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21話(4)

「にゃんにゃん王国?」いかにも猫がたくさんいそうな場所の前で小春は立ち止まった。 「多分この中にいるんじゃないかなーー」 「猫が好きなの……?」首を傾ける。 「彼氏のくせに知らないの?」呆れている。 「え……うん」そう言われると少し傷つく。小春と一緒に部屋の中へ足を進めた。  自分のことを基本的に話してくれないから、知らないことは多い。お互いのことはゆっくり知っていけばいいと思ったけど、それではダメなのかな。  それにしても部屋が涼しい。なんて暑いところに居たのだろう。目の前には沢山の猫。現実離れした可愛らしい空間にテンションが上がる。 「ねこいっぱい!! すごっ!! 触っていいのこれ?! 猫カフェみたい!! 行ったことないけど!! はぁ~~猫かわいい!!」  いや、そんなことより如月を探さねば。辺りを見回す。  部屋の隅に座る如月が目に入る。膝の上に猫を乗せ、指先で撫でながら本を読んでいる。ここ、本読むところ違うよ。静かに近づき、隣へ座った。 「こんなところで何やってるの。俺のこと1人にして」口が尖ってしまう。 「あ……ちょっと遊んだら帰ろうと思ったのですが、いつの間にか本を……」はぁ~~。 「寄り道が長くなるなら連絡してくれない?」如月の膝の上にいる猫に手を伸ばし、優しく撫でる。 「そうですね……すみません」めっちゃ如月に懐いてるし。 「あれ? 姉さん?」如月は小春を見て目を丸くした。 「居そうな場所へ連れてきた」お礼言わなきゃ。 「お義理姉さん、ここまで連れてきてくれてありがとうございます」立ち上がり、軽く頭を下げる。 「お義理姉さんと呼ぶな!!!」げんこつで頭を挟まれた。痛い。 「痛い痛い痛い!!! ぐりぐりやめて!! やめてください!! 義理姉さぁん!!!」 「だから義理姉さんやめろ!!!」 「2人ともうるさい……」如月は猫を抱きかかえ、睦月と小春のそばを離れた。 「如月どこいくの?! 助けてよ!!」如月の服を掴み、引き止める。 「君たち煩いからねこがびっくりして逃げる」 「帰る!!!」べしっ。小春は思いっきり睦月の頭を叩き、にゃんにゃん王国を出た。 「いったぁあ!!!!」えーーん。もうなんなの!! 頭を押さえ、小春の背中を見つめる。 「まぁ、良いじゃない。私たち、会えたのだから」  如月は猫に顔を埋め、息を吸った。 「はぁあぁあ~~っ。はぁはぁ。いい匂い。かわゆ。んふ。なに? ここ? いいよ。どう? はぁはぁ。かわゆ。はぁあ~~っ」如月の猫愛に戸惑う。 「ね、ねこ好きなんだね?」へんたい地味た如月を見つめる。 「うん、大好き。でも睦月さんの方が好きだよ」如月は猫と戯れ終わると、名残惜しそうに床へ下ろした。 「次どこ行きますか?」如月と目が合う。 「今日は暑いし、十分みたからもう帰ろうかな。如月、楽しかった?」自分だけ楽しんでしまったような気もする。 「楽しかったです」如月は目を細めて嬉しそうに笑った。 「ならいいけど」さりげなく、手を差し出す。手が握られた。 「あ」如月は妖しい笑みを浮かべた。 「え?」 「睦月さんもねこだったぁ~おうちに帰ったらいっぱい可愛がってあげるね~~楽しみ~~」はいぃ?  性欲は強い方。でもでもぉ~~、昨日のアレのおかげか、しばらくしなくてもいいかな、と思えるほど満たされている。  如月は楽しそう言った。 「にゃんにゃん猫プレイしようね」はぁあぁああ?! 「なにそれ!! 絶対やらない!!!! 無理!!!! 絶対やりませんからぁ~~っ!!!」今度ばかりは絶対やらん!! 「もう今更何やっても平気でしょ」なわけ!!! 「似合うと思うなぁ、ねこみみ」?!?! 「絶対付けないからーー!!!」  受け入れない受け入れない絶対受け入れない!! 如月を睨む。「ふぅん?」と艶めかしく笑われる。 「俺は正統派です!!!!」自分を守れ! 「私が異端みたいに言わないでもらえます?」  くだらない言い合いをしながら、動物園を後にした。  ーーーーーーーーーーーー  ーーーーーーーー  ーーーー  今まで感じなかった暑さによる疲労が家へ着いたことにより、どっと降りかかる。髪の毛は汗で張り付いている。着ている服も汗でベトベトだ。15時を過ぎているのに、まだまだ、暑い。 「ただいま、シャワー浴びたい」  さっさと靴を脱ぎ、家に上がり、リビングへ向かう。もう、脱いでしまおう。Tシャツと肌着を脱ぐ。開放感。熱放出。そのままキッチンへ行き、お茶を飲む。 「お兄ちゃん、おかえり。ねぇ、星奈からいいもんもらった」卯月が背中に何か隠している。なんだろう。 「何もらったの」コップのお茶を飲み切り、卯月に訊く。 「じゃあぁ~~ん!! ねこみみ!!」えっ。  ねこみみのカチューシャを見て表情が固まる。このタイミングでねこみみ。家にないと思って安心していた。ねこみみは今はダメだ!!!! 「いいでしょ~~!!」  良くない!!! いや、これがもし、つけてあげる側なら、「良い!」と喜んだかもしれない。でも、強制的につけられる側。良くはない。こんなもの、必要ない!!!  卯月の持っているねこみみのカチューシャを取り上げる。 「俺がもらおう」ねこみみを手に持ち、ゴミ箱のそばへ行く。捨てよう。 「えっ!! もしかして捨てるの?! なんで?!」