで入ると、手のひら同士にあった隙間は閉じた。
横目で如月を見る。視線に気づいた如月は柔らかく微笑み、口を開いた。
「ランタン、綺麗ですね」
「やっぱりチケット買えば良かった。そうしたら、一緒に打ち上げられたぁ……」残念。
「私はランタンの打ち上げより、これで良かったです」如月は繋がれた手を睦月に見せた。
「じゃあ~~、手繋いでるついでにちゅーしちゃう?」如月に少しだけ顔を近づける。
「……う~~ん。ここ、人多いですし、周りから見て、メンズ同士の公然のキスはどうかと……」如月は空いてる手で少し頭を掻く。
「大丈夫だよ、イケメン×イケメンなら推せるから」卯月がウインクをして、2人の背中を押す。
「どういうこと……」
「妹が腐っていく……」如月と睦月の目が濁った。
「もういっそ、推してもらいましょう」如月は首を傾け、睦月に顔を近づける。
「ぇえ~~?」目を軽く閉じ、唇を重ねた。
指が絡まり、触れ合う手と手。重なる唇。相手が男とか、女とか、周りが自分たちの関係をどう思おうが、そんなの関係ない。
この繋がっている手の先にいる、如月のことが好き。ただ、それだけ。それはきっと如月も同じのはず。
如月が俺と色んなこと楽しみたいように、俺も如月と色んなこと楽しみたい。もっと喜ばせたいよ。
如月は何をしたら喜んでくれるのかな?
空に放たれるランタンを見つめながら、隣に居る如月のことをぼんやり考えた。
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*
ーー夕食、ホテル
「明日の予定を決めます!!!」
遊園地から帰宅し、ホテルの部屋で夕食を取ることになった。兄の金銭的節約のため、コンビニ食だ。旅費を少しでも多く観光に使いたいらしく、削れるところは削りたいらしい。
「大阪にきて串カツしか食べてないし!」不満しかない。
「お好み焼きとか、たこ焼きとか、食べたいです~~」如月は悲しい表情を浮かべ、コンビニ弁当を口に運んでいる。
「うるさいなぁ~~めっちゃ金使ってるんだから仕方ないの!!」
「まじ、けちくさ」コンビニ弁当を食べ終わり、ビニール袋へ空き容器を入れた。
「けちじゃない!! 明日! どうするの?!」睦月は食べた容器を片付けながら、2人に訊く。
「大阪を食べ歩いて、帰宅でお願いします」如月は本を片手にベッドへ寝転がり、言う。
「如月に一票」手を挙げ、如月に賛同する。ぶっちゃけ、少し疲れた部分もある。
「タワーとかさぁ、行こうよ~~」睦月はつまらなさそうに声をあげた。
「大阪に来たからには食に徹します」如月って食べること好きね。
「われも食に徹します」だって全然食べてないし。
「何、2人してぇ~~!!」睦月はベッドに倒れ込み、枕へ顔を伏せた。
この部屋、兄と如月の部屋だけど、ベッドひとつしかない。ダブルじゃん。しかも私より少しランク高い部屋じゃない? そこに金注ぎ込むなよ。
「フツー、ダブル取るかね?」じーーっと兄と如月を見つめる。
「あぁ……えっと……シングルで取っても最終的に同じ布団で寝てしまうことに気づいて、意味がないというか……」如月は目線を逸らしながら答える。
「えっちしちゃうから?」笑顔で兄に訊く。
「え゛ こっちに振るな!! どうでも良いでしょ!! ご飯食べたんだから早く部屋に戻れ!!」知られたくないらしい。
「ぇえ、ヤダ。だって1人で寝るのさびしいもん~~」いつも3人で寝ているし、知らない土地で、ホテルに1人は少し不安になる。
「ベッド広いし、良くないですか?」如月は体を起こし、手を差し出してきた。
「卯月のためにシングル取った意味~~」睦月はベッドの隅へ移動する。真ん中にスペースが出来る。いつもの私の場所。
「やったぁ~~今日は3人で寝れる~~」如月の手を掴み、真ん中へ寝転がる。
「あ、いちゃいちゃしないでね」左右にいる2人を交互にみた。
「しないしない」如月は本を読みながら淡々と答える。
「しないしない」睦月はスマホをいじりながら棒読みで答えた。
うさんくさ。
「とりあえず私はシャワー浴びて寝る!!」ベッドから降り、浴室へ向かった。
「行っちゃったね?」如月は睦月を見る。
「だねぇ?」顔を見合わせお互い、妖しい笑みを浮かべる。如月は睦月の上に覆い被さり、口を開いた。
「あんまり大きな声出しちゃダメだよ。あといつもより早めで」
「普段から早いみたいに言わないでくれる?」如月は睦月のTシャツの下に手を這わせた。
バン!!
脱衣所の扉を開ける。
「……ぁあっ……えっ?」押し倒される兄と
「うそ?」覆い被さる如月。
こ、これは!! えっちする現場!!
な、何?! 私がお風呂入ってる隙にえっち?!
「着替え持っていくの忘れた!! って何やってんの?!」2人を交互に睨む。
「…………」如月は睦月から下りた。
「あ、えっとぉ……」
「やめてよ!! 一緒に寝る布団なんだから!! 汚れたらどうすんの!!」2人を正座させ、説教する。がみがみ。
「すみませんでした」
「すみませんでした」
「いちゃいちゃしないって言った側から破って!! 節操がないな!! マジで!!」スパァン。職員室のスリッパで2人の頭を順番に叩く。
「痛っ!! すみませんでしたぁ」
「痛ぃ~~ すみませんでしたぁ」
睦月と如月は土下座して卯月に謝ったのであった。
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