卯月は慌てて、駆け寄る。 「これは悪魔のアクセサリーだ。家にあると悪いことが起きる。捨てなければならない」ゴミ箱の蓋を開ける。 「はぁ?! 何言ってんの?! 返して!!」  卯月が手を伸ばして取り返そうとするので、腕を上げ、届かなくする。とりあえず預かって、後で捨てようかな。 「へぇ~~すっごく良いもの持ってますねぇ」あ。バレた!!  高く上げたカチューシャが如月の手によって奪われる。すぽ。頭に違和感。手で頭を触る。ねこみみ。ぁあああぁああぁあ!!! 「かわゆ」猫を見る目と同じ目で如月に見られている。 「お兄ちゃんきも」この如月との差! 「おめめ大きいからよく似合いますね。んふねこです、ねこ。あは。ん~~かわゆ」両手で頬を押さえ、悶えてる如月を見ると、危険な香りがする。早く外さないと。 「睦月さん、なんで上半身裸なんですか? あ、まさかにゃんにゃん猫プレイのために……!」違っ。 「シャワーを浴びるためですから!!」ねこみみを頭から抜き取り、如月に被せる。すぽ。 「え?」  まさか自分が付けられるとは思わなかったのだろう。似合っている。みるみる頬が赤くなる如月がとても可愛い。これならねこみみも悪くない。 「かわいいよ。如月」笑みが溢れてしまう。 「如月かわゆ」俺と反応の差っ!  頬を染める如月が可愛くて、引き寄せられるように口付けをする。如月を見る。ねこみみ、かわいいわぁ。自分がねこみみ付けないなら、にゃんにゃん猫プレイをしても良いな。そもそもにゃんにゃん猫プレイって何? 「私が居ても、もう関係なくキスするね」卯月がじーーっと見つめてくる。 「スミマセン」それだけ気持ちに変化はあった気がする。  それにしても、ねこみみとは良いな! もはや、愛でたい。至高の宝だわぁ。自分が付けなれば。 「そんなに見ないでください」  如月はねこみみを外し、睦月の頭に再度はめた。 「あ」また付けられた!! 「え? 何? いちゃいちゃするの? あっち行こうか?」卯月が空気を読み始める。 「いや、行かないで!! 2人にしないでぇ!!!」卯月の肩を掴む。 「ぇえ~~そう言われると2人にしたくなる」掴んだ手を払われる。和室行きを止める術なし。 「やめてぇーー!! 卯月さまぁ!! どこにも行かないでぇーー!!」  行っちゃったぁ!! 昨日の今日で変なプレイはお断りなんだから!! 「にゃんにゃん猫プレイは致しません」ねこみみを外し、冷たく言い放つ。 「いちゃいちゃしないの?」あう。  そんな言い方ずる。俺がいちゃいちゃすることを断ってるみたいじゃん。別にそういう訳じゃないのに。ずるいよ、如月。  「いや……えっと……」なんと言えばいいのか分からなくなる。 「まぁ? しないなら、それはそれで構わないので。そこにこだわりはないですし。汗かいたしシャワー浴びま~~す」無表情で、何事もなかったかのように浴室へ行ってしまった。  これ、レスになるパターンのやつじゃ。  どうするべき? まぁ交際する上で、えっちが全てではないとは思う。俺がシたくないんだから、シない。うん。合ってるでしょ。  …………。  いや違うんだってばぁ。なんかいちゃいちゃすることの全てを拒否したみたいになってない? なんかそういう感じになってる気がする!! どうしよう!!  如月が浴室から出てくるのを脱衣所で体育座りで待つ。  ガラッ 「何してるんですか、こんなところで」迷惑そうにみてくる。あう。 「えっと……いちゃいちゃはしたい」思いは伝えてみる。 「いや、もういいですって。シャワー浴びたら? 汗かいたでしょ」話を逸らされた気がする。 「え? あ、うん……」如月と入れ替わるように浴室へ入る。  シャワーを浴びながら再考。  解決したのか?『もういいです』とは? どういう意味? この件は終わりましたってこと?! そんな怒ってる感じはしなかったような。てことは終わった話?!  なら、このまま放置でオーケー? まぁ? 一応? いちゃいちゃしたい俺の気持ちは伝えたし? いいよね?  …………。  やっぱなんかすんごい良くない気がするんだけど!!! 気のせい? 気のせいだよね? 誰か気のせいだと言ってくれ!! 「ぁああぁあぁあぁああ!!! 俺のばかぁあぁあぁあぁあ!!!!」  とりあえず、シャワーが終わったら、謝ろう。少し冷たく言い過ぎた部分はある。それに誤解を招く言い方だったと思う。ちゃんと自分の気持ちを言葉にして伝えよう。  きっとそれで全て解決だ!  浴室から出て、バスタオルを手に取り体を拭く。早く如月のところへ行こう。善は急げ。下着を身につけ、リビングへ向かう。  …………居ない。 「卯月ぃいいいぃい!! 如月はどこですかぁ!!!!」リビングで勉強する卯月の肩を揺らす。 「あーあーあーやめれ。なんか散歩してくるって」揺すられながら卯月は答えた。  それって戻ってくるの?! 帰ってこないやつじゃなくて?! 帰ってこないパターンは嫌ですけど!! こういう時、いつも居なくなるじゃん!!! 「あ、夕飯までには戻るって言ってたよ」 「夕飯……」本当に戻るの? 「ご飯作りながら待ってたら?」  不安は消えないが、優しく笑い励ます卯月を信じて、夕飯を作りながら待つことにした。

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